to you now
──アルさんに彼女が出来たという。
それは流石に嘘だろだって、よく告白されるくせに絶対に断る人に彼女なんか。俺は明らかに有り得ないという表情をしてレギオンを見る。
少しだけ寂しそうなシヴァとタナーさんが『彼女も可愛くて性格が良さそうな人だった』『あの子なら安心じゃな〜』とか言うもんだから。
ああこれは本当なのかも知れないと、ファングさんと話してるアルさんを見つめ思った。嗚呼これはどうした事だろう。この気持ちを大事に大切に、何時か来る時の為取っておいたというのに…その前に弾け、これは結局泡になってしまったのか。
「しかしまさか、恋愛は必要無いですみたいな顔してるアルさんに彼女が出来るとは…」
「…そんな顔してる?てかんな噂誰から聞いたの?」
「レギオンです。シヴァもタナーさんも言ってた、彼女は可愛くていい子だって」
「そっか。それはよかった」
「別れて」
間髪入れずに言った台詞を、アルさんは驚いた表情で聞いていた。
ベンチに座っているアルさんがそのまま首を傾げ、足を組み、困った様に笑う。俺ももう何も言わず笑顔を浮かべた。きっとアルさんだって俺が伝えたい事位分かっている筈だ。
「なんで?」
「いいから」
「意味が分からない事は出来ないよ」
「分かってる癖に」
「分からないから聞いてる」
「とりあえず別れて」
「レヴィア」
「別れろ」
命令の様に伝えたたった一言でアルさんの表情が固まった。そして続きの言葉を考えている様な、何が適切かを選んでいる様な顔で宙を睨む。
「…なら、言ってくれない?」
やがてアルさんは一度だけため息を吐いた。その言葉に俺の動作がぴくりと止まり、アルさんは静かに立ち上がる。風に揺られる綺麗な銀色の髪を俺はただただ見つめていた。
「なんて?」
「俺が彼女と別れる事の出来る様に。お前の言葉できっかけをくれないかって」
「…何言ってんすかアルさん、」
「ここまで言ってもまだ言えない?案外意気地無しだなお前」
「アルさん何を…、ていうか、むしろ言っていいんですか?」
「うん。言っていい。…俺はそれをだいぶ前から待ってたよ」
会話は風の様だった。すらすらと流れる言葉が俺にとっては嘘の様に思える。待っていた?アルさんが俺の言葉を?
まさか…貴方が好きだと言う言葉を?しかしアルさんには今彼女がいるというのに?俺の脳内に疑問符が巡る。心は完全に混乱していた。
「それと、臆病者のお前に最後にヒントをあげようか。俺に彼女が出来たなんて噂は、嘘だよ」
アルさんは嬉しそうに言い、またベンチに深く腰掛けた。眉を顰めた俺の隣で、益々嬉しそうに顔を覗き込んで来る。これで全ての事に筋が通った様な気がした。
だから噂好きのレギオンにあえて出鱈目を…あのシヴァやタナーさんさえも、まさかこの俺の為に。ずっと心の中で燻っていたこの気持ちをアルさんへ、伝えさせる為にそんな計画を。
「―…まさか嵌められるとは…。アルさん」
悔しくも楽しそうな男の掌を握ると、アルさんはうん、良い家族を持ったと言い笑った。
…好きですアルさん。ずっとずっと前から。俺は貴方の事が好きだった。
そう伝えた台詞にアルさんは、「遅すぎ」そう言ってまた幸せそうに笑った。