ぱち、ぱち
「…ねぇ」
ぱち、ぱち
「……ねぇって」
ぱち、ぱち
「……クラウディオ」
ぱち、ぱち
「ん?何だ、アルカディア」
アルカディアが名前を呼ばない内は無視を決め込んでいたクラウディオが、ようやく返事をする。
「この体勢、きつくないの?」
ぱち、ぱち
「別に?」
「正面向いた方がよくない?」
「どの体勢でも変わらん」
ぱち、ぱち
「……でも、」
ぱち
「んっ……」
一定のリズムを刻んでいた物を置き、その指でアルカディアの頬を掬うと自分の方に向けさせてキスをする。
ちゅ、と音を立てて離れた唇。
突然の事で目を閉じる事を忘れていたアルカディアは、同じく目を開けていたクラウディオに間近で微笑まれて、ぼんっと音を立てて顔が赤くなるのが自分でも分かった。
「…もういい…」
「良くない。まだ全部切り終わってないぞ」
じたばたと暴れるアルカディアの抵抗を難なく押さえ込んで、クラウディオはまたさっきまでのようにアルカディアを後ろから抱き抱えると彼の爪を切り始める。
ぱち、ぱち
綺麗に切り揃えられていく爪。
そういや最後に自分で爪を切ったのはいつだっただろうとアルカディアは思う。
もしかしたら、付き合い始めてからはずっとクラウディオに切ってもらっているんじゃないだろうか。
「爪自分で切れる」
「爪くらい私が切ってやる」
ぱち、ぱち
この体勢は、いつまでたっても慣れない。
密着している背中が熱い。
耳元で聞こえるクラウディオの声が必要以上に響く。
時たま触れ合う頬に顔が赤くなる。
重ねられた手も。
視線も、唇も。
アルカディアに愛しさを伝えるそれは、いつでも熱を帯びている。
「……クラウディオ」
「うん?」
ぱち、ぱち
「…クラウディオ」
「何だ」
ぱち、ぱち
「クラウディオ」
「聞こえてるよ、何」
ぱち、ぱち
「クラウディオ」
「なんだ、アルカディア」
名前を呼ぶ、その声も。
「クラウディオ」
「はいはい」
ぱち、ぱち
「……クラウディオ」
ぱち
「どうした、アルカディア」
綺麗に切り揃えられた爪。
クラウディオはコトリと爪切りを置いて、両腕でアルカディアを抱きしめて笑った。
「名前呼びたくなっただけ」
「本当に呼びたくなっただけか?私の声も聞きたかったんじゃないか?」
「呼びたくなっただけ」
「そうか。なら、もう一回呼んでくれ。そうしたらキスしてやる」
「…クラウディオ」
「ふ、素直だな」
「…呼びたかっただけ」
「はいはい、じゃあキスさせてくれ」
重なった唇は、閉じられなかった瞳は、やっぱり熱を帯びていた。