predation


項に鋭い牙が埋まっていく感覚で意識を取り戻す。傷口から苛烈な程の熱が広がり、次第に脈打つような痛みを生じさせるはずのそれは、けれども一向に痛覚を生み出さない。熱がそのまま脈打ち、おそらく痛覚であったろう刺激が快楽として神経に伝わっていく。体中の皮膚の裏側でぴりぴりと痺れのような淡い感覚がしている。そんな皮膚の上を汗が伝い、或いはどちらのものか解らない体液が伝い、もう何も解らなくなっていく。

「…ア、……ディア、…アルカディア」

高い音で満ちていた聴覚が次第に落ち着きを取り戻していく。その中で聞こえた低く甘やかな声に、アルカディアはぼんやりと開いていた目の睫毛を揺らした。

「…っ、…♡ぁ、ぅ……♡」

瞬きにすらならない数秒の後、聞こえたのは自分を呼ぶ声だと気づき唇を開くと、随分と掠れた声が零れ落ちる。使い続けた喉は既に限界を訴えており、それは体中全て同様だ。四肢どころか何処にも力が入らない。立てた膝はがくがくと震え、腰を掴む恋人の手がなければすぐにでもベッドへ伏せていたろう。腕は力なく寝台へ落ちたまま、手や足がシーツを弱弱しく掴んでいる。睫毛を揺らす瞼とて今にも瞑ってしまいそうだ。
けれども恋人は酷く嬉しそうに声を零す。吐息交じりの感嘆とした声には未だ冷めることのない欲情が滲み切っており、それがメスイキの感覚を覚え込まされた腰に重い痺れを落とした。

「あァ…可愛い…。…声、あまり出ないか?」

「ん……♡も、でな、ぃ…♡」

「こっち向け、ほら」

「ぁ…ッ♡ぁ…♡ぅ……♡…っ♡ん、ん…♡」

片側の耳を指先で撫でられ、擽ったさと甘やかな快楽が生じる。素直に頬を傾ければ、背中側から顔を寄せた恋人と唇が合わさった。舌が我が物顔で咥内へ侵入し、アルカディアの舌に絡みつきながら唾液を注ぎ込んでくる。先程皮膚を割いた鋭い牙から血の味も流れ込み、味蕾に届くのは酷い味のはずだ。けれどもその鉄の味交じりの唾液すら、酷く心地いいものに思えてしまう。

「んっ♡♡ん、ぅ♡♡ん……っ♡〜〜っ♡♡」

そうして陶然と口付けに従っていた最中、ずぬ…♡と、重たく熱いものが動く感覚がして、アルカディアは堪らなそうに眼を蕩かせた。それは後孔に収まる、後ろから覆い被さった恋人の怒張に他ならないと理解していたためだ。彼是数時間ほど行為に及んでいるが、未だ彼の熱は冷めることがない。剛直もその心も、依然として苛烈な熱情を湛え続けている。
窄まりを割り開き最奥まで埋まった熱は、白濁で満ちる雄子宮の中で心地よさそうにした後、ずる…っ♡と少し抜き出ては、自らが押し潰した子宮口で亀頭を扱く。ぐりゅ♡ぐちゅっ♡と、雁首で抉るようにする小刻みな動きがアルカディアに甚だしい快楽を滲ませている。
酷く丁寧な前戯の甲斐あってか、それとも抜かずに注がれ続ける精液のためか痛みはないが、疲労は蓄積しているものだ。ぐったりと力なく横たわり快楽を享受するほかない自身を抱きながら、恋人はそれでも行為を続ける。普段、割れ物のように己に触れる彼ではない。今ここに在るのは、ただ番との交尾に夢中になる…本能を丸出しにした雄だけだ。

「く、ら…ッ♡ぁ♡ぁ゙♡♡らぇ…っ♡も…♡♡〜〜っ♡♡」

息苦しいキスを続けていた唇が離れ、呼吸を取り込みながら、アルカディアは声を上げる。先程よりも話しやすくはなったのだろうが、けれども喉も体も疲弊していることに変わりはない。精子を注がれ続けた腹はやや膨らんでおり、ナカは雄の味を覚えたと言わんばかりに甘くうねっては、埋まり続ける剛直を締め付け続ける。
もう止めにするか、一度休憩を。シーツに額を擦り付けながらそう願おうとした口は、けれども畢竟、声のない喘ぎを溢れ差す他なくなった。

「〜〜〜〜…ッ!!♡♡♡〜〜〜っ♡♡ぁ゙♡♡あ♡♡ひ…ッっ♡♡あ゙…ぁぁぁ……ッ♡♡♡」

項に再び宿る苛烈な熱。ずりゅりゅっ♡♡と抜き出て行った剛直を止める間もなく、腹の奥に叩き込まれる衝撃。二箇所に与えられた法悦により、アルカディアは言葉をなくした。弱弱しく頭を振りながらただただ身悶えることしかできない。
そんな彼の…己の雌の些細な抵抗も許さないと言わんばかりに、歯は項辺りを何度も噛み直す。ずぷ♡ぐっ♡ずぬ…♡と、甘噛みでは済まない…まるで喰いつくすと言わんばかりの苛烈な愛撫に、アルカディアの眼から涙が零れ落ちる。
それが快楽故のものであることは、その目を見れば明らかだ。真っ赤な眼は、もはや快楽によって血のように深い色を帯びている。

「お前は、どこもかしこも甘いな…。本当に…可愛い…」

耳元に落ちる声音はどこまでも甘やかで、どことなく仄暗い。そう思うのは晴れ間の海面のように優しく微笑む彼を知っているからだろうか。耳朶を甘噛みされる快感に身を震わせながら、アルカディアはうっとりと目を閉じる。
例え薄暗くとも、恐ろしくとも、この男になら喰われてもいいと思った。