「あ、あっ、くら…でぃお…っ♡あ、ん……っ♡」
砂糖菓子のように蕩けた声が、クラウディオの耳を楽しませる。
熱い内側を擦り上げて一定のリズムで腰を動かしてやれば、たまらなさそうに名前を呼ばれる。きゅう、と締まった粘膜はクラウディオにだけわかる震え方で、ふたたびの絶頂を迎えようとしているのを教えてくれる。
「イっていいぞ」
びくびくと絶えず跳ねる官能的な太ももを掴んで、襞をかき分けるように奥を何度もついてやる。
「あ、ぅ♡ぃ、く……っ♡」
下がった眉を悩まし気に寄せて、涙で潤んだ目をきゅっと瞑られる。縋るように頭上の枕を掴む指先には、もう力はほとんど籠っていない。
は、は、と恍惚の吐息を漏らして、アルカディアは快楽だけしかもう、追っていないようだった。
さきほど前髪をかき上げてやったから、声と同じで蕩けた顔がよく見えて、それはとても好きな光景だ。
顔に浮かんだ汗も拭わずに目を細め、満足げに口端を少しだけ吊り上げる。アルカディアが見ればきっと見惚れるか、赤面しただろう。
クラウディオは目を瞑ったままのアルカディアをそんな顔で見つめながら、健気に締め付けてくる内側の、最奥をついてやる。
「ん、んあ、あ……っ♡〜〜ッ♡」
腰がびくびくとしなって、開かれた足がピンと硬直する。達している中を擦り続けてやれば、いやいやと首を振るのに、出される声はひどく嬉しそうな嬌声だ。
「んん…っ♡あ、あっ♡だ、め……っ♡」
「気持ちいいの間違いだろう」
絞り取るような動きで絶頂を伝えてくる肉壁に、射精の誘惑がないわけではなかったけれど、眉をしかめて我慢する。自分が達する原始的な快楽よりもずっと、自分によって与えられる快楽に夢中になるアルカディアを見る方がずっと、クラウディオは好きだった。
乱れ切って、たまらないというように、気持ちよさそうな顔をみられる。世界中で、自分だけが。
いやいやと首を振るアルカディアが、それでも与えられる律動によって、再び甘えるように中を締め付けてくる。
「やっ、あ……!きもち、ぃ…くら、ぅ……っ♡」
呼吸をするだけで精一杯のような唇から、名前と共にそんな素直な台詞が返ってくる。
うっすらと開いた瞼の奥の瞳は蜂蜜のように溶けて、とても甘そうだ。
「そうか。もっとしてやろう」
アルカディアの膝裏を掴んで、身を乗り出せば結合はより深くなる。腰を引いて叩きつけるように、奥まで突き刺せば、アルカディアの声が一段高くなる。
「あ、あっ♡ひ、ん…ぁ…っ♡ぁ、んぅ、ぉく…だ、め……♡」
与えた快楽によって泣き出しそうに歪んだ顔を愛しく見つめながら、だめだと言うらしい最奥を何度も責めてやる。
「んあ…ぅ…っ♡」
腰が硬直したあとに何度か痙攣し、クラウディオのものを強く締め付けながら、アルカディアは達した。
「くらぃお……っ、」
もう少しイかせてやろうか、と考えていると、甘えるような声が名前を呼んだから、律動の再開をあとにすることにして、なんだとこたえてやる。
「んぅ、」
差し出すように両手が伸ばされて、その間に見える顔は、快楽の余韻に浸ってやらしいのに、ひどく無防備に、クラウディオを求めている。
肩書も、日ごろの落ち着いた様子も、全部を忘れてしまったように、あどけない顔でもう一度、じれったそうに、舌足らずに名前を呼ばれる。
殆ど無意識に、反射のように甘やかしたくなって、望むとおりに身を屈めてやれば、嬉しそうに顔がほころんだ。
「なんだ。甘えたいのか?」
「…キス、したい……」
誘うように開かれた唇から舌がみえて、差し出すようなそれに自分のものを絡めれば、夢の中にいるようにぼんやりと目を開いたまま、アルカディアが嬉しそうに声を漏らす。腰に足を絡みつかせて、密着したことを喜ぶように中を締め付けられる。
「ん……んぅ……、」
ゆっくりと口の中を味わって、上がった苦しそうな息を合図に離してやれば、閉じることを忘れているのか、ぼんやりとした瞳がクラウディオを見て、幸せそうに細められる。
「くら…でぃお…」
背中に回された腕も、さきほどよりも耳元で聞こえるひどく甘い声も、宝石のような瞳も。
ぜんぶ、これは、あなたのものだと。
まるでそう教えるように、アルカディアは、全身でクラウディオを求めてくれる。
ああ、なんて。
なんて。
顔が緩みそうになって、誤魔化すように耳元に口付けて、食んで、気持ちよさそうにぴくりと震えた体を抱きしめる。何度抱いても、どこもかしこも敏感に、素直に反応を返される。
相手に夢中になるのは、おそろいのことだった。
「もう少し、続けていいか?」
伺うように言った台詞は、こたえなんてわかっているけれど。
至近距離で見つめた赤色の瞳が、ゆっくりと瞬きをしたあとに、近づいて。
そっと唇を奪ったアルカディアが、夢見心地というように、ふやけた顔で微笑んだ。
「もっとして」
甘い甘いお菓子のような声が、クラウディオを夢の中に誘う。
二人して、ひどく、甘ったるくなって、馬鹿になろうじゃないか。
そう心の中で呟いて、おかしくなって、ただ、かわいいおねだりにこたえるように、もう一度深く、口づけた。
クラウディオの方が早く目が覚めるのは前夜にさんざんに楽しんだ翌朝でなくとも珍しくない話だ。
寝息を立てて気持ちよさそうに眠るアルカディアの、日に透けてキラキラと光る赤色の髪を指で梳く。少しだけ身じろいだけれど、起きる気配はない。呑気なものだ、と可笑しくなって頬をつついて遊んでみる。
「んん……」
むにゃむにゃと何かを言ったけれど、アルカディアはやはり、夢の住人のままだった。
「相変わらずよく寝るな」
無防備な寝顔に満足げに呟けば、にゃあ、と窓の外から、返答のように猫の鳴き声がする。ベッドから出て、窓を少しだけ開ければ、最近アルカディアがよく可愛がっている黒猫が朝の挨拶に訪れた。
掌に擦り寄ってくる黒猫の頭を撫でてやると、嬉しそうに喉を鳴らした。
にゃあにゃあとおしゃべりな黒猫に付き合っていれば、声に気が付いたように、ベッドのうえの塊が動く気配がする。
「おはよう、アルカディア」
ふわりと窓から入り込んだ風が髪を揺らすのを楽しみながら、クラウディオは眠そうに瞼を擦るアルカディアに、そう言った。
寝ぼけまなこでクラウディオを見たアルカディアが、生返事を返す。
「んん…」
朝の光を眩しそうに浴びながら、眠そうにふらふらと揺れるアルカディアに、クラウディオは小さく笑った。
寝ぼけ眼のままベッドから降りようとして、
「っ、…いた…」
唸り声をあげたアルカディアが、腰を軽く擦る。
「どうしたアルカディア」
すかさずそう言えば、少しだけ頬を染めた顔が咎めるように睨んでくる。
お前のせいだろ、と言いたげに。
「……なんでもない」
言っても分が悪くなるだけだと判断したのか、誤魔化された。
皺の伸ばされた洗い立ての服を取り出して、身支度をするアルカディアに、気づかれないように手を伸ばす。
腰にするりと絡めれば、わかりやすいほど体が跳ねた。
「っ、なに、……」
「着替え手伝ってやろうと思って」
「へ……?」
まだ下着のまま、服を着かけた手が不自然に止まって、慌てたように、腰を撫でるクラウディオの手のうえに重ねられる。細い腰をゆっくりとなぞり上げてやれば、息を潜めるのは、体がクラウディオの熱を覚えてしまっているせいだ。
「……っ、いい……自分でできる……」
「何故だ?私のせいで腰を痛めたお前を世話してあげたいだけなのに?」
「いらな、いっ…ん……ちょっと……」
太ももからわき腹まで、そういう手つきで撫で上げてやれば、抵抗する声がだんだん上擦り、甘くなっていく。悪戯に動かされるクラウディオの指先をきゅ、と握って、アルカディアが困ったように振り向いた。
「クラ…ディオ…、朝、だから……っ」
「夜ならいいのか?」
「……、」
「今日私は午前の予定はないぞ?」
「……っ、」
囁くようにそう言えば、ぐっと唇を噛まれる。
否定の言葉は出なかった。いったい何を考えてか、逡巡したように瞬く瞳が、クラウディオを見て、薄く開いた口が何かを言おうと息を吸い込む。
「なんてな」
「え……、」
そう言ってあっさりと体を離せば、今度は目を見開かれる。
にやにやと笑って顔を覗き込んでやれば、今度こそ、真っ赤に染まった。
「……っ、か、からかったな…」
「何のことだ?」
「……何でもない!」
むっとしながらそう言ったアルカディアが、長い前髪をくしゃりとかき混ぜて、そっぽを向く。安堵に混ざって、少しだけ拍子抜けしたような色をみせた顔を、クラウディオは見逃さなかったけれど。
「今したら、お前今日一日立てなくなって困るんじゃないか?」
なあ、と窓枠にいた黒猫に話しかければ、後ろからわなわなと震えたアルカディアが、ばか!と文句を飛ばした。