I need more.




甘い匂いに満たされたその夜は、もう、溶け切ってしまいそうなくらいに熱かった。
どこもかしこも蕩けるような、ふわふわと水のなかを漂うような、眠っているような感覚に身を任せ、ただ夢中で、快楽を追いかける。
声も出せずに何度目か達したあと、重なった肌が離れていくのが惜しくて、思わず手をのばした。さっきまで一つだったと思っていたものが離れたような、少しの距離ですら寂しくなるような変な気分に、ぼやけた視界で同じ色を探す。琥珀色はすぐに近づいて、アルカディアにキスを与えてくれた。

「もっと……、」

「ああ」

共に乱れた息遣いが不思議と合って、重なって離れて、繰り返すうちに溶けあってしまうようだった。
無意識に腕を回して、離れまいと力をこめるけれど、クラウディオの背中は汗ですべって、快楽で満たされたアルカディアの指先には、もうあまり力が入らなかった。ずる、と指が滑って、もう一度、掴んで、やっぱり滑って落ちてしまう。
子供の様に同じ動作を何度も繰り返すアルカディアの髪を優しく撫でるのは、くすりと笑う男の指だ。

「離れたくない?」

ぼう、とした意識に、柔らかな声が静かな波を立てる。こくりと頷けば、かわいいな、と囁かれた。かわいい。自分に言われたのだと気づかず、おうむ返しに呟けば、耳をねっとりと舐められる。
ぞくぞくと体が震え、あ、と小さな声が出た。

「かわいいよ、お前は」

熱い塊のような息がして、低く、掠れた声が耳から吹き込まれる。

「ぁ……ッ、」

脳がことばを理解する前に、刺激を悦んだ体が達した。
かわいいはわからないけれど、かわいがられているのはわかった。ぽろぽろと意味もなく涙が出て、舐めとられ、追いかけるように唇を重ねて、見つめる。

「おいで」

熱い声がして、腕をゆっくりと引かれた。
そのままクラウディオはアルカディアの体の下に足をいれて、身を起こす。あぐらをかいたクラウディオの上に、アルカディアはつながったまま、乗り上げた。
最初に部屋に来た時のような体勢。
そう、クラウディオに食べられるまえと、同じ。
うっすらと羞恥を感じた記憶が蘇り、きゅうと心臓が熱くなる。どうして、恥ずかしかったんだっけ。
こんなにも安心するのに。
腰を支える腕はしっかりと体に回されて、自然と体は密着して、クラウディオの目はアルカディアの少し下にある。

「お前の目、蕩けて零れそうだな」

おかしそうにそう笑って、指の腹で目元を拭われる。汗か涙かわからないもので顔はぐちゃぐちゃで、でも、もう、恥ずかしいとも思わなかった。
クラウディオがいて、抱きしめられていて、それがひどく、気持ちいい。
低く囁くような声も、触れてくれる指先も、アルカディアの全部を見たがる瞳も、意地悪で優しくて、柔らかい唇も、全部、きもちがいい。
もっとほしい。

「くらう、でぃお……、」

力の入らない手をそっと取られ、望み通りに、肩に乗せられる。嬉しくて体重を預けて、唇をねだるように、キスをする。
舌を絡めて、飲み込み切れなかった唾液が顎をつたって、二人の体に落ちていく。
つながったまま、アルカディアのからだのなかを、じわじわと気持ちいいところに当てられたまま焦がされ続ける。気持ちが良い。
キスの合間に涙が出る。頬を滑り落ちて、唾液と混ざって、一緒に食べられた。
背中にまわった手がゆっくりと動く。
それがつながった部分を撫でて、尾てい骨を押し上げる。
びり、と電流が走る。そんなところがどうして気持ちいいのかわからないまま、甘ったるい声がアルカディアの口の中で弾ける。

「あっ……!あ、うあ、……っ♡」

くりくりと押され、思わず息が止まる。中がきゅうと締まって、ぱちんと弾けるような快感の中でアルカディアは達した。腹の中がじわりと快楽で満たされて、アルカディアの知らない気持ちいいところを教えた指が、ゆっくりと背骨を上がっていく。

「あ……、や、あ……ッ、」

気持ちいい。もう、何をされても気持ちいいんじゃないかと思うくらい、さわられているだけで、だめ。
だめにされてしまう。
されたいと思ってしまう。
どこもかしこも敏感に、与えられる刺激ばかりを追いかけて、頭は真っ白になっているのに、気持ちいいことだけ、貪欲に拾ってしまう。
もっと、ほしい。クラウディオがほしい。
思わず唇が離れ、顎が跳ね、天を仰ぐ。ゆっくりと背骨の凹凸をなぞる指先にあわせ、背中がしなる。首元にくすぐったい感覚と、舌の湿った感触がして、それは、もう、言葉にならないほどに、気持ちがよかった。

「は……、……っ、……は……、」

呼吸だけがかろうじてできて、酸素を必死に取り込んで、自分が達しているのかもよくわからない。力も入らない体は支えられ、縋り付いた相手は、アルカディアにこの上ない快楽を刻んでくる。くしゃりと顔が歪んで、涙が出る。
熱い、熱い火のような快感があって、それがゆっくりと中心に集まってくる。

「くぁ……ぃお、うご、いて……、」

震える指で肩をつかんで、必死にそうねだる。熱がじっくりとアルカディアを溶かして、それはだんだんと、深い絶頂へとつながっていく。
今動かれたら自分にはとても強すぎる快楽があるだろうと分かっていても、このまま、焼かれるような快楽に浸り続けるのが怖かった。
切なそうな顔で懇願するアルカディアを、優しい手が引き寄せる。ぎゅうと体を抱きこまれ、結合が深くなるのは、とどめの刺激だった。

「あ……、や、ぁ……、」

弱弱しい声を出すのが精いっぱいで、快楽がとうとう、中心部へと集まった。

「イっていいぞ」

合図のように、命令のように、耳元に声が吹き込まれる。もうアルカディアの体は、アルカディアのものじゃなかった。

「あ、……っ、……ッ、♡」

ぼろぼろと涙が零れて、全身が震える。深い深い絶頂があって、それは全然引いてくれないまま、アルカディアの体の中で渦巻いた。

「く……、ぁ……っ、……っ、」

よしよしと子供をあやすように手が動いて、脳がそれを勘違いしたように安堵して、泣きじゃくりながら達する。
いっそ激しく犯してくれた方がずっとよかったと思うくらい、脳を焼くような絶頂に、苦しくて、気持ちが良くて、涙が止まらない。
口が動いて、呼吸の合間に必死に名前をよんだ。気持ちいい、助けて。クラウディオ。おかしくなる。
波に揺られ、さらわれそうな感覚に、必死に名前をよぶ。
応えるように抱きしめられ、キスを落とされる。
死ぬ、と思うくらいにはおかしくなりそうで、意識が白く塗り落されかけ、ようやく、快感の波がゆっくりと引いていく。