「アルカディア、集中しろ」
「ひ、ぁッ!」
些細な悪戯を優しく窘めるような、楽しみを含んだ声とともに、意識が一気に引き戻される。
咎めるような、だけど怒ってはいない、そんな妙に優しい声とともに、とん、と軽く奥を揺すられる。
それだけで体に、電流のような快楽が走り、悲鳴のような声がでた。
逃げ出そうとした腰はしっかりと掴まれて、とん、とんと揺すられ続け、頭が真っ白に塗り替わる。
「あ、や…ぅ、う、♡」
些細で僅かな腰の動きを続けられるだけで、中から快楽が迸って、背筋がしなる。ぞわぞわと、ゆっくりと背骨を震わせた快楽の炎が頭まで上ってくる。甘く切ない快楽を、声を出すことでしか逃がせず、ぼろぼろと涙を零しながら鳴いてしまう。
正気を保つために行っていた思考という名の悪あがきは、あっさりと霧散してしまった。
「あっ、あ、ま、って…♡…っ、う、あぁ、♡」
「気持ちいいか?」
「……っ、ちが、ぁ、ちがうぅ……ッ、♡」
出したくもないのに喉から勝手に出てきてしまう、甘くて高い、受け止めきれない快楽に困り果てた声を聞いて、目の前の男がふ、と吐息だけで笑う。たずねる声は子供を甘やかすようで、見つめてくる目にはいとしいものをみるような、慈しみがある。
「違うのか?」
「ぃ、あ、……ッ、」
普段あんなに澄ましているのに、いま、アルカディアを見下ろす瞳は熱くて、かろうじて張った意地さえすぐに溶かされてしまいそうになる。
どこもかしこも熱い。指も、体も、目も。
聞かれた言葉を認めたくなくて、必死に首を振ればおかしそうに笑われた。目元の涙を指で拭われる。そんな何気ない仕草ですら、腹が立つほどに恰好がいい。
何かを言おうと口を開けばまた無駄に喜ばせてしまうに違いない。いつもみたいに、後ろからすればいいのにとか、それでなくても少しは自分が主導権を握れればいいのに。いまはそれもできないほど、体はもう溶け切って、この人の言いなりだ。
こんな顔を、見られたくない。
耐えられない。
こんな、涙と唾液でぐしゃぐしゃで、乱れて、気持ちいいと言ってしまっているような顔を。
そう思ってせめてもの抵抗に顔を背ければ、それを許さないというように、体を密着される。
汗ばんだ膝裏を持ち上げて、腰をさらに進められ、結合が深くなる。奥の切ないところに、先端があてられて。先端まで快楽が走って、はねたつま先をきゅうと丸め込む。
「あ、ぁ、あっ!♡ぁ、ぅ……ッ!♡」
頭上の枕を掴んで、与えられた快楽を必死にやり過ごす。
体、おかしくなったんじゃないか。いつもよりもずっと、気持ちいい。なんで。
はいってる、だけでこんなに。
こんなに。
「は……、あ、……う、んん……、♡」
目の前の男がこんなに、しつこいせいだ。必死に理由を探した頭が、縋るようにそう考える。
今日のクラウディオはおかしい。
いつもなら手早く済ませる前戯がやけに長かった。いやなのに、散々誘って早くいれてと急かしても、のらりくらりとかわしながら、体中をいじくり回された。どこもかしこもキスを落とされ、舐められ、ふれられ、指だけで何度もイかされて。イくたびに嬉しそうにほほ笑んだクラウディオに、大切なものをさわるように愛でられた。クラウディオにすっかり開発されたアルカディアの体は素直に喜んでしまう。
次第に、どこもかしこも、ふれられるだけで感じて甘く達してしまうくらい、どうしようもなくなってしまった。
「う、んん…♡あ、あ、ぅ♡それ、やだ……♡」
「うん?どれだ?」
「や、あ、ぁ♡わか、てる、くせ、にぃ……っ♡」
とん、とん、と中を優しく突かれる。
大した事はない、あやすような緩い動きが、どうしてこんなに気持ちいいのかわからない。後ろから、ただがっついてくれたらいいのに。こんな、まるで、大切なものを、抱くみたいな、こんなの。
「も、や、あっ♡ぃく、また…ぁ♡や、あ……ッ!♡」
「こういうのに弱いなお前は」
のんびりとした、納得したような声でいわれる。くすくすと笑う顔は楽しそうなのに、馬鹿にするようでもなくて、ただ、心底嬉しそうで、そんな顔をしないでと思う。
文句を言い返したいのに、クラウディオが気持ちいいところをずっとやさしく、こね回すせいで、気持ちよくて、きもちよくて、何も考えられなくなっていく。奥がきゅうきゅうとクラウディオに抱きついて甘えている。それをやさしく、撫でるように動かれるから。
「あ、あ!♡あ、も……ッ、や、あ♡くら、ぃお♡また、いく……♡」
ぱちん、と快楽が弾ける。弾けて散らずに、頭の中をふわふわと飛び続けるから、いつまでたっても気持ちいいが消えてくれない。消えてくれないまま、クラウディオが止まってくれないから、切なくて、苦しくて、もうやめてほしいのに、もっとほしくて、たまらなくもどかしい。気持ちいいのが苦しくて、もう止めてほしいのに、もっと続けてほしいとも思ってしまう。ぐちゃぐちゃだ。もういやだ。おかしくなる。
「うう〜……♡あ、ふ…やあっ♡おかし、なる……♡これ、やだ……ッ♡」
子供のように泣きじゃくって、やめて欲しいと懇願しても、クラウディオは頭をやさしく撫でるだけで、腰を止めてくれない。頭を撫でられるのが嬉しくて、甘くイってしまう。
涙で濡れた頬を舐めとられて、キスを落とされる。枕を掴んだ手をそっと掴まれ、首に回すように導かれる。しがみつくものを求めていたことを、わかっているように。
「あ…や、あ、♡また、ぁぅ…いく…ゃ、…あぅ♡」
「ああ」
「あ、あ♡うう〜……ッ♡」
ぎゅうう、と抱きついて、背中に爪を立てて、長くて、甘い絶頂を受け止める。気持ちがいい。気持ちがよくて、もう嫌なのに、クラウディオが動くたびに、体の奥がもっと、もっとと求めてしまう。ずっとしてほしい、とばかになった頭で思う。
おかしくなる。ずっと奥のいいところを撫でられ続けて、頭がぼうっとしてくる。きもちいい、きもちいい。
「ここ、そんなに好きなのか?」
耳元で、いつもよりもずっと穏やかで、優しい声がそうきいた。
すき、ときかれて、真っ白になった頭が単語を繰り返す。何かを考えようとして、甘やかすようにまた頭を撫でられて、だから、きもちよくて。
すき。
「あ、あぅ、すき、すき……♡」
抱きついて、必死に頷きながらそういった。
クラウディオが不意に、動きを止める。
なんで、と思う、頭はもうとっくに働いてない。
すき。
奥を、そうされるの、好きでたまらない。
なのに、なんで動いてくれないの。
すきなのに。
もっと、動いて、ほしい。
「くら、ぃお……、あ、ぁ♡とまるの、やだ……、♡」
「……っ、アルカディア……、」
「すき……なのにぃ……、♡」
「……ッ!」
「くらぃお…もっと……、」
うっすらと、なんだか、言ってはいけないと決めたことばを、紡いでしまったような、気がしたけれど、もうよくわからない。かんがえられない。
気持ちいいがほしい。クラウディオのくれるきもちいいが、もっとほしい。すき。
ばかになった頭がただ、それだけを繰り返す。
あれだけずっと与えられつづけた快楽がとまって、なかに、クラウディオのものがあるのに、安心して、だけど動いてくれないのがもどかしくて、寂しくて。すがるようにぎゅうと抱きつけば、クラウディオがこたえるように、抱きしめ返してくれる。だから大丈夫だ、よかった、と思う。
汗と混じってクラウディオのにおいがする。酷く嬉しくて、腹の奥から快楽が泉みたいにあふれ出る。
「あ、ぁッ!♡あ、いく…なん…で♡い、う……♡」
動いてもいないのに、奥にあるだけで気持ちよくて、どこよりもあたたかい腕の中に心の底から安心して、だから、きもちよくなってしまう。
「あ、ぁう、くら、ぃお……、すき……、すき…だい…すき、」
クラウディオの、熱くて硬いそれに、さっきまでみたいに甘やかされたい。ぐちゃぐちゃに溶かされたい。ねだるように全身で抱きついて、聞かれた問いに子供がこたえるように、ご褒美をねだるようにそう繰り返す。
頭を、ゆっくりと撫でられる。支えるように抱きしめてくれていた腕の力が強くなって、ぐん、と中のものが大きくなる。
「あっ?♡なん、で、おっきく……♡」
「今のは、お前が、悪いよ」
「……?ごめ、なさい……?」
「……ッ!」
クラウディオが、低い声で、責めるように言うから、じゃあ自分が悪いんだと思って、わからないまま謝れば、何かに耐えるように目をぎゅっとつぶられた。
体をゆっくりと、ゆっくりと抱えなおされる。安心して、すべて預け切ったまま、きもちいいが欲しくて、くれる相手をじっと見つめる。
ぎらぎらと輝く琥珀色の瞳は綺麗で、宝石みたいだ。
呼吸の荒さに、唾を飲み込む喉元に、腰を掴む手の力の強さに、頭の中で微かになった本能の警鐘は、正しく届かないまま、アルカディアはほほ笑んだ。
笑ってそう言うと、どうやら相手が喜ぶようだと、それだけがいま、わかることだったから。
「すき。」