potage

アルカディアの肩から滑り落ちたコートが床にドーナツを作る。足首に丸まっていたズボンと下着からもたもたと脚を引き抜く。
うつむいているのにクラウディオの視線を感じる。視界の端ではベッドに腰掛けたクラウディオが脚を組んだのが見える。
アルカディアは衣服を脱ごうとして脚の間のものがすっかり濡れているのに気がついた。
熱かった頬がさらに燃えるようだ。アルカディアは身をよじりクラウディオの視界から逃れるようにして衣服を脱いだ。
脱いだ服を抱きかかえるようにして小走りでクラウディオの胸に飛び込む。上機嫌に笑ったクラウディオが抱き留める。

「脱げた」

「ああ、見ていたよ」

裸の肩へ、クラウディオのジャケットがかけられる。あったかい。
クラウディオのジャケットに包み込まれて、アルカディアは褒めるような口づけを顔中に受ける。

「…俺だけとか、いやだよ」

アルカディアのほっそりした手がクラウディオのベストを落とし、ネクタイを緩める。クラウディオは眩しいものでも見るような顔でアルカディアを見上げる。
クラウディオの光彩が赤みを帯びる。興奮した時の色だ。アルカディアはタイを首から外して、床に放る。 

「動いたらだめ」

優しく、しかし有無を言わせない強さでアルカディアが命じる。彼のペースでクラウディオのボタンが外される。
やられているときはあたふたするくせに、仕掛けている時は意気揚々と見えるのはアルカディアもやっぱり男の子だからだ。中を弄られて絶頂しておきながら、クラウディオのジャケットに包まれ脚の間を硬くしておきながら、恋人を脱がすのが楽しくて仕方ない。

「まだ、だめ。」

アルカディアの腰を抱こうとした大きな手がピクリと止まる。

「焦らすな」

まんざら演技でもない様子でクラウディオが音を上げる。しかしアルカディアはいたずらっ子みたいにキラキラする目で微笑んだ。

「…俺の特権」

アルカディアの両手がクラウディオの頬を包む。デコチューされながら「可愛い」と言われると、甘やかされ慣れていない男はぐぬと二の句を飲んだ。
襲いかかってしまいたいが、もうこの世でアルカディアくらいしかクラウディオにこんな扱いをしないと思えば、味わっていたいような気もする。
葛藤をよそに、アルカディアは徐々にあらわになっていく滑らかな皮膚に興奮していた。
わずかな皮下脂肪の下にずっっしりとした重量感の骨格と硬い筋肉の存在感。
アルカディアは素敵な身体を剥いていく愉悦を感じながらクラウディオから一切の布地を取り払う。
そしてとうとう、ソックスまで脱がせたというのに、クラウディオに「よし」をくれない。
アルカディアに促されるままベッドヘッドに背を預けると、長い足をアルカディアが跨ぐ。

「かっこいい」

外見への賛辞ならいささか聞き飽きているクラウディオだが、この世のものとは思えないような美しい男が自分のジャケットを羽織っただけの姿で、脚の間を充血させながら酩酊したような瞳で褒めてくれる言葉は格別である。
実際、窓から差し込む月光で縁取りされたクラウディオは美術品のように美しい。だが、その下腹で充血するものが彼をただ美術館に飾られるだけの生き物にしてはくれない。

「…かっこいい、くらうでぃお」

アルカディアはクラウディオの輪郭をそっと撫でながら、その手を下腹へ近づけていく。

「褒美は?」

クラウディオが期待に掠れた声で問うと、アルカディアはもちろんだと彼の身体へかがみ込む。
熱く血を貯めた陰茎をぱくり、と口中へ。

「んうっ」

当然のように入りきらないので亀頭を浅く咥え、鈴口をなめ回す。太い幹の殆どは両手でコスコスと撫でてやる。
あまり上手ではないのだけれど、ちらりと上目に様子をうかがうと、手の中でどくん、と跳ねる。
目を合わせて舐められるの好きみたい、とアルカディアは思っている。実際、恋人の顔が自分のそそり立つものの奥に見えるのはクるものがある。
幹に絡む指を唾液や先走りでベタベタにしながら、ぺろぺろカプカプと熱心に奉仕してくれるのだ。
アルカディアにしてもらっているという満足感が性感に変換される。ゾクゾクと腰が揺れる。
アルカディアの髪はクラウディオが耳にかけてやっても、すぐにふわふわと落ちてくる。飽きずに何度もかけてやり、ついでに丸い頭もよしよしと撫でる。
クラウディオがそうであるように、アルカディアだって、セックスの相手が気持ち良くなってくれるとなんだか嬉しい。
感じ入る甘い吐息に興奮する。

「ね、だして」

唇の隙間にねだり、ちゅ、と先端に口づける。アルカディアのテクニックじゃあ、最初の一回くらいしかちゃんと搾れないので貰っておきたい。

「くらうでぃおの、いくとこ、見たい」

アルカディアがあんまり顔を隠してしまうから、何度もクラウディオがそうねだったが、それをアルカディアも覚えてしまったらしい。そして、味を占めた。
アルカディアのつたない手がそれでも速度を上げてクラウディオの陰茎を扱く。自慰さえまともにしたことがなかったアルカディアだから、クラウディオが毎回、その手をとってやり方を教えてあげている。そして、ぽってりと熱を持った唇に先端を押し当てる。すぐにぱくりと咥えたのはお利口だ。舌をべったりと裏筋に押し当てて左右に揺らすのも教えた通り。
クラウディオはそのまま、少し腰を揺する。喉を突いてしまわないように気をつけて、けれど射精できるように繰り返し。
アルカディアは苦しげではあるが、舌の動きは止めないし、扱いてくれるし、唇をすぼめて歯を当てないようにしてくれる。
それでも苦しいのだろう。ポロポロと生理的な涙が零れていく。早く楽にさせてやりたいと思いながら、涙にどうしょうもなく性感を煽られている。

どぷり、と濃い先走りが溢れ、唇の隙間から漏れてアルカディアのおとがいを濡らす。怪物などと呼ばれ恐れられる男が、陰茎を咥えて涙と淫汁を漏らしている。
ギャップにクラウディオの頭がどろりと蕩けた。

「っん」

瞬間、ばちんと目が合って、駆け抜けた快楽に従い、クラウディオは温かな口中を精液でいっぱいにした。

「〜〜〜〜っ!」

アルカディアは零さないように、んくんくと喉を上下させる。飲みにくいし美味しくないけど、クラウディオが飲んでしまうのでアルカディアもそういうものだと思っている節がある。
えーん嫌だ、と顔には書いてあるのに、口元を両手で押さえて泣きながら飲み干す。
嫌なんだったらやめなさいと何度か言ったのだが、アルカディアはやめないし、隙あらば咥えてくるし、彼の脚の間は今にもはち切れそうに膨らんでいるから多分、そういった癖の一種なのだとは、思う。

「んあ」

飲み干して両手を外したアルカディアの頬をクラウディオは両手で包んで撫でてやる。
得意げであるのが可愛らしい。クラウディオはアルカディアを抱き寄せ、脚の間にすっぽりと収める。かつて裏の世界で死神と言われた社長様の胸板をソファ代わりにできるのは世界広しといえどアルカディアだけだ。
上背こそ低くは無いアルカディアだけれど、クラウディオの前ではすっぽりと抱きかかえられてしまう。
ジェットコースターのセーフティーバーのように後ろから回ってきた腕がアルカディアの腕の自由を奪う。

「んん」

動けない、と言うように小さく唸るアルカディアのつむじにクラウディオはキスをして、大きな手でアルカディアの胸を覆う。
だいぶ薄めの胸板の上でツンと硬くなった乳首だけが赤い。クラウディオはそれを人差し指でコロリと転がした。
それだけでびく、とアルカディアは震えてくれる。バックハグはアルカディアの身体の反応がつぶさに伝わってとても楽しい。

「私にも、見せてくれないか?」

かし、かし、とゆっくり乳首を掻いてやりながら赤く染る耳に注ぎ込むと、アルカディアの肩がびくりとした。そして、クラウディオの腕にロックされ、殆ど動けない事に気がついた。
背後のクラウディオは上機嫌で、小さな肉の粒を指先に遊ばせている。
こく、とアルカディアは小さく生唾を飲んだ。

「っぅ、ぁ、あっ、い、やっ……!」

アルカディアがどんなにジタバタしてもクラウディオの拘束から逃れられる訳がない。
ほんの小さな粒が長い指の先で揺らされたり、カリカリされたり摘ままれたりするだけ。
それだけなのに。

「ぅ、や、だっ……♡触っ、てッ♡あ、…ぅ!」

アルカディアはじっとしていられなくて身をよじる。けれどわずかにビクつくだけにとどまる。
ここはクラウディオが身体で作った檻の中だ。アルカディアの脚は彼の脚に絡まれ、もうどのように押さえこまれているのかもわからないが。
わずかに身体がゆれる度に、健気に勃ちあがった性器の先からピッピと先走りの雫が散る。

「触れているだろう。もう、ずっと、こんなに赤く、硬くなるまで」

「ち、がっ……♡っぁう、ぅううっっ……♡」

乳首を弄くられて体中を駆け巡る快感と、性器を放って置かれて出せないもどかしさがアルカディアの身体をめちゃくちゃに暴れさせる。
だが、腕も足もクラウディオを払いのけることはできず、無防備に晒された胸の飾りはじんじんと熱を持ってアルカディアに絶えず性感を注ぎ続ける。

「っぅ、んぅ、ぅうっっ♡」

ほんの少しでも性器に触ってくれたら吹きこぼれてしまうのに、自分で触れることさえ許されていない。
触れて貰えない性器はどくどくと脈打ち、ずっと内側から擽られているような痛痒感でアルカディアを苛む。奥歯をきつく噛み、ぎゅっと瞑った瞼の縁から涙を絞りながら、アルカディアは乳首を摘ままれたり、指の腹の間で押しつぶすように捏ねられたりする刺激に耐える。

「っぃ、やっ……♡や、だぁあっ♡」

もうやめて、と訴える声が呆れるほど甘い。
アルカディアの薄い身体はぐっしょりと汗に濡れて真っ赤に染まっている。
みっつの突起だけがひときわ赤く血を集めている。クラウディオが乳輪ごと乳首を摘まみ、指の先で乳首をカリっと優しく掻いた。

「ぅぁ…っ…♡」

これが一番弱いのがすっかりばれている気がする。
かり、かり、と続けざまに転がされると、パクパクする鈴口から透明な雫が溢れ出た。

「も…やあっ、やだぁあっ♡♡」

本格的に泣きが入る。

「も、やめ……!ちくび、それ、やだっッぁ♡」

カリカリするの、止めてもらえない。
一番弱い責め方が延々と続く。脳みそがグツグツ煮立っていくような気がする。
木苺よりも小さな粒が、ぴるぴると揺らされる。わずかな表面を硬い男の指に撫でられ、弾かれ、あるはずもなかった性感が植え付けられていたのだと痛感する。
弄くられているのは乳首なのに、腰の奥からぞぞぞ、と得体の知れない感覚が湧き上がってきて、アルカディアが腰を逃がそうとした。

「ぁ…っ!あっぅ、や、っぁ……!」

だが腰はわずかに揺れただけで、溶けたキャンドルみたいに先走りを溢れさせた性器が揺れる。

「く、らでぃおっ……おねがっ……おねが、い、下も、触って……♡」

さっき焦らした報復かとも思ったが、こんなに執拗なのはただの趣味だろう。
悪趣味だ。

「お、ねがっ……ぁ、ぅ…苦しっ……」

「ここは、気持ちよくないのか?」

くにゅ、と乳輪ごと乳首が摘ままれ、押しつぶされる。

「ぅあっ♡」

痛みと錯覚するほど鋭い快楽がアルカディアに甘ったるい悲鳴を上げさせる。

「あっ、いやっ…はな、して、はなしてっぇ」

ぎゅー♡っと乳首が摘ままれる。熱い。乳首が熱くて溶けてしまいそうだ。
このまま扱いてくれたらとびきり気持ち良い射精ができるだろうに、許してくれない。

「ひ、ぅ…、もっ……ゃ……いや、っぁ……♡」

そして摘ままれる乳首の刺激がほんのわずか、痛みに転化した瞬間。
​​──くりゅ。
木の実でも潰すように、乳首が捩られた。

「ッ​​──ッっっ♡♡」

アルカディアの陰茎から大量の精液が吹きこぼれてきた。扱いてもらっていないので勢いはないが、たっぷり焦らされたぶんだけ量が多い。
沸騰しそうな精液がゴポリゴポリと何度も溢れる。
そのたびにアルカディアは奥歯をぎゅうっと噛み、手指も足指もぎゅうっと握って腰骨がバラバラになってしまいそうな快楽に耐えた。
背骨はびくびくと震えているのに、クラウディオはそんな震えさえ許さないとでも言うように、がっちりとアルカディアをホールドする。
そしてアルカディアは絶頂を味わい尽くし、やがて、糸が切れたマリオネットのようにアルカディアは全身の力を抜いた。

​​──……いった……?

乳首を弄られただけで射精してしまったなんて信じたくない。
おかげで、射精感はなくなったのに性感は鈍らず、刺激を欲しがる欲望も消えていない。
すっきりしてるのにもやもやしている。アルカディアがすん、と鼻を鳴らすと、その先にちゅう、とクラウディオが口づけた。

「な、に…するの…、ばかぁ…」

ぐずぐずと文句を言うと、クラウディオは嬉しそうにアルカディアのそこここを甘噛みする。そして、うわごとのように可愛い、と漏らした。

「あくしゅみ!」

その長い指をがぶっと噛んでやると、クラウディオは楽しそうに笑う。
そして、ころん、とアルカディアをベッドに転がす。

「では、挽回しよう」

「ぅわっ」

長いだけで肉の少ないアルカディアの脚がクラウディオに掴まれ、割り開かれる。
その間に陣取ったクラウディオは、目を細めて舌なめずり。
色気九割、嗜虐心が1割ほど。
これからいただきますよ、と隠しもしない表情に、アルカディアは観念して身体の力を抜いた。

「…良くしてくれないと、蹴飛ばしてやる」

「良くなかったことがあったか?」

「……わりとあった」

しかし、今は思い出せない。
思い出よりも、いま、脚の間に押し当てられた熱塊のほうが鮮明だ。