speak with eyes




目は口ほどにものを言うって本当だと思う。少なくとも自分は、今それを心の底から実感していた。

「……」

横からこちらへと向けられるクラウディオの視線が痛い。だけど視線を向けてくるだけで、クラウディオはなにも言わないから、アルカディアの居心地の悪さが増すばかりだ。
別に喧嘩してるわけじゃないし2人とも機嫌が悪いというわけでもない。

しかし、アルカディアは視線の意味が分かっていた。クラウディオが先程から無言で何を訴えてきているのかは痛いくらいに伝わっている。
だけどどうしてこういう状況になっているのかはまったく分からなかった。

「……ね、ぇ、クラウディオ」

「……」

「え、と、あの…」

本当に一言も話してくれない。
これはもしかしなくても、自分がなんとかしないといけないのか。今日のクラウディオは随分と粘るというか頑な過ぎる。
いつもならもっと早く折れてくれるし、アルカディアを見かねて仕方ないなって笑ってくれるのに。今日は本当にどうしたのか、ここでどう動くのが正しいのか。
頭の中でぐるぐると考えてみても、正しい答えなんて全然分からない。
本当に、こういう状況に弱すぎる。クラウディオ、呆れてるかな、どうしよう
などと考えていたら、ずっと黙っていたクラウディオが目を細めて笑った。そしてアルカディア、といつもみたいに名前を呼んでくれる。

だけどそれだけだ。それ以上は何も言わないし、何かをしてくれるわけじゃない。こういう場面になると、自分はいつも受け身だったんだな、とアルカディアは実感する。
いつだってクラウディオが先に好きだって言ってくれて、抱き締めてくれてキスしてくれるから。

​​もしかしてクラウディオは、それを嫌だと思っているんだろうか。だから何も言わないし、自分からは何もしてこないのかもしれない。

「…クラウディオ、その」

「……」

さっき名前を呼んでくれたきり、クラウディオはまた何も言わなくなってしまった。

アルカディアはクラウディオからは見えない位置でぐっと拳を握りしめる。そして勢いよく距離を詰めれば、クラウディオがぱちりと目を瞬かせた。驚いたような顔も凄くかっこいいけれど、今のアルカディアにそれを言葉にする余裕なんてない。

アルカディアは勢いのまま、クラウディオの唇に自分の唇を押しあてる。触れるだけの拙くて幼いキス。
自分からキスなんて滅多にしないから、正直な話ここからどうすればいいのか分からない。

なに、押し倒せばいいの。俺が、クラウディオを?​​…絶対に無理なんだけど。有り得ないんだけど。

だけどこのまま固まっているわけにもいかない。恐る恐るクラウディオの唇を舐めてみたら、視界の端に映る肩が小さく動いた。
そして次の瞬間、後頭部に手が触れてそのまま強い力で引き寄せられる。

「​​…ん!うっ」

アルカディアがしたようなキスじゃない。噛みつかれるみたいに唇が合わさって、動けないでいるアルカディアを笑うみたいに舌が侵入してきた。舌が口内を好き勝手に動き回るのはいつものことだけど、どうしてだろういつも以上に背筋がぞくぞくする。反射的に閉じた瞼の向こうで、クラウディオが笑う気配がした。

暫く好き勝手にされて、ようやく解放された時にはもう息も絶え絶えだ。もちろん、アルカディアだけが。クラウディオはけろっとした様子でとても楽しそうに笑っている。

「本当に、お前はかわいいなあ」

「はっ、あ……な、なにす…」

「なにって、先にキスしてきたのはお前だろう」

「…それは、クラウディオ、が」

「私はただアルカディアを見ていただけだが?何も言ってないよ」

「…っ」

それは、その通りだけれど。
こちらを嵌めたという自覚があって言ってるんだろうけれど、今日のクラウディオはいつも以上に、凄く意地悪だ。
たぶん、アルカディアがぐるぐると考えていた事も見抜かれているんだろう。絶対に、馬鹿な奴だと思われてる。

「馬鹿なところも可愛い」

「​​…心読むのやめて」

「顔に出てるぞ」

「…さっきのクラウディオだって、顔に出てたし…。キスしてって、目が訴えてた」

「そうだったか。忘れたな」

からからと笑いながら、クラウディオの唇がアルカディアのこめかみに触れる。ちゅっと軽いリップ音がして、思わず肩が跳ねた。

「かわいい」

「……ん」

「たまには今日みたいにお前からキスしてくれると嬉しいんだけどな」

「…んん……まぁ…でき、たら」

すごく恥ずかしかったんだけれど、それも知ってて言ってるんだろうなあ。