smoke the drunkenness
「サファイアさんに飲みに誘われたから行ってくる」
ネクタイを締め直しながらクラウディオはそう言った。
「遅くなるだろうから、私のことは気にしなくていい。自由にここは使ってくれ」
ソファーに座るアルカディアに眼差しを合わせると、クラウディオはその片手で赤色の髪を撫でた。優しく、暖かな手付きだ。その流れで膝の上のルカの頭が撫でられるのを見ながら、アルカディアは頷いた。
きっと、彼が帰ってくるまで起きているだろうし、つまみでも用意しているのだろう。そんな未来を予想しながら、支度をするクラウディオをなんとなしに見つめていたのだった。
「…………」
時刻は、真夜中近くを示している。壁に掛けられた時計は、今日も今日とて正しい時刻を記し続けている。
朝までには帰ってくるのだろうか。アルカディアは机の上に寝転ぶルカのお腹を撫でながら、夢想するように考える。どれくらい遅くなるのだろうか。出来るだけ長く楽しんで欲しい心地と、早くその姿を見たいという願い。どちらもが胸にある。強欲になっている。前よりずっと。ずっと深く。
「……!」
窓の外で車の音が聞こえたのは、真夜中のことであった。ぴくりと反応したアルカディアは少し開いたままの窓を見つめながらすくっと立ち上がった。
ここに共に住む彼達の車ならばもう少し騒がしい。静かな車の音は、日頃いつも聞く音と変わらない音であったために、抱いた予感は確信に近かった。
玄関ドアの開く音、それから閉じる音が窓から聞こえて、アルカディアは部屋の扉の前へと歩み出していた。クラウディオに違いない。そう信じた。
そしてその願いが果たされるのに時間は掛からなかった。鍵が差し込まれ、回されて、音を立てて錠が開く。ドアノブが捻られ、隙間から空気が流れ込む。この屋敷で、この扉を開けることのできる人間は、彼の他に誰もいないのだから。
「おかえり、クラウディオ」
扉が開き切り、革靴が敷居を跨いだ途端。流れ込む廊下の空気と共に鼻腔を撫でた匂いに、アルカディアは一度だけ瞬いた。煙と血と、それから煙草の匂いが混じり合い、その奥側にムスクの香りが微かに残っている。それが、帰宅したクラウディオの香りだ。けれども今感じ得たのは、アルコールの匂いが殆どだ。普段の匂いも確かにあるが、随分薄くなっている。
明るくさせておいた電気の下で見える彼の顔色は普段とそう変わりはしない。……頬も額も、鼻頭も、耳に至るまでいつも通りに見える。けれど、かなり飲んだのだろうと、香りで察することはできた。
「…ああ。アルカディア、ただいま」
アルカディアを一度見つめると、クラウディオは両腕を広げて己の元へと抱き寄せた。酒の匂いが近くなり、同時に、その中にある彼の体臭を感じ得る。
クラウディオは抱き寄せたまま、その頬を赤色の頭に擦り寄せた。その甘えるような仕草によって、アルカディアは彼が本当に酔っているのだと確信したものだった。
「…歩けそう?」
「ああ」
答えたクラウディオの声音は、いつも通りのものだ。しかし本当に大丈夫なのかは解らない。彼はあまり、酔いが表に出ないタイプなのかもしれない。
「ソファーに行こう。お水、取ってくるよ」
「……うん」
普段よりあどけない返答が聞こえる。けれども、クラウディオは抱き寄せたアルカディアの体を離そうとしない。むしろ更に…ほんの少しだけ力を込めて、いっそう抱き込む有様だった。耳の後ろで深く息を吸う音がする。匂いを熱心に取り込まれていることは解ったし、恥ずかしさも感じたが、アルカディアに抵抗は出来なかった。例え意図がわからずとも、クラウディオという男にされるなら、何だって嬉しいと思った。
クラウディオが動き出したのは、それからややあってのことだ。「中に行こう」と再度アルカディアが提案したのだ。
「寒くなかった?暖房、つけてるよ」
そう言えば、クラウディオは「…ん」と短い返答の後、ゆっくりと体を離した。渋々といった様子であることは、顔を見ずとも理解できた。酔いのため、人肌が恋しいのだろうか。クラウディオはアルカディアの手を絡めて握ってから、ようやくソファーへと歩き出した。
アルカディアはまずキッチンに向かおうとした。水とコップを、なるべく早くクラウディオに手渡してやりたかったのだ。けれどもクラウディオの手が一向にほどけないため、アルカディアも共にリビングのソファーへと向かうこととなった。歩みはゆっくりで、最中に会話はなかったが、暖かな体温が交わる手の重なりの中では無音さえも心地よかった。
ソファーに辿り着くと、アルカディアは手を握ったまま柔らかな座面に座り、伴って、クラウディオを腰掛けさせることに成功した。彼は内心にて密かに息を吐いたが、けれども、その手は未だ握られたままだ。水を取りに行くとアルカディアが言ったことを、クラウディオが忘れたとは思えない。クラウディオが目的に従って迅速に行動しない様は、随分と珍しい。
やはり酔っているのだ。改めて確信しながら、アルカディアは腰を宙に浮かせた。それでも、手は握られたままだった。
「お水、取ってくるよ」
アルカディアはもう一度腰を座面に据えて、クラウディオと目を合わせて告げた。アルカディアの声音には、苛立ちや焦燥がどこにもなかった。まるで、これをクラウディオに告げたのは初めてだとでも言うような口ぶりで、声音だ。そうして、握られたままの手で、絡み合うクラウディオの指や手の甲を優しく撫でてやる。それはさも、子供を宥め賺すような素振りだった。
「ああ…うん……」
クラウディオは短く答えを紡いだ。返答を極力短く済ませようとするのは、常からある彼の癖のようなものだが……そのときの声音は、癖というよりもやはりあどけなさが滲み出ていた。彼は口の中で転がすようにそう言った後、握ったままのアルカディアの手を今一度、ほんの少し強く握った。「そうだな」と言うや否や。名残惜しそうに、抱き締めるように握られた手はようやく離された。
「…すぐ戻るね」
「ああ」
一見すれば、普段よりも呼応が少しだけ鈍いだけで、いつもより更に寡黙となっているだけなのだろう。しかしそんなクラウディオの様子が、アルカディアにはまるで寂しがる子供のように見えて仕方がなかった。それだから、アルカディアはわざわざそう付け足して席を立った。駆けることこそしないが、先ほどのような緩慢とした足取りでなく、確かな歩みで、今度こそキッチンへと向かう。
冷蔵庫の中には、水の入った瓶が並んでいる。アルカディアは瓶をひとつ持って冷たい箱の戸を閉めた。それから食器棚からグラスをひとつ取って、ソファーへと戻る。
戻る途中、クラウディオの姿を見つめながら……その頸が赤く染まっている様を見つけて、アルカディアは密かに息を呑んだ。頬にも額にも、耳にすら出なかった彼の酔いは、ここに現れていたのだ。彼の頸がこんなにも真赤く染まることなど、滅多にありはしない。
その赤い皮膚にどうしようもなく口付けたくなって……アルカディアはそっと、テーブルに瓶とグラスを置いた。彼は珍しく酔っているのだから……そう、何度も自分に言い聞かせる。早く休ませてあげないといけない。少し酔いを覚まさせて、せめて服を変えてから、ゆっくりと寝かせてあげなければ。
「お水、飲めそう?」
「……ああ」
アルカディアは今一度クラウディオの隣に座ると、そうっとグラスに水を注いだ。透明な器を、これまた透明な液体が満たしていく。それが七分目ほど来たところで瓶を直立させると、クラウディオの方へと目をやった。クラウディオは返事をしながらも、ぼんやりとテーブルを見つめていた。
もしかしたら、彼はグラスを握れないかもしれない。それか、グラスを持つという思考に及ばないのかも。そう予想して、アルカディアはクラウディオの手を優しくつついて促してやった。
すると、それまで宙を見つめていたクラウディオは、すぐにアルカディアの方へと目をやった。そうしてつついていた手を先ほどと同じように絡め握る。柔い掌を指先で擽って、指股を通り、手の甲へと辿り着く。ぎゅうっと、まるで離さないと言わんばかりに優しくも強く握り、掌を隙間なく密着させると、ようやく安心したかのように、少し骨張った手の甲をすりすりと撫でる。
他愛もなく、何処か滲むように甘い戯れをクラウディオは無言の内に行った。アルカディアは困ったように眉尻を下げながら、耳や頬を赤らめざるを得なかった。彼は暖かな肌と肌が触れ合う感覚が、いっとう好きだった。それがクラウディオとのものなら、尚更。
「……水だな」
暫くそんなことを続けて、クラウディオはようやく零し、テーブルへと片手を伸ばした。アルカディアの手を握り愛でるもう片方の手は、依然として離されないままだった。
水を一度、二度と、ゆっくりと口に含み、喉に通す。
握られたままの手に優しく力を込めて握り返し、指先でその皮膚を撫でてやる。筋張った皮膚はいつもより熱く、心地いい。
それからどれほど沈黙が続いたのか、アルカディアには定かでない。おそらくクラウディオにも定かでなかった。秒針の音だけが聞こえる室内。都市から離れたこの屋敷では騒音どころか生活音すら届きはしない。何処かで鳴いている梟の鳴き声が時折遠くから聞こえたが、それも却って沈黙をいっそう深めるだけであった。
手を握り、肩が触れるほど近くに寄り添って、ふたりは言葉もなくその沈黙を飲み続ける。静かに、ただ時だけが流れていくその時間を、アルカディアは愛おしいと思った。音こそないものの、隣にはクラウディオがいて、その体温を感じ取れる。普段より少し熱いその温度によって、皮膚の裏側で鼓動を鳴らしている心臓を感じ取れる。時折指先で手の皮膚を撫でると、握る力が僅かに強まって……それが酷く、狂おしいほどに愛おしい。真夜中に漂う穏やかな時間であった。
「アルカディア」
揺蕩うような沈黙を終えたのは、ひとつの声だった。それは柔い声音で、いっとう大切そうに音を並べていた。沈黙を優しく破いたその声に、アルカディアは素直に顔を擡げる。穏やかに虹彩へと色を広げる赤い瞳に、随分優しい面持ちをした男が映る。
「おいで」
片方の手が広げられ、もう片方の手で自らの膝に触れる。その仕草が何を望んでいるか、わからない程に愚鈍ではない。それだから、アルカディアは瞬間俯きかけて……畢竟目を逸らすこともできないまま大人しく腰を上げた。
頬が熱く、それが皮膚という表皮の色素にも現れているだろうことは自覚していた。内側だろうと外側だろうと、与えられた熱に素直に呼応する。それを当然見て取ったクラウディオは、浮かべた微笑みを深くしてアルカディアを待った。その微笑みが、アルカディアの羞恥を微かに煽り、その喜びを鼓動と共に沸き立たせた。
一度立ち上がって、クラウディオの方へと身を屈めようとして……アルカディアは悩んだ。どのように座ればいいか、解らなかったのだ。
羞恥を混じらせながら当惑するアルカディアを察したのだろうか。クラウディオはコップを机へ置くと、空かせた手を伸ばしてアルカディアの膝へと触れる。寝具の柔らかな素材に包まれた関節を指先で覆い、撫でて、暗黙の内に自身の元へと呼ぶ。
優しくも意図のある手付きに、アルカディアは僅かに息を飲んだ。頬の白皙に赤みをいっそう混じらせながら、手に従うようにして片膝をクラウディオへと向ける。片脚を折り曲げて、ソファーに座るクラウディオの脚の、すぐ隣へと膝を下ろす。少しと目線をやると、微笑んだままのクラウディオの目と出会った。そして目線に応えるように、クラウディオの手が腰へと触れる。手は先ほどと同じように優しく撫でて……今度は促すかのように、掴む素振りをして引き寄せようとするものだから、アルカディアは羞恥を味わう間も無く、慌ててもう片膝も同じようにクラウディオの膝のすぐ隣へと下ろしたのだった。
「いい子だ」
腰を撫で続ける手に従って、アルカディアはおずおずと、臀部をクラウディオの膝へと落としきった。すっかりと座り込んだアルカディアを見つめると、クラウディオは満足気にそう言って、両手をアルカディアの顔へと差し向ける。掌で、指で、割れ物に触れるかのようにそうっと頬を包むと、そのままアルカディアへと目を注ぐ。琥珀色は焦点を微かに滲ませながら、けれど何処にも逸れることなく眼前を見つめ続ける。アルカディアはその瞳に見惚れていた。一心に注がれる眼差しは擽ったく、恥じらいをつつく程の真摯さであったが、それに構うよりも胸に湧いた感嘆に身を委ねたいと思った。
「……」
息さえ僅かに薄くしながら、アルカディアは自らの手を擡げ、クラウディオの手の甲へと添える。指先で触れたそれにこわごわと掌をも合わせていく。クラウディオの手が動くことはなく、よって、アルカディアの手が払われることもない。鍛え抜かれ、筋張った手の甲を感じて、アルカディアは薄く息を吐きながら睫毛を伏せると赤い瞳にヴェールのように掛け、俯くふりをしてその掌へと頬を寄せる。
擦り寄るような……否、正しく擦り寄る仕草である。恥じらいと、もし拒絶されたらという恐ろしさのため、俯きによって紛らわせようとした仕草は、擦り寄る今となっては恥じらいを煽るものでしかなくなった。
頬が熱くなるような、胸に冷たい風が吹くような感覚を憶えながら、アルカディアはそうっと、瞼を擡げる。緩慢と擡げられた瞳には、琥珀色が映る。先ほどと同じように自身を見つめ続ける瞳。そして先ほどよりも優しい色を滲ませた、熱い眼差し。注がれるそれが言外に……否、言葉以上に感情を物語っていて、アルカディアは胸を、体を熱くさせた。もし拒絶されたら、という思いは、もう二度と寒さを感じることがないだろうと確信めいて予想が出来る。それ程の眼差しであった。
「可愛い」
随分と近くにある唇が開かれる。無駄のない、僅かな動きで言葉を紡ぐ。これはクラウディオの口が常から行う癖のような動きだ。アルカディアと共にいる時には、それが少しだけ緩慢さを帯びる、優しさの姿。それが目に映ったものだから、聞こえた声はクラウディオに違いないと、アルカディアに理解できた。それだから、彼は脳がそれ以上の理解を行えなかった。
「……え」
短い言葉がアルカディアの口から零れ出す。それは言葉になりはしなかったものの、喫驚を現す何よりの音と成っていた。唇は二の句を紡げなかったが、脳裏で渦巻く思考は既に言葉と成っていた。今、なんて?
「可愛い」
クラウディオがもう一度紡ぐ。
「可愛いな、アルカディア」
その言葉と、自分の名が連なって紡がれたことに、アルカディアは息を呑んだ。瞬きすら出来なかった。喫驚のあまり唇が薄く開いて、けれどもなんの音も紡げはしない。そんな呆けた顔のまま、アルカディアは真白く染め上げられた頭で、必死に考えようとした。
彼は今、なんと言ったのだろう。けれどそんなことは、考える間も無く明らかだ。聞こえた言葉は、声は、ひとつも違わず脳裏に留めてある。あり得ないことだが……例えアルカディアが忘れていたとしても、その言葉はすぐに認識できるだろう。なにせ名前と称賛は、それから幾度も、幾度も紡がれたのだから。
「可愛い、可愛い……」
ひとつ、ひとつと、クラウディオは淀むことなく、走ることもなく音を紡いだ。まるで確かめるかのように……自身が紡いだその言葉がまさしく正しいことを確かめ、満足に頷くかのように、ひとつ、ひとつと。注がれる眼差しは直ぐとアルカディアを捉え続ける。柔らかな頬を包む手は、いつしか撫でる手へと変わっていた。
認識し、鼓動し、顔にまで上り詰めた感情により赤みが差した頬の熱さを悟ったろうか。否、悟ったろう。でなければ頬を撫でる手が、こうも優しい訳がない。割れ物を触れるような指。強く摘むだけで傷跡がつき、元通りにはならない花弁に触れるかのような指先。それらはアルカディアに羞恥を与え、動揺を与え、何よりの歓喜をも与えていた。
「可愛いな、アルカディア……可愛い…可愛い」
それが頬の赤さを揶揄するものなのか……何を指して告げているのか、アルカディアは解らず当惑した。なにせ、クラウディオがこういった言葉を告げるのは、決まってベッドの中だけであった。思いを寄せているのはアルカディアだけだ……そうアルカディアは信じ込んでいる……。
クラウディオがアルカディアに愛のような言葉を囁くのは、初心なアルカディアを案ずる為である。アルカディアが、ふたりで横たわるシーツの暖かさに、その白肌に触れる手の熱さに怯えないように褒めそやしているだけのことだ。アルカディアの好意をクラウディオは知っているし、アルカディア自身隠しもしていない。彼はその心をなぞり、行為に支障がないように優しさを与えているのだ。そのように、アルカディアは納得していた。
それだから今、ベッドの上でもない真夜中のリビングで、こうも熱っぽく愛じみた言葉を囁かれるのはどうしてだか、まるで理解が及ばなかった。
「可愛い、可愛いよ。お前は可愛い…」
「ん、…っ、ぅ……」
幾度目かの囁きの後、柔らかな口付けを与えられる。皮膚の薄い男らしい唇、愛を囁くのに飽くことがないと言わんばかりのその口を、アルカディアは拒むことができなかった。拒むことなど、どうして出来たろう?アルカディアの動揺と当惑には嫌悪感がひと欠片とて含まれない。アルカディアは愛を囁く前から、口付けを施す前から、その唇ごとクラウディオを愛している。
「……っん、……んぅ、ん………っん、っ」
「ん、……ん……」
クラウディオは次々と口付けを与えていく。唇同士を触れ合わせるだけの柔いキスだ。しかし殆ど触れ合う距離で離れては再び重ね合わされるため、アルカディアが静止を乞う余暇はなかった。
そうする最中にも、頬を撫でていた手が動きを見せる。熱を帯びた柔い皮膚に触れていた手は、するりと米神へ、耳へと滑り、頭部へと回る。シャワーに入って久しいため、すっかりと乾いた赤色の髪を優しく撫でながら、頸へ、背中へと撫で降りていく。
熱い掌の撫でる様、それから幾度も幾度も触れ合う唇は、先程まで与えていた愛情の言葉を体現するかのようで、アルカディアはいっそう目の奥に、頭に、熱が篭っていくのを感じ取る。
「可愛い、可愛いな……」
クラウディオが手と口による愛撫だけでは飽き足らず、ついに口づけの合間に愛撫の言葉を囁き始めた頃。アルカディアはすっかりと、酩酊の中へ片足を引き摺り込まれたかのような意識に見舞われていた。頭の中はくらりと眩暈がするようなのに、虹彩はいつまでも眼前を映し続ける。頬を綻ばせ、口端を擡げ、そうしてようやく微笑む男を見る。口元よりはその目が酷く如実と、愛おしいという感情を滲み出している彼を見詰める。瞬きさえ許さないというように。たった一度の瞑目すらしたくないと言わんばかりに。
アルカディアは眼前を映し続ける自身の眼が熱情に塗れているだろうことを知っていた。今だけでない。毎日、鼓動と共に全身へと伝う熱情が、普段よりも隠すことができない。鼓膜を震わせる音が、唇に注がれる口付けが、あまりにも熱いためだ。加えて、そのどちらもが止め処なく与えられ続けている。酔いのためだろうか。人は酔うと、泣く者も笑う者も、キスをする者だっている。彼は愛を囁く者だったということだろうか。不可抗力により与えられるものだというのに、それは酷く心地いい。
出来得るなら……アルカディアはずっとこの声を甘受したいと願った。この口づけをいつまでも受けていたいと、心底思う。クラウディオを愛するアルカディアにとっては、極上とも言える愛撫である。特に、アルカディアは口付けが好きだ。クラウディオの声が好きだ。ただ触れ合うだけでも酷く心地よく、囁きだけで幸福感が満ち満ちていく。
けれども、駄目だと、頭が言う。必死に理性を手繰り寄せる。このまま目を瞑れば、彼は共に身を横たえてくれるだろう。ベッドではなくソファーとなるが、それでも肌に手を滑らせてくれるに違いない。それは酷く甘美なことだ。
けれども……と、アルカディアは必死に、心の内で首を横に振る。彼は酔っているのだ。早く休ませてやらなければならない。眠った後も休みといえど、無理をさせる訳にはいかないのだ。
何より、酩酊に引き摺られるなどあってはならない。寝込みを襲うことと、何が違うというのだろう。誘われているのは自分とはいえ、彼の尊厳を損なうことをしたくはなかった。
「ぁ…っ…♡くら…でぃお♡…、やすまないと…っ、ぁ♡」
アルカディアは言いながら、顔を少しばかり俯かせる。そうすることで、降り注ぐ口付けから逸れ、注がれる眼差しからも心を避けようとした。皮膚を撫でるように注がれ続ける眼差しを感じながら……それに後ろ髪を引かれながら、アルカディアは両手でクラウディオの胸部をそっと抑え、クラウディオの膝から腰を浮かせ、立ち上ろうとする。
けれども、与えられる愛欲に震えるその身は、畢竟、膝元から離れることはなかった。
緩慢と背を撫でていたクラウディオの手が腰へと宛てがわれ、擡げようとしたアルカディアの腰を優しくも力強く押し留めたのだ。それだけではない。もう一方の手は頸へと回り、後頭部ごと包む様にして覆い包む。赤色が滲んだ頸を指先が擽るように甘く撫でる。そうして引き下がれなくさせたまま、唇がキスを与え続ける。無理矢理というには優しい力加減で、それはさながら駄々をこねる様な始末であった。
アルカディアは眉尻を下げながらも思わずうっとりと目を細める。胸の裏側が甘く締め付けられるようだ。加えて、触れるばかりであった唇が歯を剥き、甘く噛んで、舌を這わせてくる。喫驚と陶然により薄く生じたアルカディアの唇の隙間に舌先が捩じ込まれ、奥側で蹲っていたアルカディアの舌と甘く絡む。まるで逃したくないと言わんばかりに深くなる口づけに、アルカディアの腰がぐっと重みを帯びていく。
「ん、ぅ♡っ♡っ、ん♡…っ♡んぅ、く…♡…ッ、っ♡」
舌先を甘く絡める程度だったキスは、交わすごとにその程度を増していく。互いの舌背を撫で合うまでとなったときには、アルカディアはもう立ち上がることを諦めていた。どころか、そんなことは思考から消え去っていた。
けれども、ぴんと伸びていた背を丸め、身を委ねようとしたとき……股ぐらに感じた熱によって、蕩けかけた意識は些かの明瞭を得ることとなる。
「ッ!♡…〜〜ッ♡んん、ぅ♡っ♡ん、ん…♡♡」
股座に感じた熱。それは紛れもなく、アルカディア自身の欲望であった。与えられる口付けで、愛情で、すっかりと膨れ上がった欲が布越しに如実と露出している。アルカディアの丸めかけていた背が強張り、眉尻が悩ましげに下がる。男の体を持って生きる上では、致し方ないことだ。そして難儀なことでもある。
なけなしの理性を取り戻したアルカディアは、今一度抵抗を始めた。クラウディオの胸部に触れた両手で優しくその身を叩き、静止を呼び掛ける。なんとか膝から離れようと腰を捩り、あわよくば浮かせようとする。それは立ち上がるための行為であったのだが、ともすれば、股座にある欲望を隠そうとする様相でもあった。どうか自分が孕んだ欲望の様が、クラウディオに知られないように。彼が口付けばかりに夢中になっているうちに。アルカディアはいたいけにもそう願っていた。
「ん、ん…♡…っ♡……ッ!♡♡っ♡んっ…♡」
願いが果たされないことは存外にも早く露呈した。否、していた。
どれほど胸を叩こうとクラウディオは口付けをやめず、どれほど腰が立ち上がりたそうにくねろうとも、その手はアルカディアの腰を優しく覆い包んだまま容赦なく押し戻す。
そうして、アルカディアの両手が胸に縋るようにして衣服を掴み始めた頃。股座に熱い快感を感じて、アルカディアは息を呑んだ。そして咄嗟に目をやり、その顔が一気に熱を増す。
アルカディアの股座に触れたのはクラウディオの指だ。節くれのある指が、局部へと触れている。布の膨らみをなぞるように。まるで、勃っているぞと指摘するように。
「〜〜…っ♡♡ッ♡ン♡んんぅ♡ッ……♡ン♡ん゛…♡…っ♡ぅ…っ♡♡」
羞恥から、そしてもはや手遅れと言える淫蕩の予感から、アルカディアは無理矢理にでも腰を擡げようとした。胸部にあった手を肩へとやり、それを力の入らない体の支えにしようとした。
しかし持ち合わせる力があまりにも違う。アルカディアはぴくりとも立ち上がることはできなかった。どころか、その腰はいっそう抱き込まれ、布地を押し上げる局部はクラウディオの股座へと押し付けられる形となった。先ほど迄のように尾骶骨の辺りを覆い抑えられるのではない。両手で確と腰を掴み、否応もなく大胆に引き寄せられるのだ。股座同士が擦り合う。酒が入っているせいか……クラウディオの股ぐらには未だ膨らみができていない。だからこそ余計にアルカディアの高揚を思い知らされるようだ。
クラウディオは加えて、両手で掴んだ腰を、そしてソファーの座面に据えた自身の腰を上下に揺する。二人は互いに衣服を纏ったままだ。擦れ合う局部も未だスラックスと寝具に包まれている。勃起しているのはアルカディアだけで、兆す息子と後孔を刺激するものは何もありはしない。それでも、挿入を思わせるその動きに、頭を、体を襲う熱は膨れ上がっていく。とろりと、アルカディアの赤い瞳が快楽に蕩けていく。ちゅ…♡ちゅぅ、ちゅ♡と、クラウディオは目を開いたまま口付け続けて、己の色の強い琥珀色の瞳でその様をじっと見つめている。
「ん…♡んぅ♡ぅ…っ♡ん゛♡♡ん、ふ……♡ぁ♡♡は、♡ひ…♡ん♡ン♡♡」
口づけは容赦なく続けられる。アルカディアは酩酊の中に引き摺り込まれていくようだった。クラウディオの口内に残るアルコールの味と香りの名残で酔ってしまったかのように、アルカディアは口付けに溺れていく。
ちゅ♡ぢゅぅ…♡と、唾液ごと強く舌を啜られると、まるで自分の何もかもが食べられてしまうような心地がする。上顎を舌先で、舌背で、ぞりぞりとなぞられる。硬口蓋と軟口蓋の境目を確かめるように舐られるのが、アルカディアは好きだった。それをクラウディオが覚えていない訳がない。それを幾らか続けられ、終いに飲み干せと命じるが如く唾液を注がれれば、アルカディアは快楽に陶然とした様子で従順と飲み干していった。
口づけは深く、食べ尽くすようだと言うのに、体を撫でる手だけは優しいままだ。腰を掴む両手は、アルカディアの体が膝元から動かないことを見ると、鷲掴む力を優しく弱めた。アルカディアが堪らず自ら腰を揺すり始めると、その手はさも褒めるように揺れ動く細腰を撫でる。そして時折ぐ…っ♡と優しく力を込めて自らの股座へと腰を押し込んでやった。
「ッ♡っ♡♡ん、…♡っぁ…♡ぁ、ぅ♡ッん♡ン♡ん♡♡ん、く…♡♡」
ただ口づけと、布地が擦れ合うばかりのものだ。擬似性行とすら言い難い愛撫が続けられる。アルカディアは堪らない心地だった。滲むような快感が深く体を犯していく感覚。それに溺れることを止められない。そして目の前には、自分を見つめる深い琥珀色が映る。飴細工のような、宝石のような瞳。先程までぼんやりと美しく輝いていたそれは、今は月夜を映し込んだかのように深く、時折、獣のように煌めいて、アルカディアを見つめ続ける。
「ん゛っ♡♡ん…ッ♡♡っ♡〜〜…ッ♡♡ぁ、へぅ…♡っ♡ん゛ん、ぅ♡♡ん♡♡ん゛〜〜…♡♡♡」
じゅる…っ♡♡じゅうぅ♡♡と舌の付け根が舐られ、舌全体を強く啜られる。腰がぐり…♡ぐりぃ…♡と大きな両手によって股座に押し付け、擦り付けられる。
絶え間なく続いた快感の最中に与えられた深く強い愛撫に、アルカディアの体が幾度か震えた。がくっ♡かくかく♡と、腰を基点にして起こった痙攣を、クラウディオは掌で覆い包む。片方の腕をも回して細腰が抱き込まれ、いっそう体同士が密着する。そうして、深く絡め合っていた舌を甘く噛まれた。
熟れた果実をゆっくりと潰されたような深い快楽。体の芯へと深く染み込むようなその快感に、アルカディアは身悶える。クラウディオの肩にあった手が震えながらソファーへと落ちていく。口付ける間にも喘ぎを滲ませ、甘えた声を喉で鳴らす。赤い瞳に涙が滲み、真赤い肌がそれを淫蕩に魅せた。
呼応するように、クラウディオの手が、腕が、快感に跳ねる背に回される。甘く噛んだ舌が慰めてやるように絡み撫でられる。琥珀色がゆっくりと細められ……それはさも微笑むようだった。
そうして、喉から鳴る甘えた声の全てを口付けで舐りとった頃。ようやく……名残惜しげに緩慢と……アルカディアの唇は解放された。
「ぁ…♡ぁ……っ♡♡…♡……ッ♡は……ァ…♡」
喘ぎ混じりの熱い息を零した後、アルカディアは快感に酩酊する頭に耐えきれず、額をくったりとクラウディオの肩へと寄せた。そのまま首元へと擦り寄り、うっとりとした緩慢たる瞬きを繰り返す。一部に水滴が滲み、束となった睫毛がクラウディオの肌を擽る。逞しい首筋に口付けるように、甘えるように唇を寄せながらも、アルカディアは悩ましげに眉尻を垂らす。クラウディオの股座と密着し、擦れ合う自身の局部がすっかりと濡れていることは、見ずとも感じ取れるほどだった。
「…っ♡……♡……ば、か…ぁ♡♡」
思わずと、非難の言葉が口から漏れ出る。声音には恥じらいの涙が滲み、首元に頬を擦り付ける様はさも愚図るようだ。
しかしアルカディアはなにも、怒っている訳ではない。声音の正体は聞こえる通りの恥じらいと、それから当惑だ。クラウディオは優しい男だ。アルカディアが首を横に振ればその通りに意図を汲んだ。今日のように、幾度となく訴えた制止を聞き入れなかったことなど有りはしなかった。
これも酔いのためだというのだろうか。いつにない強引な様と、いつも以上に甘く苛烈な愛撫に、アルカディアは惑う。けれど縋り付いたこの身から離れたいとは、決して思えなかった。
その声音に怒りがないことを、クラウディオも聞き取ったのだろうか。赤く火照り、汗の滲むアルカディアの首筋に彼は口付ける。ついで耳朶を柔く噛まれ……じんっと感じ得る快感に、アルカディアはくすぐったそうに声をくぐもらせる。けれど、顔を背けれども、クラウディオの口は耳が駄目ならば首筋へと、跡がつかない程度に優しく口を這わせていく。まるで強請るような……否、無言の内に強請る素振りである。優しく歯を立て、舌で舐り、ちゅ…♡と口付けする。
そんな甘えるような、ともすれば許しを乞うような愛撫に、アルカディアはついに観念した。そろりと顔を上げると、蕩ける赤い眼が久方ぶりの琥珀色と出会う。先ほどと同じように煌めく愛しい瞳だ。その瞳に見惚れるまま、アルカディアはうっとりと目を細める。クラウディオも同じように熱のこもった眼差しでアルカディアの目を見詰めると、呼吸に従って上下する背を撫でながら口を開いた。
「キス、気持ちよかったな」
「…♡…ん……、ん…♡」
「ならもう一度だ」
「ぁ、えっ、……っ♡ぁっ♡ん♡んぅ〜…っ!♡♡」
アルカディアが告げられた言葉を理解するより前に、その唇へ再び口づけが注がれる。恍惚とした眼は瞬間、僅かな丸みを持った。けれどもそれは、すぐに細められることとなった。与えられる口付け、それから愛撫、それらによる快楽によって。
「…っ♡ん…♡ッ、ん♡……っ、ゃ…♡ゃ、だっ♡♡やめ…っ、ん♡ぅ♡♡ぁ、ふ…♡」
ぢゅぅ…っ♡と唇を強く吸いながら、舌が咥内へと入り込む。今一度始まった愛撫に他ならない口付けに、アルカディアは易々と意識を奪われそうになった。深い絶頂を味わった体は、その意識ごと快楽の名残に浸っていたのだから無理もない。
けれどもアルカディアはなんとか、この愛撫を退けようとした。らしくない拒絶を紡ぎ、顔を僅かとでも背け、口付けをやめさせようとする。
注がれる愛撫も言葉も何もかも、嫌なものはひとつとしてない。嫌なわけがないのだ。けれどこんなにも酔いが回っているのならば、休ませるべきである。そしてなにより、恋情を患う胸裏にとって、こんなにも深い愛撫はあまりに過ぎたるものだ。酷いほどの歓喜を得てしまう。勘違いすら起こしてしまいそうなほどに。
けれどもクラウディオは止まらない。背けた顔へ追い縋るように唇を這わせ、幾度となく口付けを果たしていく。まるで拒絶の言葉を阻むように何度も、執拗に。ぢゅうっ♡と吸い付き、舌で舐り、時折歯すら柔く立てて口での愛撫を続ける。
「ん♡ん♡ん♡ッ…♡ゃめ…、て♡…っ♡♡も…っ♡ぁ、っ…ひ♡♡っ♡ぁぁ♡♡」
アルカディアは懸命にも、制止を訴え続けた。甘受を望む心の裏に嘘をつく言葉を紡いだ。
しかしその口はキス以外の愛撫によっても阻まれる。クラウディオの手が腰ばかりでなく、臀部を鷲掴んだのだ。ぎゅぅ…っ♡と、肉付きの悪い臀は大きな手の中にすっかりと収まる。そして掴むだけでなく、揉み込む指によって、その形を変えられていく。
ぐに……♡ぐにぃ…っ♡と、痛くはないが強い力で揉んでいくその指付きに、アルカディアは甘い声を上げざるを得ない。触れれば骨が当たるような双丘は、クラウディオに愛されて快楽を得るようになった箇所であった。
「ん♡ん♡っ♡♡…っ♡んぅ、ぅ♡ん〜…♡♡」
臀部への愛撫によってすっかりと言葉を取りこぼした唇を、クラウディオは満足げに食む。ちゅ♡ぢゅぅ♡むちゅ…♡とわざとらしく音を立てて続く口付けを、アルカディアはもう拒むことができなかった。入り込んだ舌が自らの舌に絡み付くことも、それに自ら絡めてしまうことも止められない。
臀部を揉み込む手は大きく、その指を双丘の谷間にまで至らせる。ぐにぃ…っ♡とそこを割り開き、すっかりと濡れる後孔を晒す手つきだ。衣服越しにも、その指の意図を感じ取れる。
アルカディアの目がいっそう蕩けていく。快楽に浸ることを止められない。脳が記憶を……愛撫の記憶を蘇らせることを止めることができない。割り開いたその谷間に剛直を差し入れ、欲しがる雌孔に擦り付ける愛撫。過去に与えられたその戯れを思い出してしまう。ずり…っ♡ずりぃ…♡と臀で自らを扱く剛直の熱を。濡れる後孔に当てつけるように擦り付けられるあの逞しい硬さを。
「…ッ♡っ♡ん゛…っ♡っ♡♡……っ♡…は……っ、う……♡」
びくっ♡と腰が跳ね、喉から濁った音が漏れ出す。腹の奥から雄膣へどろりとした腸液が垂れ出したことを、感覚で認識できる。夢想を促す愛撫で、そして正しく促された脳によって、深い快感が滲み出している。
雄の強さに屈したかのような快楽の名残に、アルカディアは僅かに離れた唇から情けない声を零した。もはや閉じることができない薄い唇を、クラウディオは舌で優しく舐る。揉み込み続けた臀部を優しく撫でる手つきからしても、褒めているつもりなのだろう。
アルカディアはもう、クラウディオが続けて与える愛撫を拒むことはできなかった。薄く開いたままの唇から舌を伸ばし、唇を撫でていたクラウディオの舌と触れ合わせる。そうすれば、クラウディオは優しげに目を細めて、再び唇同士を触れ合わせた。
「ぁ♡♡…っ♡♡ん♡ん♡んぅ…♡♡」
臀部を覆い包んだままの手が、再び薄い肉を揉み込んでいく。アルカディアはその手に擦り寄るように腰をくねらせた。もう肩や胸を叩こうなどとしない。むしろ手をクラウディオの脇から背へと回し、離れないように抱き締める。体中を満たす快感に怯えるように指先を立て、背を覆い包むシャツをかき集めれば、慰めるように口づけがいっそう深いものとなった。
「ッ♡♡ん゛ぅ…っ♡♡っぁ♡あ♡は、♡っ♡ッぅ♡♡ん♡♡ンん♡っん♡」
ぎゅぅ…っ♡と、クラウディオの手が一度強く双丘を揉む。雄らしい手つきにアルカディアが思わず腰を揺らせば、クラウディオはその細腰を掴んだまま自らの股座へと引き寄せた。ぐり…っ♡と、布越しに局部同士を擦り付け合う。先ほども味わった、焦れったくも淫猥な愛撫だ。先ほどよりもクラウディオの局部に硬い感触がある気がして、アルカディアは必死に自身の後孔へとそれを擦り付けようとした。けれども次第に、そうする意思さえ快楽によって有耶無耶に掻き混ぜられていった。
クラウディオは手でアルカディアの腰を引き寄せながら、その股座へと自身の腰を突き上げる。激しくも深い挿入を思い出させる動きだ。いつかの夜、膝に抱えられたまま愛された記憶が脳裏にまざまざと思い出されて、アルカディアは堪らなかった。まるで本当に剛直が埋まっているかのように、雄膣が甘くうねり、収斂する。そしてどうやってもなにも抱き締められないことに酷い切なさを覚える。腸液が垂れ出し、下着を濡らしていく。下穿きの色を濃く変色させる正体がアルカディアの愛液なのか精液なのか、もはや誰にもわからないことだった。
「んっ♡ん…♡っ…は、ぁ♡♡ぁ♡らぇ♡♡い、く♡んん♡い、く…っ♡♡」
身体中へと滲みきり、迫り上がる快感に耐え兼ねて、アルカディアは口付けの合間になけなしの言葉を漏らす。宣言とも白状とも取れるその声に、クラウディオは声では返答しなかった。ただ愛おしげに微笑んだ唇で口付け、甘く舌を絡める。腰を引き寄せ、股座を強く押しつけて、ぐりぐり…っ♡と揺らしながら擦り付け、更なる快感を与えようとする。
言葉こそないものの、何よりの返答に違いない愛撫をアルカディアは甘受した。ばち、ばちっと、弾けるような法悦が奥深くで幾度も響き、体全体へと染み渡っていく。声で、跳ねる体で、それを体現しようと、クラウディオの手も口も止まることがない。まるで離さないと言わんばかりの抱擁と愛撫。あまりに幸せだった。
「っ♡ぁ…ぁ…♡♡も…♡ゆう、ひて…♡ッ♡らめ…っ♡ら、ぁ♡ん♡ん〜…っ♡♡」
どれほどの時が経ったのか……どちらにも時計を見る余暇はなかった……アルカディアが喘ぎに泣き声を交えて懇願を紡ぐ。自分が何度達したのか、もはや定かでない。ただ股座は濡れそぼり、色の変色を広げていた。
懇願ですら拒絶を許さないとばかりに、クラウディオは容赦なく口を塞ぎ、言葉を紡いだ舌を自身のもので絡めて黙らせる。強引でひたすらに甘いキスに、アルカディアはうっとりと感じ入る他ない。ぢゅぅ…っ♡と、まるで言い聞かせるように唾液ごと強く舌を吸われた後、ようやく唇が離される。
アルカディアは喘ぎ混じりの息を零すと、そのままくったりとクラウディオの首元に顔を寄せた。額と頬を擦り付け、背に回していた手でぎゅぅ…っ♡と抱き縋る。
熱い息を吐き出しながら、アルカディアは自分の腰が揺れ動いていることに気付いていなかった。度重なる快感で力が入らずに腰を押し付けているのか、ただ雄を求めてへこへこと腰を揺らしているのか、もう解らなかった。
「ん…ぅ…♡…っ♡ん、ん…♡…ッ♡…ぁ…ぅ…♡」
撓垂掛かるアルカディアの体躯がくらりと傾き、ソファーの座面へと横たわる。卒倒のような唐突さはなく、酩酊特有の不快感もない仰臥位だ。クラウディオが背を撫で回していた両手と両腕をもって、その身を優しく横たえたのだ。
白い瞼がうっとりと瞬きをすれば、明るい天井と、自らに乗り掛かる男の美しい琥珀色の瞳がちらちらと映る。琥珀色はゆっくりとアルカディアに近付き、次第にその輪郭がぼやけて、ちゅ…♡という軽やかな音が耳に届いた。ちゅ♡ちゅぅ、ちゅ♡と、音は幾度も落ち、唇に柔らかな感触が触れる。口付けだと理解した頃には、アルカディアは触れる唇に吸い付いていた。ちゅぅ…っ♡と、ほんの少し強く吸い付き、舌で舐る。男らしい薄い唇。幾度触れても、舐っても、決して飽きることのない愛おしい口。互いに求め合い、与え合うキスが続く。
ちゅ…ちゅっ♡ちゅむ♡と、幾度となく唇を触れ合わせながら、アルカディアは股座に冷たさを感じた。クラウディオがキスをしながら、アルカディアの衣服を脱がせているのだ。晒された肌は白に赤色を混ぜ、すっかりと桃色に滲んでいる。赤く膨れた局部は未だ緩く首を擡げており、精液なのか先走りなのか解らない体液でその身を濡らしている。
寒い。と、アルカディアは思った。室内は暖房で暖められている。寒さなど何処にもないはずなのに冷えを感じる程、その身は高揚している。けれども思考は体感に捉われない。それよりも降り注ぐ口付けがあまりに愛おしく、熱情を駆り立てている。休まることのない口への愛撫に、アルカディアの唇も舌も痺れるようだ。けれど、そんなことに構っていられない程には、胸裏は歓喜で満ち満ちている。
「ん…ん…♡……♡…ん…、ぅ…?♡…♡……♡」
「……ん、……っ、…ぅ…、…ん…」
口付けに夢中になる最中。ごしゅ♡ぐしゅ…♡という濁った水音が耳に届く。それが聞こえ始めてからややあってから、アルカディアは微かな疑念を抱いた。なんだろう。と、恍惚とした思考はそれだけを思う。口付けの快感を前には、追求すら億劫であった。けれど、思考は緩慢と動き続ける。その音が、不思議とひどく甘美なものに思えたからだ。
キスを味わいながら途切れ途切れに思考を伸ばし……その正体に気付いたとたん。アルカディアの体がいっそうの熱を持つ。口付ける唇から殊更甘い声が漏れ出し、堪らなそうに身を捩る。
キスの合間に届いていた水音。それはクラウディオが自らの剛直を擦り、勃たせている音に他ならない。股座から漂う特有のにおいから、口付けの合間に漏れ出すクラウディオのくぐもった声から、それが解った。
「ッ♡♡ぁ……♡♡♡…っ♡ん♡♡ん♡〜〜…♡♡」
アルカディアは歓喜した。熱く茹だり、踊るような心のまま両膝を立て、クラウディオの腰を挟んだ。本当は脚を擡げ、その腰を抱き締めたかったものの、度重なる快感によって、下半身には殆ど力が入らなくなっていた。桃色の膝口で擦り寄り、どうにか抱き寄せて、早々に自身の股座で迎え入れそうとする。雄膣は布越しという焦ったい愛撫を受け続け、渇望して甘く疼いては、更に愛液を垂らし続けている。
逸る雌の動きを、クラウディオも感じ取ったのだろう。ぢゅうぅ…っ♡♡と、歯を甘く立てながら強く吸い付いた口付けは、まるで叱るようなものであった。
「ん、ん♡…ッ゛!♡♡♡ぁ♡♡っ…ん゛、ぅ……♡♡」
そうして、もはや幾度目かなど解りやしない口付けの最中。ぐちゅぅ…♡と音が聞こえたのと同時に、アルカディアは体中に酷いほどの熱が行き渡るのを感じ得た。過ぎたるその熱に体の肉も、神経も、思考も、何もかもが支配され、真白く塗り潰される。
剛直の切っ先が、後孔へと埋められたのだ。前戯らしい愛撫がなかった為に、普段よりも圧迫感が強く襲い掛かる。愛されることに慣れた雌孔は、驚いたように雄を強く抱き締めた。けれどアルカディアは、その苦しさすら愛おしかった。深い恋情は苦痛を快楽へと導き出し、心地よさだけを体中に広げていく。そうして、蜜壺は先走りを微かに垂らしていた剛直を自らの愛液で塗れさせていく。
「ぁ♡♡ん゛♡♡っ♡ぁ…ッ♡♡ぁ、ぁ……っ♡♡♡」
ずぷ…♡ぬぷ…♡と、怒張は雄膣の中をゆっくりと進んでいく。甘い蜜を味わうように緩慢とした動きだ。それは雌孔に雄を味合わせる動きでもある。この週末はもう得られないだろうとばかり思っていた熱だ。
アルカディアの唇から歓喜の声がまろびでる。上擦った甘い声だ。ベッドより幾らも狭いソファーの上で、アルカディアは頸を反らし、後頭部をクッションへと擦り付けながら身悶えた。くねる体はクラウディオの抱擁により抑え込まれている。布の擦れ合う音がありありと、ふたりの高揚を表している。
「……っ、ん……可愛い…可愛いな、アルカディア」
クラウディオは言いながら、晒された喉に口を寄せる。自分が与えた快感によって曝け出された真白い喉だ。喉仏が美しい凹凸を描いている。そこに舌を這わせ、唇を這わせて、幾度も幾度も口付けながら、言葉を紡ぐ。
身に襲った歓喜と快楽によって、アルカディアは最初、聞こえた音がどんな形をしているのか掴み切れなかった。けれど、クラウディオは何度も何度も告げた。同じたったひと言を、何度も。
彼はそのひと言に思いの丈の全てを乗せようとして、失敗していた。でなければ言葉を形作る声にこんなにも愛欲が滲み出すはずも、囁く口付けがこんなにも熱いはずもない。
「ッぁ♡♡ぁ♡ぅ♡ッ♡♡ん、ぐ♡ッ♡ん♡ん♡ぁぁ…ぁ゛♡♡」
囁きによって、そして口付けによって、きゅん、きゅん…♡とうねりながら収縮するナカを、剛直は丁寧に割り開く。愛液を纏わせた淫肉が硬く熱い雄を包み込み、どこもかしこをも舐め回していく。
進む内、エラの張った雁首がしこりにぶつかって、アルカディアは腰を跳ねさせようとした。びく…っ♡びくっ♡という快楽の痙攣は、密着するクラウディオの腰に抑え込まれ、ただただ抱擁を熱くするばかりとなる。具合のいい出っ張りを見つけたと言わんばかりに、雁首が執拗に前立腺を捏ね潰し始めると、その抱擁は殊更深いものとなった。
指で育てられることに慣れたそのしこりが、雄によってその形を浮き彫りにされていく。強引で、力強く、荒々しい愛撫に、アルカディアは喘ぐ他何をもできなかった。過ぎたる快感ですら、この体は嬉々として受け入れていく。
「ん、ふ…ぅ゛…♡♡っ♡ん、ぅ♡ん♡♡っ…♡…あ、ぅ…♡♡ぁ、ぁ……♡ッん♡ん♡〜〜っ♡♡」
閉じることの叶わない唇を、クラウディオは微笑んだ己の口で塞ぐ。抑えられようもない喘ぎが、口付けに押し潰されていく。アルカディアは夢中で舌を伸ばし、自身を愛そうとするクラウディオの舌に絡み付こうとした。健気な舌つきを褒めるように、クラウディオはアルカディアの舌を丁寧に、隅々まで舐めて、絡ませていく。
ほんの僅かにある息継ぎの間に、アルカディアは何度もクラウディオの名を紡ごうとした。殆どが言葉にならず、喘ぎへと変わり果てるその音の真意を、クラウディオは気付いたのだろうか。彼の手はアルカディアの頭を優しく撫でた。後頭部を覆い包み、殊更優しく。それは慈しむためのようにも思えたし、口付けから逃れさせないためのようにも思えた。
「ん゛〜〜〜っ♡♡っ♡♡♡ん♡ん♡んぅ〜〜…ッ♡♡♡っ♡…っッ♡♡」
息苦しいほどの口付けが続き、アルカディアの意識が白く漠然と滲み始めた頃。たっぷりと雄膣を味わった怒張は、ようやく一旦の行き止まりへと切っ先を辿り着かせた。きゅん…っ♡と、雄の子宮口は喜んで鈴口を舐めしゃぶり、先走りを啜る。クラウディオはそれを褒めてやるように腰をぐっぐっ♡と緩く揺らし、亀頭で奥の戸口を甘く突いた。腰を押し付けながら、掴んでいた臀部を擡げて股座に引き寄せ、ぐり…ぐり…っ♡と捏ね回す。
大好きな奥への愛撫に、アルカディアは堪らずクラウディオへと縋りついた。両腕を背へと伸ばし、手の指を立ててシャツを掴み握る。両脚を擡げて、自身を愛すために揺れる腰を抱き締める。密着したことによって、挿入は更に深いものとなる。
ずぬ…♡ぬぢゅ♡といっそう己を咥え込む雄膣の様は、クラウディオがなによりも感じ取ったに違いない。彼は息を詰めながら、その喉から笑みを零した。そして臀部を掴んでいた手で、その双丘を揉みしだく。ぐに♡ぐにゅ…♡と、時折感じる骨までも優しく撫でるようにして味わっていく。
アルカディアは堪らなかった。体中に這う快楽には、歓喜も含まれている。何もかも全てが、膝に乗せられ、抱き締められて、そうして愛されていた時から、ずっと欲しかった快感だ。こうして欲しいと、ずっと願っていた。制止を呼び掛ける舌の裏で、ずっと。
「可愛いな、アルカディア」
クラウディオは臀を揉み続けながら囁く。先程から幾度も繰り返される囁きに、彼はいつまでも飽くことがないようだ。堪らないと言わんばかりに自分の頬をアルカディアの頬に擦り寄せ、堪らないと言わんばかりに紡ぐ。「可愛い奴だ…お前は。本当に」耳に注がれるように聞こえるその声が、アルカディアは堪らなかった。汗が滲み、しっとりとした頬が触れ合う感覚も。体の何処もかしこもがそうした風に重なり合っていることも。何もかもが幸せだと思う。
「く、ら…ぁ……♡ぁ…♡ァ……♡♡くら、ぃお……♡♡」
ぼんやりとした意識で、アルカディアは名を紡ぐ。幾度となく身に受けた快感は全身に、そして口にも及んでおり、舌はもつれ掛けた末にあどけない音の連なりを零した。甘えたような音になったことも、腹の間が精子だか潮だかで濡れていることも、なにも気にならない。ただ、側にある人の暖かさ、その中でも殊更熱い核たるものが、自分の体に埋まっている……それが嬉しくて、どうしようもなく、仕方がない。
「ぁ♡♡ぁ♡♡ぁ、ん……♡♡ぃ…♡ぁ♡ぁ…っ♡♡もっ…と♡♡」
きゅん…っ♡と雄膣が剛直を抱き締める。愛液を纏わせた肉で舐め回すようにしながら、甘い抱擁を続けている。もうずっと甘イキを果たしているナカは、ひっきりなしに快楽を伝えていた。いつから達し始めたのかは、もう定かでない。深く長く続いた絶頂は思考を溶かしきってしまっている。今はただ本能のまま……愛しいこの男からの愛情と精子、それらがしとどに欲しいという願いのまま、ナカも口も動いている。
「あ゛…ッ!♡♡ぁ、ぁ゛〜〜〜……ッ!!♡♡♡…ッ♡♡ぁ、♡♡は…♡ひ♡♡あ゛ぁぁ♡♡ッ、ぁ♡っ♡は、ァ…♡♡」
ぬぷぷぷ…♡と、剛直がゆっくりと引き抜かれていく。雁首が肉ひだのひとつひとつを撫で掻いていく。雄膣は愛されながらも、去っていこうとする雄を感じ取り、きゅうぅ…♡♡と収斂して縋り付いた。腰に回された両脚はなけなしの力を込めて留めようとする。
そうした懇願に対しても容赦なく後退し続けた剛直は……しかし、抜け切るより前に、その身を蜜壺へと埋め始めた。撫で掻かれたひだが慰めるように撫で擦られる。愛液を纏う淫肉が、その大きな身によって全てを舐り尽くされる。
ずぷ…ずぷ…♡といった勢いのない、緩慢とした動きだ。自分を求める雌を味わっているのだ。それが解って、アルカディアは背に回した腕に僅かばかりの力を込めた。緩慢と丹念に愛される感覚が、堪らなく嬉しかった。
「ぁ♡ぁ♡ぁ♡っ♡ッっ♡♡ひゃ、ぅ♡っぁ♡ァ♡♡ぉく…♡♡んん♡あ、うぅ…♡♡」
愛撫はひたすらに続く。再び奥に辿り着いた剛直が、幾度も行き止まりを舐り叩く。とちゅっ♡とちゅ♡とつ♡くちゅ♡ぬちゅぅ♡と、執拗にノックをするように、時折捏ねてもやりながら、何度も弱いそこを愛でていく。
「ぁ…ぁ…♡ッぁ゛♡♡ぁぁ…っ♡♡そ、こ♡♡そこ…ら、め…っ♡♡ッん♡んぅ、く♡っん♡♡ん゛ぅ〜…ッ♡♡♡」
ゆっくりと引き抜かれていった剛直が、前立腺の辺りで止まる。雁首で引っ掻くように触れたしこりは、すっかりと膨らんでいた。愛で易くなったそこを、剛直はやはり執拗に愛する。ぐりゅ♡くにゅ♡ぐりっ♡ごりゅ♡ぐりぃ…♡と、エラの張った雁首の段差を宛がい、幾度も幾度もゆっくりと轢き潰し、捏ね潰して、時に竿や切っ先で優しいふりをして撫で擦る。
「ぁ♡ぁ♡♡ぁ〜〜…♡♡♡ッ♡♡ぁぁ…ぅ…♡っ♡♡…ひ♡♡ぁ…ん♡♡」
ぬるぅ〜〜…♡と、怒張は決まって緩慢と己が身を引き下がらせる。己の形を刻み付けるように。雌にわざと寂しがらせるように。きゅうぅ…♡♡と、奥から愛液を溢れさせながら必死にしがみつく雄蜜の具合を、たっぷりと堪能していく。
そして当然のように抜け切ることはない。ずぬぬ…♡と、再びその身を埋めていく。ずぷ…ずぷぷ…♡と寂しがる雌を慰めるように、きゅん…♡きゅん…♡♡と歓喜する淫肉のそのひだに、ひとつひとつキスをしてやるかのように。
「ぁ゛っ♡♡ッ、♡ぁ♡♡ぁ、ぁっ♡♡♡ぁ、ぁ…♡♡ッ〜〜〜…♡♡♡ぁ、んあ♡ぁ♡……〜〜〜っ♡♡」
剛直は長い間、そういった緩慢な愛撫を続けた。酩酊は絶頂を遠のかせ、愛欲ばかりを増させたようだ。雄膣に埋まる剛直はいつまでもその熱さを失わず、腕は抱擁を続け、その口も、囁きを止めることはなかった。それらはアルカディアが言葉らしい言葉を無くした頃にも、同様であった。
愛液まみれになった淫肉が甘えて舐めるように剛直に縋り付く。幾度もの絶頂を迎えた末のふわふわと包み込むような抱擁は、飽くことなく愛を抱く剛直にも心地のいいものだったろうか。怒張は時に、奥に切っ先を擦り付けたまま動かないことすらあった。ただただその身をじっと埋め続ける雄を、雌孔は喜んで包み込む。長く続く愛撫と挿入によって、元より躾けられていたナカはいっそうクラウディオの形へと変えられていく。それがよくよくと理解できて、アルカディアは熱い息を零したものだった。
「…っ♡ぁ、ぅ……♡…♡♡うぁ、ぅ…ぃお♡」
幾度目の絶頂だったろうか。もはや時折吹き出す潮の勢いも失われて久しい頃。アルカディアは殆ど音のような声を零す。それは名を紡ごうとした声であった。幾度もの愛撫と、それにより引き摺り出された快感によって、呂律どころか口を開くことすら労力を要する。口に登らせる言葉を選ぶだけの思考力も、もうなかった。どころか、瞼を擡げ続けることも、意識を現実に繋ぎ止めておくことも難しかった。目は緩慢な瞬きを繰り返し、瞼が下される度に意識が夢の中へと遠のく。
今にも夢の淵へ飛び込もうとするアルカディアを引き止めるのは、他ならぬ眼前の男の故であった。熱い抱擁、注がれる深く甘い快楽。それらがアルカディアの瞼をもう一度開かせる。アルカディアはその名を呼びたかった。名を呼ぶ度、自分を見つめる琥珀色が柔く細められる様を、ずっと見ていたかった。
「……♡ぁ、ぁぅ…♡……っ♡ん…♡んー……♡♡」
寝言のような声の連なりばかりが紡ぎ出される。クラウディオは琥珀の瞳を柔く細めながら、顔を寄せる。唇から零れていくその音をひとつひとつ集めるように、触れるばかりの口づけを成していく。ちゅ♡ちゅっ♡と、小さく音を鳴らすそのキスがあまりに心地よくて、アルカディアは瞼を下げていく。ゆっくりと幕を下ろしていく。赤い瞳が少しずつ細められていく様は、まるで微笑むようだった。触れる唇にむちゅ…♡と柔く吸いつきながら、アルカディアはそのまま意識を夢へ投げ出そうとした。
「……ッっ゛!♡♡♡あ゛♡ぁ♡♡♡…ッ♡♡…っ♡ん…ぅ゛ぅ…♡♡♡」
どちゅッ♡♡、と。夢の真っ只中に落ちていくはずの意識は、襲い掛かった衝撃によって無理矢理に引き剥がされる。揺蕩う意識の最中に唐突と落ち、急速に全身に広がっていく感覚。あまりにも強いために、それがどんな形をしているのか解らない。崖の縁に立っていたその身を、逞しい腕で痛いくらいに強く抱き寄せられるような襲来。
その衝撃が快楽という名だと知れたのは、唇をじゅうぅ…っ♡と強く吸われたときだ。もしかすれば長く吸い付いていたのかもしれないが、アルカディアが認識できたのは、吸い付いた唇に甘く歯を立てられたときだった。
真っ白く塗り潰された意識が現実という表層に徐々に浮かび上がっていく。同時に、全身に滲み切っている快感を認識していく。眼前に輝く琥珀色を認める頃には、夢など何処にも失われていた。
「ん……起きたか。偉いな」
「ッ♡♡っ゛……♡♡…ぁ……?♡♡ッ、♡ぅ……♡♡ぅ、ぅ゛…♡ぅぁ…♡♡」
琥珀色は柔く細められ、微笑んで、アルカディアを映す。愛欲が露呈するその瞳に、アルカディアは魅入られた。開いた口で愛しい名を呼ぼうとして、それがどうにも出来ない。隅々にまで行き渡った快楽は、出口をなくして全身を暴れ回っているようだ。手も足も、口さえも、思うように動かない。
その根源が己の腹の奥にあると、アルカディアはややあって知った。じん…♡じん…っ♡と、奥底から響くような快感が、止むことなくそこから発している。
きゅん…っ♡♡とうねり、剛直にしがみつく雄膣は、意識や思考よりも早くその正体を知り得ていた。収斂は甘く、強い。強請るものではなく、歓喜のそれだ。淫肉の全てが剛直に擦られ、ひだのひとつひとつを引き伸ばされている。臀部同士がぴったりと、隙間なく触れ合う。鈴口を舐め回し、捏ね回されていた最奥は、今はその先っぽごと咥えて、小さな肉の輪できゅうぅ♡と締め付ける。
クラウディオの大きな怒張の全てが、雄膣に埋まっている。ずっぽりと、奥まで届いている。
「〜〜〜ッっ!!♡♡♡あ゛!♡♡♡ぁ♡♡♡ッ♡♡ぁ゛、ぁぁ……っ♡♡♡♡」
言い様のない熱が溢れ出す。身体中に駆け走り、脳を、思考を、機能までもを覆い尽くしていく。耐え難い程のその熱に、アルカディアの体躯は幾度か痙攣を起こそうとした。しかし抱擁されている体では、微々として跳ねることなどできない。腕の中で捩り、くねらせて、ただだ肌同士の密着を濃いものとする。
絶頂する雄膣を味わうためか、クラウディオは抱き締めるまま動こうとしなかった。それだから、怒張も奥まで埋まったままだ。けれど、その雄の熱がただ埋まり続けるだけで、アルカディアは堪らない。触れ合い、擦れ合って感じ得る肌の熱すら気持ちがいいと思う。体の全てが、クラウディオを歓迎している。
「ッ……♡♡♡あ…ぁぁ♡♡っん♡♡んむ…♡っ♡♡ん……♡♡」
「はは…可愛い……」
アルカディアはもう随分前から、口が閉じられず、喘ぎを垂れ流していることを気に掛けてなどいられなかった。今や甚だしい絶頂を前に、喘ぎと共に唾液をも口端を伝っていく。顎へと伝っていくそれを、クラウディオは囁きの合間に舐め取って、次いで唇の中にあるそれをも舐る。ちゅる♡ちゅ♡ちゅぅ…♡と続けられる口付け、それから殊更甘く柔い声。肌の体温にすら感じ入る体には全て過ぎたるものだ。アルカディアは溺れるようだった。否、事実、溺れていた。施される快感に。与えられる愛欲に。注がれる眼差しに。
「ぁ♡♡ぁ、あ゛♡♡ッ♡……っ♡♡ひ、ぅ♡♡ぁ♡♡ぁ、ふ…♡♡」
最奥に入り込んだ亀頭が僅かに抜け出て、どちゅっ♡と突き込まれる。小刻みな愛撫は幾度も続き、雄膣は歓喜を失えないまま剛直に縋りついた。奥を執拗に、舐られるように突き込まれる。最奥への入り口である小さな肉の輪で、赤く膨れた亀頭を扱く、あまりに雄らしい愛撫。アルカディアが特に好む愛撫だ。
アルカディアはもはや、ひと突きごとに甘く果てている。耐え難い程の快感だのに、出来うることはあまりにも少ない。喘ぐことと、抱擁の力を強める程度だろうか。背に回った手は背を掻き抱き、皮膚に爪を立てることを厭えない。目の縁から溢れ出る涙は止まらず、クラウディオの肩を濡らした。もう呂律も回らないと言うのに、幾度も幾度もクラウディオの名を呼ぼうとする。そして、そのどれもが雄の動きを助長させた。声色には喜びばかりが滲むものだから、それはいっそうのことだった。
「可愛いな、アルカディア……かわいい…可愛いよ」
クラウディオはきつく抱擁を成すまま、アルカディアの耳元で囁き続ける。心底愛おしげな声色は、アルカディアの頭へ染み込むように溶けいっていく。まるで頭までも優しく犯されていくようだ。紡がれる言葉が真実であることは、声音からも、肌を這う手からも、抱擁を続ける腕からも、触れ合う肌からも、そして埋まる剛直からも明らかだ。それが身に染みてわかるものだから、堪らない。
止むことのない快楽と囁きに、アルカディアは幸福に喘いだ。どこにも逃げられず、逃げたくもない。
「くぁ、ぅ♡♡っ♡♡ぁ♡♡あ♡♡……ッ゛♡♡あ〜…ッ♡♡♡」
酩酊の真夜中に溺れるような快感は、気が遠くなるほど長く、止むことなく続いていった。
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