病室の窓から、夜空を見上げる。
満月でもないのに、部屋じゅうが照らされるくらいの月明かり。

昼間は、四番隊士たちが慌ただしくしていた。
消失、原因不明、何やら物騒なやりとりが時折聞こえて。
九番隊の隊士10人が、服だけを残して消えた。
魂魄消失案件で、初の死神の犠牲者が出たと。
魂魄消失案件の概要は、知っておいたほうがいいだろうという卯ノ花隊長の気遣いで把握していたものの、いざ聞いてみれば現実味がない。
死ぬのではなく、消える。そんなことがあるのかと。
けれど、誰も運び込まれてくる様子がなかったのが何よりの証拠だ。

考えながら見下ろした通りに、走り抜ける影がひとつ。


「ひよ里さん……?」


桐箱のような何かを背負って、瀞霊廷を出る方面へと駆けて行く。
未知の事象として、研究施設を擁する十二番隊に調査要請でも入ったのかもしれない。
九番隊も隊長格と上位席官が追って出撃したそうだし、いよいよ大ごとになってきている。

胸がざわめくのは、そのせいだろうか。
明日はいよいよ復隊。
備えたいのに、一向に寝付けない。
横になることさえもできない。
またいつもの焦燥と不安感に違いないのだから、早く眠ってしまわなければ。
時計を見れば、もう四半刻も外を眺めていたらしい。
夜風に冷えた頬を叩いて、沈む気持ちをどうにかしようと、手を当てた瞬間。

半鐘の音が、静かな空気を裂いた。


「緊急招集! 緊急招集!」


張り詰めた声で、状況が告げられる。
九番隊の隊長・副隊長の霊圧が消失、緊急隊首会を行うと。

何度も繰り返される伝令に、背筋が冷える。
ひよ里さんは、どこへ向かった?
もし現場調査なら?
そうでなくても、今流魂街へ行くのは危険すぎる。

気づけば、枕元の鬼道刀を手に取っていて。
私は、特別副官補佐だ。
副官を助けるのが、私の役目だ。そうあろうと、誓った。
隊長は、私ならそれができると信じてくれた。

赤茶けた半紙を懐に入れて、開け放していた窓から飛び出した。

ひよ里さんを甘く見ているなんて、そんなことではもちろんない。
それでも、胸に巣食う嫌な予感が、無視することも消し去ることもできないほどに膨れ上がってしまった。
今行かなければ後悔すると、何かがそう告げてくる。
本当に杞憂ならばそれでいい、私が卯ノ花隊長にでも叱られるだけだから。

青白く照らされた道を走る。
封鎖されていないのをいいことに、門を駆け抜けて。
この事態だ、門番も、死覇装を着た私を見とがめはしなかった。

遠くの森の中から、大きな砂煙が上がるのが見える。
その方角に、いくつか見知った霊圧を感じた。
ひよ里さんと、平子隊長。
愛川隊長、鳳橋隊長に、矢胴丸副隊長。
あまり知らない人のものだが、死神の霊圧がもうひとつ。
それから、虚の霊圧も。

鈍りかけている体を叱咤して、砂煙の箇所へとひた走る。
虚の咆哮に、木々が震える。
ようやく現場にたどり着こうとした私の目に、上空から白い脚を振り下ろしながら落ちてくる影が映った。


「っ縛道の六十三・鎖条鎖縛!!」


その脚を左右まとめて縛りつけたのを確認し、たたき落そうとしたところで、さらに上空に柱のようなものが現れて。


「五柱鉄貫」


五本の柱が、白脚の何かを地面に縫い付けた。
その術を掛けた人物に続いて、私も開けたところへ出る。
広がっていたのは、信じられない光景。
隊長格何人もが、苦戦している。
鳳橋隊長に至っては、伏せたまま動かない。
その中心にいるのは、まるで虚のような出で立ちの六車隊長だった。

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