あまりにも突然で、悲鳴を上げることさえできなかった。 2撃目が胴に入って、身が裂ける感覚が突き刺さる。 倒れた勢いで、苦い砂が口に入り込んだ。 頬を伝う液体は、痛みからくる涙なのか、本来それが流れるべき場所から溢れる血なのか。 虚の咆哮、名を呼び合う声、斬撃。 視界がない今鋭敏になった聴覚を、いくつもの音が蹂躙していく。 「……ッ、目ぇ斬られたんか、鈴音……」 「ひ、らこ隊長、皆さんは、」 またひとつ、斬撃。 平子隊長の注意がそちらに向いたのが、気配でわかった。 「…お…お前…」 誰がいるのか、何をしようとしているのか。 霊圧を探ろうにも、痛みで気が散る。 「…東仙…………!」 名前くらいしか聞いたことはない、けれど、彼は六車隊長の部下だったはずだ。 どうしてその人が、隊長を裏切るような真似を。 平子隊長も驚きを隠しきれないようで、彼に問いかけていて。 「裏切ってなどいませんよ」 ざり、ざり。 近づく草履の音。 姿を消している必要がなくなったからか、存在を誇示するようにさえ聞こえるそれ。 「彼は忠実だ。ただ忠実に、僕の命令に従ったに過ぎない」 どうか彼を責めないでやってくれませんか。 乞うのは、私の上司だった人。 「…藍………染…!!」 藍染副隊長が、黒幕だった? まさか、違う、助けに来たのだと思いたくても、聞かされた言葉がそれを裏切る。 僕の命令と、彼はたしかにそう言った。 「どう、して」 「どうして……か、君に話したところで、わかりはしないだろう」 「やっぱし…お前やったんか」 平子隊長は、藍染副隊長を最初から怪しく思い、監視のために副官に任命していたと。 言いながら、私の腕を掴んで少しずつ自分の方に寄せて、敵から遠ざける。 その手は、かすかに震えている。見えないから判断のしようもないけれど、出血が酷いのかもしれない。 藍染副隊長はといえば、監視のことを聞いても動じず、平子隊長が私を庇おうとするのを見咎める様子もなく。 それどころか、笑みさえ含んだような口調で言う。 平子隊長は、このひと月、自分が赤の他人と入れ替わっていたことに気づかなかった。 藍染副隊長の斬魄刀の真の能力、完全催眠。 それに加えて、平子隊長が藍染副隊長のことを遠ざけていたから、それが可能だったと。 あまりにも理解しがたい内容に、思考が固まる。 五番隊にいた頃に聞かされていた鏡花水月の能力は、嘘。 他にもこの嘘に騙されている人は大勢いる、少なくとも五番隊士は全員そうだ。 魂魄消失案件を引き起こすためだけに、ここまでするとは思えない。 一体何を企んでいるのだろう? 「あなたが今そこに倒れているのは、あなたが僕のことを何も知らないでいてくれたお陰なんですよ、平子隊長」 平子隊長が立とうとしているのか、砂が鳴った。 そうしている間にも、藍染副隊長は話し続ける。 自分の計画のために、平子隊長を選んだと。 「あなたは仲間達に謝罪すべきかも知れませんね。 あなたが僕に選ばれたがために、あなたもその仲間も、そこに横たわる羽目になったんですから」 「っ、何をっ!!」 「藍染…!」 思わず体を起こしたのを制され、同時に抜刀音。 隣で膨れ上がる霊圧に、息が詰まる。 その霊圧が、瞬時に書き換わった。 さっきのひよ里さんと、虚と、よく似た霊圧に。 「…が…ッ!?」 「平子隊長っ!!」 「くそ…ッ…俺もか…!」 間をおかずして、他の皆が倒れていたほうにも、虚に似た霊圧が現れて。 呻き声と、平子隊長が叫ぶようにこの異常の元凶に問う声と、また斬撃と、耳鳴りと、絶叫と、自分が吐く忙しない息と。 どうしてこんなことになってしまったの。 どうして私はまた動けないの。 噛み締めた歯に、吐き出せずにいた砂が潰される。 どうすれば、何ができる、何も、できない。 瞳から流れる液体が、地面へ爪を立てた手に触れて。 空を切る音がした。 何かが落ちる音がした。 「これはまた…面白いお客様だ…」 霊圧がひとつ増えた。 また知らない人のもの。 「…何の御用ですか? 浦原隊長」 |