「隊、長……?」 霊圧を探っても、浦原隊長のそれは見つからない。 けれど確かに、声がした。 状況が状況だ、目を潰されたせいで姿を見られないのが怖い。 その不安からか、息が上がる。 「…何スかその趣味の悪い仮面は?」 「言うてくれるやんけ…」 場にそぐわない軽口のやりとりが、いやに響く。 ほんの少しの沈黙の間、視線が私に向けられた気がした。 確かめようもなく、錯覚かと思うほどの一瞬だけ。 「藍染……副隊長」 先刻から一転して、問い詰める意図を持った言葉が紡がれた。 白々しいとしか言いようのない返答を聞く耳の中で、唸るような雑音がする。 痛みだした頭で、聞きなれない「ホロウカ」なんていう言葉を「虚化」に変換し終えて、この事態の一部に合点がいった。 九番隊の隊長格二人の姿の変化も、倒れた皆の中に虚の霊圧が混じっていたのも、すべてその現象のせいなんだろう。 なんてことをしたんだ、藍染副隊長、いや藍染は。 そんなことを企みながら、ごく普通に振る舞って、鏡花水月の力もあるとはいえ、私たちを完璧に騙していたなんて、私たちが騙されていたなんて。 震えが止まらない、悔しい、恐ろしい。 憎い。 「鈴音?」 「ッ、」 呼ばれた声が、誰のものかわからないほどに歪んだ。 憎いと、そう感じたことに動揺した。 たしかに藍染のしたことは許されないことで、平子隊長や副隊長や皆、名前も知らないような人たちも傷つけられて、今だって浦原隊長がどうなるかもわからない。 だから私は、こんなところで倒れている場合じゃなくて、戦わないと。 憎しみよりも先に、護廷十三隊のひとりとして。 私が藍染を、 「あ、あ゛」 ころさないと。 「鈴音ッ!?」 思考が、めちゃくちゃに塗りつぶされていく。 怖い憎い嫌だ力がほしい死にたくない殺したい違う止めて何だこれは。 絶叫しているのが自分だと、喉が痛み始めるまで気づかなくて。 まさか私も、同じように? 浮かんだ問いも、掻き消えていく。 抗いたいのなら、力が欲しいのなら、自分に従えと、誰かが囁いてくる。 拒絶したい、でも、「私」に何ができた? 何もできなかったじゃない、戦うどころか支援もろくにできなくて、護られて。 だったら「私」は、今の「私」は、要らないじゃない。 結論づけたのは「私」か、それとも。 |