今日も流魂街での実験を終えて、私は今、計器になにかしら入力している隊長を見ている。


「んー……そろそろ、青い鞘のは耐久限界が来そうっスねぇ」
「はい、少しですが、ひびも入ってきてます」
「まあ想定内っスかね。むしろ、よくここまでもちましたよ」


入力を終えて、隊長が腕をのばす。
ばきっととんでもない音がしたのは、気のせいだと思いたかった。
日頃から隊長業務や実験で、机に向かってばかりだからだろうか。


「隊長、ご無理されてませんか?」
「そんなことないっスよ?
鈴音サンこそ、業務増えて大変でしょう?
いつも付き合ってもらっててスイマセン」
「いえ、私が、」


好きでやっているので、と言いかけて、言葉を選びなおす。
どんな意味であれこの人に対して、好きという言葉を使うのに躊躇してしまう。
私がこの人に抱く『好き』の真意が、ばれてしまいそうで。


「お役に立ちたいだけですから」


そう言うと、隊長は微笑んだ。


「部下の鑑みたいな人っスね、鈴音サンは」


涅サンと足して2で割りたい、とあながち冗談でもなさそうな雰囲気の呟きに、思わず笑いがこぼれる。
隊長は、人指し指を唇に当てて、本人もいないのに小声でこう言った。


「今の、ナイショでお願いしますね?
ボクが殺されちゃいますから」
「っふふ、物騒ですね」
「口止め料として、甘味ご馳走しますんで」


唐突な提案がすぐには飲み込めなくて、二、三度まばたきを繰り返す。


「そんなことされなくても、誰にも話しませんよ?」


隊長の命のためと、三席の名誉のためと、それから。
私と隊長だけの『ナイショ』なんて響は、捨てたくない。
そもそも私は、口止めしなければいけないと思われるほど、信用されていないんだろうか?


「あ、別に鈴音サンを信用してないんじゃないっスよ?
口が軽い人じゃないっていうのは、わかりますし」


要するに、と唇に当てていた人指し指を、顔の横に持ってきて、隊長が大袈裟に言う。


「頑張ってくれた良い部下に!! 上司からのご褒美っス!!
あと、体力も霊力も食う作業ですから、疲れたでしょう?
疲れたときには甘いもの〜って言いますし」


ね? と言われてしまうと、断れる訳もなくなる。

決してこの誘いは、特別な気持ちからとかじゃない。
本人も言うとおり、"部下"への妥当な報酬。
浮かび上がってくる気分を必死に押さえつけて、口を開く。


「では、お供させていただきます、隊長」


かくして、私と隊長は、流魂街の商店街へと足を向けたのだった。
これが、一波乱招くとは知らないまま。
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