現世と尸魂界、距離どころか彼岸と此岸さえ隔てても会話ができるなんて、100年前は想像もつかなかった。


「いつでもアナタの声を聞けるんスから、伝令神機様々っス」
「すごいよね、ずっと遠くにいるのに」


少し加工された声が、鼓膜を震わせる。
喜助さんが本当にすぐ隣にいるようで、思わず頬が緩んでしまう。
だけど、我儘なことを考えていいだろうか。
こんな風に、


「話してたら、会いたくなってきちゃいましたね」
「き、喜助さん?」


頭の中を覗き込まれたようで、思わず声が裏返った。
それを面白がったのか、伝令神機の向こうから笑いが聞こえる。


「どうしたんスか、変な声出して」
「へ、変とか言わないでよ」
「すいませんすいません……いやぁ、人って我儘っスよねぇ」


追放されたあの日からずっと、もう1度アナタの声を聞くことさえ出来れば、それだけで構わないと思っていたのに、いざこの願が叶ってしまった今、声だけでは満足できそうにない。


「会いたいんスけど、アナタの方はどうです?」
「……会いたい」


本物の喜助さんの声が、ぬくもりが欲しい。


「じゃあ、今すぐそっちに向かいますね」
「すぐ、って」


まさか、と思うと同時に、背後に穿界門の丸い障子が現れる。


「どーも、会いにきちゃいました」


伝令神機の声と、本物の声。
技術開発局の固い床に、下駄が降りる音。


「ずーっと断界から通話してたんスよ」
「喜助、さん」
「もし会いたくないって言われたら、すごすご引き返すことになってたんで、よかったよかった」


ペラペラと喋りつつ、握りっぱなしになっていた伝令神機を私の手から抜き取って、机に置く。


「やっぱり本物の声で呼ばれるほうが嬉しいっスね」


ね、と私の名前を呼ぶ喜助さん。


「まだまだアナタの話聞きたいんで、今度は直接話しましょうか」
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