「神田、ゴーレム泣かしたでしょ」
「……なんでわかる」
「神田の声に混じって、ピスピス変な音するから」


私の通信用ゴーレムに返ってきたのは小さな舌打ちで、神田のゴーレムはそれに慄いたのか、泣き声が一段と大きくなる。


「一体何したの?」
「別に、不意討ちで少し吹っ飛ばされただけだ。
何ともねえっつってんのに、いちいちピーピー泣きやがる」


溜め息まじりの声は、完全に呆れている。
心配してるんだよ、と言ってもどうせ聞きやしないんだろう。
とはいえ、なんだかんだあの泣き虫ゴーレムを科学班に返品しないんだから、神田なりに思うところはあるのかもしれない。
襟の中で眠るのを許してるし、実は結構可愛がってたり?

勝手に思考を巡らせていると突然、神田の驚いた声がした。
まさか、襲撃? それにしては声に緊迫感がない。


「神田っ?」
「てめ、いきなりなんだ!! 泣くなっての、おい聞いてんのか!?」


音声が割れていることから察するに、ゴーレムが神田に飛びついたらしい。
泣きやめ、とか、あー、とか、戸惑った言葉ばかりが私のゴーレムを介して届く。


「俺はそう簡単に死なねぇよ、だから泣くな」


ピス、と鳴りつづけていた音が止む。
覚悟の込められた声に、やっと安心できたみたいだ。


「俺はまだ、死ぬわけにはいかねぇんだ」


おそらく聞かせないつもりの声量で呟く神田。
私も、あえて何も聞き返さなかった。

そうして流れた沈黙を打ち破ったのは、機械の音。
間近のそれとゴーレム越しのそれが、聴覚を刺激する。
今度こそ、襲撃だ。
イノセンスを発動しながら、顔の横を飛ぶゴーレムに話しかける。


「私さ、ゴーレム越しの誰かの声ってあんまり好きじゃないの。ちゃんと本物の神田の声、聞きたい」
「そうかよ」
「素っ気ないなぁもう」
「これ以上くだらねぇ話するなら、直接言え」
「……そうだね」


どうか生きて会おう。
また二人で直接、下らない話をしよう。
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