「……え、」


お風呂から上がって、絶句した。
着替えが、ない。
玉狛支部の中なんだから、誰かに持っていかれた訳がない。
持ってきたと思い込んで、自室に置きっぱなしなんだろう。
廊下を女子勢が通りかかればいいのだけど、栞ちゃんは防衛任務のオペレート中、千佳ちゃんはまだ本部、桐絵ちゃんは今日支部に来るかどうかわからない。
詰んだ、本当に詰んだ。

こうなったら、タオルを巻いてこっそり部屋に戻るしかない。
幸い、男子勢は各々仕事中。
なるだけ素早く行けば大丈夫……な、はず。
ドアを細く開けて、安全確認。
廊下にそーっと出て、自室へと忍び足。
無事誰にも見つからずに到着、案の定、テーブルの上に着替えがまとめて置いてあった。
服に袖を通して、タオルを洗濯に出すために、洗面所のほうへ戻る。と、


「お、無事に着替えられたか」
「迅さん!?」
「いやー、よかったよかった」


何がよかったの、まさかこうなるのが視えてたの、というかもしや、


「私のタオル巻いた姿"視た"の!?」
「京介やメガネくんに見られて気まずいかんじになる未来もあったし、今が最善だよ?」
「よ、よくない、迅さん視ちゃったんでしょ、」
「……正直に言う、おれの目の前でタオルが外れるルートまで視ちゃった」
「それつまり、」
「うん、まあ、ありがとうございました」


悪びれない実力派エリートの一言に、膝が崩れた。
視られた、直接じゃないけど、裸を見られた。


「えーと、ぼんち揚げ食う?」
「たべない、」
「じゃあ、責任とろうか? 裸見ちゃった訳だし」
「は、?」
「おれ一応真剣だよ」


青い目が、思いの外近くにあって、心臓が跳ねる。
裸を見た責任を取るってつまり、そういうこととしか考えられない。


「……私の返事も視えてるんじゃないの?」
「それを言っちゃ、誘導みたいでズルいだろ?さあ、どうする?」


そうして選択を委ねてくるんだから、こっちのほうがズルいと思う。
自分の思い通りに私を導けるのにそうしない、それだけで、本当に想われていることがわかりきってしまうんだから。
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