鏡の前で、唇に色を乗せる。
一目惚れして買った、好きな色合い。
私を映す鏡の中に、喜助さんが現れた。


「明日の店番のこと相談しに来たんスけど……どしたんスか、ニヤニヤして」
「新しい口紅試してたの」
「どれどれ……」


私の顔を自分のほうに向けつつ、にんまり笑う喜助さん。
いいっスねぇ、と下唇の少し下をなぞられる。


「よく似合ってますよ。ご自分で選んだんスか?」
「うん」
「……いまキスしたら、口紅落ちちゃいますよねぇ……」
「心底残念そうだね!?」
「だって、かわいいこの状態を見られなくなるのと、かわいいアナタにキスできないの、どっちも嫌なんスもん」


もん、ってかわいいな喜助さん。


「……まあ、後で直せば関係ないッスね!!」
「え?」
「というわけで、ね、」


喜助さんに捕まって、笑う唇と塗ったばかりの唇が重なる。
絶対色移りしちゃったな、と思いながら目を開けると、案の定。
吊り上がる薄赤が、私より似合っている気がしてなんとなく憎くて、指を伸ばしてぬぐい取った。

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