「……なんやねん、急に顔近づけてきよって」
「なんか気づくことない?」
「いや、ドアップすぎて気づくモンも気づけへんねんけど!?」


両肩を軽く押されて、真子との間に少しだけ距離が開く。
自分で言い出しておいて何だけど、まじまじ見られると少々気恥ずかしい、ような。


「……口紅か」
「正解!」
「ほー、まあええんちゃう?」


思ってたより、反応が薄い。
ので、意地悪したくなってしまった。


「この口紅ね、名前が『紅姫』なんだ」
「……ほォ」
「浦原さんの刀と一緒。かわいいでしょ」
「せやなァ……」


開いたはずの距離が、急に縮まる。
首の後ろに、真子の腕が回されている。
それを認識するより先に、唇に噛みつかれた。
ピアスの空いた舌に、唇の表面だけを舐められる、妙にいやらしい状態がしばらく続いて。


「……ッハ、やっと全部落ちた」


薄赤くなった自分の唇を雑に拭いながら、真子がつぶやく。
その光景が、またいやらしい。


「……やきもち?」
「それが目的やったクセに、今更何言うとんねん」
「バレたか」
「バレへんと思たか」


デコピンを食らわせてくるのは、いつもどおりの真子で。
さっきのはさっきのでドキドキしたから、また見たくなったら『紅姫』を付けてみようかななんて考えてしまった。

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