休日関係なく忙しい、ボーダー開発部。
そんな訳で、せっかく施してみたメイクは誰にも気づかれないまま、もう午後三時。
べつに加古さんから貰ったグロスを試してみたかっただけだけど、折角なら誰かに褒められたい、という気持ちは捨てきれない。

実験見学を終えて、ラウンジで一休みしていると、三輪隊の4人がこちらに来るのが見えた。
いち早く気づいた陽介くんが手を振ってきたので、私も振り返す。


「よー、いま休憩中?」
「うん、みんなは任務お疲れ様」
「そっちこそ、休みの日までお疲れさん」


ふと陽介くんの後ろにいた三輪くんから、視線を感じた。
なんだか不思議そうな表情で、じーっと私の顔を見ている。
もしかして、メイクに気づいてくれたんだろうか。


「……いつもより血色が良い、気がする」
「あ、確かに。唇ツヤッツヤだし。
なんか美味いもん食った?」


見事に不正解だった。
血色はたぶんチークのおかげ。
あと唇のこれは決して脂じゃない、グロスです。
古寺くんはわかっているのか、先輩がた違いますとばかりに、口をつぐんで冷や汗を流している。
ありがとう古寺くん。


「似合ってるんじゃないか、そのメイク」


さすがのイケメン対応は、奈良坂くんだった。


「ありがとう奈良坂くん……」
「マジかメイクか」
「マジだよ陽介くん」
「だってさ秀次」


再びじーっと見つめられて、流れる謎の沈黙。


「……秀次ー?」
「……別にどちらでもいいな」
「それは大差ないってことかな三輪くん……」


地味にショックを受けた瞬間、業務連絡用の端末が鳴って休みの終了を告げられた。
三輪くんの真意が「どちらでも(俺は好きだしかわ)いい」くらいの意味合いだったと知るのは、もう少し先の話。

ALICE+