「何してんねん、いや何されとんねんハゲ真子」
「見てのとーり、可愛い彼女の"オレのサラッサラヘアーを三つ編みしたい"っちゅーお願いを叶えたってんねん」
「私一回も"サラッサラ"の部分は口にしてないからね、誤解しないでねひよ里ちゃん」
「細かいことはえぇんですぅー!!」
「ちょ、動かないでよ」


事の発端は、(珍しく真面目に)書類仕事中の真子の背中を、廊下から見たこと。
正確には、その背中に垂れた髪を。

いつもはおろしっ放しになっている長い金髪が、今日は紐で一つに束ねられていたのだ。

かっこいいな、とか、普段からまとめておけばいいのに、とか思った。
なかでも一番大きな思いは"もっと色々な髪型を見たい"であったわけで。

そこはフツー、かっこいいが一番ちゃうんか、とがっかりされたものの、真子は"お願い"を聞き入れてくれた。


「アンタも物好きやなぁ……」
「真子の髪、私より長いから、試せるやつが多いの。癖もないし」


ひよ里ちゃんも一応興味を持ったらしく、三つ編み中の私の手元を覗き込む。


「器用やん、めっちゃ均等になっとるし」
「ありがとねー」


あと一編み、といったところか、だいぶ毛先まで来た。


「できたかぁ?そろそろ動かんと全身バッキバキやねんけど」
「ジジイんなったなぁ真子」
「なんやて!?」
「はいはい、できたよ」


鏡を二枚もってきて、完成した三つ編みを真子にも見せると、おぉー、と気の抜けた感嘆の声をもらした。


「卯ノ花サンみたいやな」
「たしかに」
「完全に女やな、いや前からそうか」
「それは男らしさが足りへんっちゅーことかひよ里ぃ!!」
「なんやちゃう言うんか!?」


折角の三つ編みがほどけそうな勢いで、いつものように喧嘩を始める二人。
女男、やったらオマエは男女や、とかなり馬鹿馬鹿しいやりとりが繰り広げられている。


「なあ、オレ男らしいやんな!?」
「ウチかて女の子や!!なぁ!?」


うわこっちに振ってきた!!


「えー、と」


ひよ里ちゃんがそばかすを気にして四番隊に行ってたり、いつも綺麗に髪を結ぼうと努力したりしてるのを知ってる。
とっても女の子らしくて可愛いな、と思う。

真子はいつも私を部下として、それ以上に彼女として大事にしてくれてる。
いつもふざけてても、いざという時はかっこよく決めてくれる。
そういうところが男らしくて、大好き。

そんなようなことをどうにかこうにか言葉にしてみれば。


「……ば、ばらしたらアカンやろ……後半ただのノロケやし」


そういいながらもひよ里ちゃんはどこかうれしそうで。
ぱっちり目が合うと、全速力で反らされた。


「う、ウチがそんなんで四番隊行っとるとか、よそで言うなや!?」
「うん」
「アンタもやで!? しん……」


じ、という声は尻すぼみになる。
いつもどおり視線をあわせようと見上げた先に真子の目がなかったからだ。
かわりに、眼下にはうずくまる真子。


「ど、どないしてん!?」
「大丈夫!?」
「……アカンわ由里果」


そう呟いて腰を上げたかと思うと、私の腰に抱きつく。
強く引かれて、私まで膝を畳についた。


「かわええ」


小さな声で言って、息ができないくらいに隊長羽織に押し付けられる。
ひよ里ちゃんの存在をわすれてはいないかこの人、と思っていたら。


「ひよ里ぃ、悪いけどちょぉ席外して」
「あーハイハイ、ウチも胸焼けしたないしな」


ぺたぺた足袋の足音が遠ざかる。
完全に聞こえなくなったところで、真子がささやいた。


「……あんま、かわええこと言いなや」


喰うてまうで、と耳をかじられて、もう喰べてるじゃない、と言う意思も消えた。
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