真夏の暑い日に、縁側で食べるアイスクリームに勝るものなし。
本日は、あのお高いカップアイスのバニラ味。
スプーンを突き刺して、うん、おいしい。


「なんじゃ由里果、儂にも一口くれんかの」
「あ、夜一さん」


ネコにアイスあげて良いのかな、いや、元は人だから大丈夫かな?
取り敢えず一口、蓋にすくってあげた。


「ん、美味じゃな」
「お高いだけあるよね」


ペロペロと口の周りを舐めたあと、姿を消した夜一さん。
入れ替わるように、雨ちゃんがやってきた。


「雨ちゃんも食べる?」
「良い……ですか?」
「もちろん、はい、あーん」


小さく開かれた口に、バニラアイスを含ませる。
いつもどことなく悲しげな表情が、嬉しそうに変化した。


「おいしい……」
「雨だけズリーぞ!! 俺も俺も!!」
「はいはい、ジン太くんもあーん」


豪快に一口、さすが男子。


「あっめー!! 俺ソーダとかのが良いかも」
「返せ私のハーゲンダッツ返せぇ!!」
「もう食った」


くそう、覚えてろジン太!!
貴様のお風呂上がり用のガリガリくん平らげてやる!!
ああ雨ちゃん、あなたはペコペコしなくて良いのよ!!


「あとは私が……」
「由里果サン、アタシにもあーん」
「あー………………………ん?」
「なんで疑問形なんです?」


なぜナチュラルに『あーん』されようとしてるんだろう、この人。
ネコと子どもの後に続けばいいとか思ってない!?


「喜助さんは自分で食べてよ。スプーンあげるから」
「あら、結局間接キスはよろしいんで?」
「っ、よろしくないっ!!」


ていうか、私の分がなくなるし!!
半分ヤケで、残り全部をまるごとすくい取る。
ええい、一口で食べてしまえ!!


「ちょ、アタシの分は!?」
「にゃいよ」
「そんな殺生な…………美味しいっスか?」


アイスで膨らんだ頬を、ぷにぷに押される。
ほんのりいじけたような顔が、可愛く見えた。


「おいひいよ」
「そっスか……アタシにも下さいよー」


下さいも何ももうないよ。取ってきたら、という意味を込めて無言で冷蔵庫の方を指さす。


「今日は輪をかけてアタシに冷たい……!!」


口の中の塊が、大分小さくなってきた。
そっちがそのつもりなら、とか何やら呟く声が聞こえるけど、気にしない気にしない。


「ちょっと、こっち向いてくださいな」


向いてくださいって言う前に、肩を掴んでますが。
そのまま引き寄せられて、ぶつかるみたいに唇が重なった。
器用にこじ開けられて、アイスを奪い取られる。
口の端に、ベタついた滴が垂れた。


「たしかに、美味しいっスねぇ」


溶けたバニラ味を飲み込んで、喜助さんの喉がこくりと動く。
その色気に、思わず釘付けになってしまった。


「どうかしました?」
「なんでも、ない」
「あら、アタシに見惚れてたんじゃないんスか」
「っ、うるさい!! アイス返して!!」
「もうぜーんぶ食べましたよ」


一瞬ドキドキさせられたのも、アイスをとられたのも悔しくて、そっぽを向く。
結局、喜助さんには勝てない気がした夏の午後だった。
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