誰ですか。
教室で悲鳴を上げかけたじゃないですか。
カバンに顔を埋めることで、なんとか未遂にしましたけれど。
ほんと、どこのどいつですか。
『生徒会・仮装喫茶』
なんてものを企画・立案したのは!!

事情を把握している友人に生暖かい視線をもらいつつ、生徒用パンフに書かれた概要に目を通す。
見慣れた端正な文字で、テンション高めの文面が綴られているアンバランスさが妙に面白い。
『ようこそ我らが仮装喫茶へ!! 様々に仮装した、かわいくてかっこいい生徒会役員たちが、誠心誠意お客様におもてなしさせていただきます』
最後につけられたハートマークの線が尋常でなく震えているあたり、会長の心中は穏やかじゃなさそう。
仕事だ仕事だと念じながらペンを握る会長が目に浮かんで、つい口角が上がった。

性格からして会長は、裏方かもしれない。
だとすれば、手作りお菓子を食べられるかもしれない!!
いずれにせよ、立ち寄ることは確定事項。
あわよくば、会えないかな。
そんな期待に胸を膨らませつつ、迎えた当日。


「雛乃、会長店番やってるって書いてたよ、しかもちゃんと仮装」


一足先に仮装喫茶を覗いてきたらしい友人から、とんでもない爆弾を頂き。
部活で店番をしていた私、驚きのあまり持っていた部誌を取り落とすところだった。
机にそれを置いてから、とりあえず深呼吸。少し埃っぽい。
それから頬をつねる。痛い。
夢じゃない、少なくとも寝て見るほうの夢じゃない。


「なんの仮装かまではわかんなかったけど……って聞いてる?」
「聞いてる、大丈夫……」


時計を確認すれば、店番はあと30分ほどで終わり。
それまで会長はいてくれるだろうか?
一刻も早く現場に行きたい、写真を撮影しまくりたい!!
無限に感じる30分を乗り切り、交代で来た店番に伝言だけして、教室を飛び出した。
教室前の人だかりが結構なことになっていて、物理的に軽い足止めを食らう。
どうにか切り抜けようともがいていると、腕をつかまれた。
ぎょっとしながら見た先には、満面の笑顔……というかニヤリ顔?


「来た来た、雛乃ちゃん!!」
「え、あ、浅野先輩のお姉さん!! いらしてたんですね?」
「そりゃもう、あちこちちょっかい掛け……見守りに行きたいからねぇ」


今不穏な言葉が聞こえたのはなかったことにしよう。
ここにいるってことは、絶対喫茶に行くんだろうな、会長の胃痛がちょっと心配になってきた。
ずいずい進む浅野先輩(姉)にそのまま手を引かれ、かわいく飾り付けられた教室に到着。


「いーーしーーだーー!! 連れてきたわよーー!!」
「叫ばないでください!! というか誰、を、」


浅野先輩襲来の予測がついていたのか、早々と出てきた会長。
の、服、は、


「……どしたの雛乃ちゃん、高速で顔そらして」


白い。圧倒的に白い。白執事。
似合いすぎていて怖い。眼鏡との親和性が高すぎる。
安い生地のはずなのに、全然安っぽさが感じられない。
私の目に補正がかかりすぎているのかもしれない、もう1回見、


「……むり」
「だ、大丈夫かい?」
「いやアンタが大丈夫じゃなくしてるんだけど」
「僕のせいなんですかこれ!?」
「ほれ、こんな時のために、魔法の言葉教えてあげたでしょーー?」


会長が「い゛っ!?」みたいな、聞いたことのない声を出した。
なに今の、表情が見たかった。
いややっぱり、直視したら死んでしまうから遠慮しよう。
それにしても魔法の言葉とは、


「い、いらっしゃいませ、お、嬢さま……」


思わず顔を上げた。
赤面した会長と目が合った。


「ちょっ!?」
「おお効果てきめん、真っ赤になってふらつくほど元気になった」
「回復どころか重症化してますが!?」


理想郷は現世にありました。わが人生に一片の悔いなし。
ああ私を支えに入った腕、細い、白手袋最高。


「もうだめだ幸せのあまり死ぬんだ……」
「死なないでよ!? まだ接客もしてないだろう!!」
「予想以上の反応でかわいいわー、着た甲斐あったでしょ? 石田」


その発言、まさか喫茶を企画したのは浅野先輩だった!?
視線で確認してみると、ふふーんと鼻を鳴らされた。
この反応は絶対そうだ……巻き込まれた会長が、かわいそうやらかわいいやら。


「そ、れはともかく、席に案内します」
「はいはーい」




残念ながら(?)ケーキは既製品だったけど、もう精神的におなかいっぱいなので満足。
浅野先輩のニヤニヤ顔はおさまらず、終始生暖かく見守られて完食した頃に、会長が再び席にやってきた。


「お、ヒマんなったの石田?」
「まあそんなところです……あの、目をそらされるとさすがに少し傷つくんだけど、春田さん」
「直視したら爆発します……」


とはいえ傷つくなんて言われちゃ悲しいので、白執事会長のほうに少しだけ向き直った。
ああ、かっこいいというか、もはや神々しい。


「ああそうだ春田さん、後でそっちの部活も見させてね」
「……はい?」


一瞬で現実に引き戻された。
今、なんと。


「さっき君の友達が来て、2時半から君が絵を描くって教えてくれたんだ」


何を教えてくれてるんだわが友よ!! ちょっと恨むぞ!!


「え、えーと」


制作過程はなるだけ人にみられたくないから、お絵描き係を引き受けたのだって、人員不足でやむをえずなのに!!
ほぼ外部のお客さんや知らない生徒だからいいだろうと、ぎりぎり折り合いを付けたのに!!


「駄目かな?」
「それは、」
「君の絵、好きなんだけど……」


……そんなに残念そうに言われてしまっては、私になす術なんかあるわけがないじゃないですか!!
かわいいなこの年上男性!!


「お、お待ちしております……」
「石田、アンタ素でそれは怖いわ……」
「え?」


同意します、浅野先輩。


<続く>
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