「酷いですよ」 がらんどうの隊首室にうずくまって、呟く。 隠密機動の立ち入りで、大方の物は検分のために持ち去られ、外せない大型計器だけが残されて。 壁に吊るされていた白衣や隊長羽織、暦に至るまで回収されているのだから、ただでさえ薄かった生活感が掻き消えて、この部屋に人がいたなんて嘘みたいで。 あの日説明された罪状なんて、耳に入らなかった。 理解できたのは、喜助さんが私の前から消えてしまったということだけ。 こんなに夢中にさせておいて、 何度も私に好きだと言っておいて、 また明日って別れておいて、突然いなくなるなんて、 「ひどい、ですよ」 握りしめた拳の上に、涙が落ちる。 彼がいない世界でも、私は生きていかなければならないのに、彼なしの私なんて想像さえつかなくて。 どうやって、生きていけばいい? どうして、生きなくちゃいけない? いなくなってから、何日経ったっけ? 毎日が同じように思えてしまって、もうわからない。 一緒にいたのはたったの十年かそこらで、それは彼の人生の何分の一にしか満たない。 私だってそれは同じだけれど、私にとってのこの十年はかけがえ無いものだった。 叶うことなら、もっと早く出会いたかった。 彼は、私と同じように思っていてくれたんだろうか。 ぽろぽろぽろぽろ、涙と一緒に、まとまりのない思考があふれ出していく。 震える声で名前を呼んでも、返事なんてあるはずが無い。 「きすけ、さん」 それでも呼ばずにいられない。 彼が現れてくれるような気がして、何度も何度も。 「由里果さん、」 廊下側から、声が掛けられる。 求めていた声じゃなくて、もっと幼い声に。 目を拭ってから振り向くと、思ったとおり阿近くんがいた。 「涅さんが、あんたを呼んでこいって」 「うん、今行くね」 見上げた空は、今日も青い。 空は繋がっているから、みんな同じ空の下にいるから、独りじゃない、なんて嘘っぱちだ。 彼は同じ空の下になんかいなくて、こんなにも私は独り。 どこにいるんだろうか。 何をしているんだろうか。 少しでも、私のことを想ってくれているんだろうか。 いっそ、忘れられたらいいのに。 そうしようとして、その度に、彼の笑顔が瞼の裏に浮かんで。 彼以上に好きになれる人なんて、きっとこの先もいない。 私の心を縫いつけて、動けなくさせてしまう。 かっこよくて、時々かわいくて、尊敬している、大好きな、喜助さんのことなんか、 だいきらい ──────── 完結記念……というか…… もう本当に現在こんな心境です。 荒ぶる心のままに書いたので、名前変換とかもはや度外視でした、すみません。 |