由里果サンに、バレンタインチョコを頂きました。
嬉しいっスよ?嬉しいんスけど。


「マーブルチョコ……っスか」


しかも、一番有名だろう、カラフルな犬のキャラがCMをやっている製品でなく、ウチの駄菓子屋でも取り扱ってる眼鏡チョコ。

あれ、なんだか視界が滲んできちゃいました。


「キスケさん、どうかしたんですか?」
「ウルル……だ、大丈夫っスよー」


大丈夫じゃありませんけど!!


「あ…あの、由里果さんが、今からしばらくキッチンに来ないでって…」
「由里果サンが?そりゃまたなんでっスかねぇ」


何かヒミツのことでもするんでしょうか、バレンタインも終わったのに。
古来、女性の"見るな"って言葉を守れた男はいませんし、これは見に行ってもいいんじゃないっスかね?

わかりましたー、と返事をして、こっそり足をキッチンの方に向けたら。


「覗いたら……口利かないって言ってました」
「な、なななぁにを言ってるんスか?の、覗こうなんて」


ウルルの、無言の圧力。
ごめんなさい、アタシが間違ってました。
素直に待つしかなさそうっスねぇ。

仕方がない、在庫でも整理してましょう。


――――――――――――――――

日が傾いてきて、店先の影が長くなっても、キッチンからは誰も出てこない。
暇っス。
眼鏡チョコの包装が、夕日を反射するのを眺めながら、ため息を一つ。


「暇っス……」


一体なにをしてらっしゃるのか。
かれこれ、四時間ちょっと。
しかも何の音もしないという不可解さ。

霊圧消して、こっそり見ましょうか。

そう思った、正にその瞬間。

キッチンのほうから、大歓声。
一際よく聞こえるのは、テッサイのお疲れさまでした、という声で。


「本当に何事っスか……!?」


もう良いっスか、見に行って!!
早足で向かったら、アタシがキッチンに着くより先に、キッチンから出てきた由里果サンがアタシを発見。


「喜助さん!! 出来たよ!!」


嬉しそうな由里果サンからは、香水じゃない、あまーい香り。
あれ、これ、チョコレートじゃないっスか?


「由里果サン、今日一日何を……」
「ガトーショコラ作ってたの!! 一日遅れのバレンタイン!!」


ガトーショコラって、あのガトーショコラっスか。


「夜一さんたちにも、普段の感謝として渡したかったから、いっぱい作ったんだ」


それから、と由里果サンが申し訳なさそうな顔をする。


「昨日はマーブルチョコでごまかしてごめんね?
本当は喜助さんだけ特別に、もう一品作るつもりで、
昨日はそれをずっとやってたんだけど……
難しくて、納得できる仕上がりにならなくて……」


アタシだけ。特別に。
なんでこんな可愛いことをあっさり言っちゃうんでしょうか、この人は。


「由里果サン、アタシが怒ってると?」
「うーん……少なくとも落ち込んでるかなって」


あら正解。


「ガトーショコラ、一番出来のいいやつ喜助さんにあげるね」
「ありがとうございます。それで」


まったく警戒していなかった由里果サンを、抱き寄せて唇をふさぐ。
近づくとさらに甘い香りがして、頭がくらくらしてしまいそうだ。


「ん、これで、"もう一品"頂きましたよ」

本当のところ、もっと深くまで頂きたかったっスけど、それはあとのお楽しみに。


特別に一品
何より甘い貴女を
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