「……暑い」


西日が直撃する、夏の生徒会室。


「暑い、暑いよ雨竜」
「由里果、扇風機独占して言うセリフじゃないと思うけど」
「これ全然役立ってないよ、風が生ぬるい」
「古いものだから諦めて」


うぇー、と呻く声が、扇風機で変質して部屋に響く。
なびく髪が下ろしたままなのも、暑さの一因なんじゃないだろうか。
本人だって鬱陶しそうに払い除け続けているし、そのうち扇風機の羽根に巻き込まれそうでハラハラする。


「雨竜ー、暑いー、私の髪くくってー」
「え、僕が?」
「がんばれ手芸部部長ー」
「関係ないだろそれ……」


器用そうとか、もしかしてそんな適当な理由か。
仕方なく、風に散らされる髪を手に取って、なるべく高い位置でまとめる。
差し出された輪ゴムは見なかったことにして、手芸用の道具箱から布製のものを取り出した。


「……輪ゴムだめ?いつも使ってるけど」
「あのね由里果、本来人間に使うものじゃないからね?」
「雨竜が持ってるのも洋服用じゃん」
「輪ゴムよりはマシだと思うけど……
というか、輪ゴムだと外すときに痛いし、髪にも悪いよ」


せっかく綺麗な髪なのに勿体ないけれど、これが由里果という人間なんだから仕方ない。
仕方ないというか、むしろそんな所も好きなんだから、僕の方がどうしようもない。
自覚した途端に、目の前に晒された首筋だとかそんなのが気になり始めるんだから、本当に救いようがないんじゃないか、自分。


「……とりあえず出来たけど、こんな感じで良かった?」


平静を装った問いに、束ねた部分を触りながら満足そうに頷く首から、やっぱり目が離せない。
お願いだから僕以外にこんなことは頼まないでほしいと、そう思わずにはいられなかった。



揺らぐ夏

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