草鹿副隊長と一緒にお菓子を食べながら、瀞霊廷通信をパラ読み。
暇潰しはこれに限るねー、うん。


「ゆりりん、ぷろぽーずってなに?」


口に含んだ栗饅頭を、危うく吹き出しかけた。


「副隊長、なんで急に」
「ここ、書いてある」


小さな手が指差すのは『女性死神が選ぶ、理想のプロポーズランキング!!』なる見出し。
そういえばかなーり前に、九番隊からそんなアンケートを受けたような?


「ねぇねぇ、なーにー?」
「夫婦になってください、ってお願いする言葉ですかねー?」
「ふーん……」


まだそういうことに縁遠い年頃だからか、副隊長は興味が薄れたらしい。
机の上から最後の栗饅頭を取って、食べることに集中しだした。
私は私で、ざっと記事に目を通す。まあなんというか、女子の幻想大爆発だ。
実際言われたら引くなーってものから、ちょっといいな、って言葉まで。
変わり種だと、『俺の苗字使わせてやる』なんてのも。


「苗字って……」


うちの隊長副隊長はじめ、死神には苗字どころか名前がない人も少なくないだろうに。
ことに十一番隊は、流魂街の荒くれものが集いやすいから、その傾向が強い。
そういえば弓親は、わりかし治安が悪い地区出身のはずなのに、きっちり名前も苗字もあるよね。


「綾瀬川……」
「僕がどうかした?」


いつの間にか背後に、弓親がいた。


「綾瀬川って豪華な苗字だよね」
「急に何さ……まぁ、美しい僕にはよく似合ってるだろ?」
「はいはい」


いつものナルシシズム溢れる発言は華麗にスルーして、記事の続きをパラパラ。


「何読んでるの?」
「今月の瀞霊廷通信。弓親も見る?」


覗きこむ弓親の髪の、三つ編みにされた部分が私の横顔を掠めた。
きらきら光るキューティクルが、憎いやら羨ましいやら。
そして、謎の羽っぽいふわふわ部分を抜きにしても睫毛長い。
思わず凝視していたら、藤色の目と私の視線がぶつかる。
じろじろ見るな、とか言われるかな?
と思っていたら、その目線はすーっと雑誌に。


「なんなのさ、これ」
「プロポーズ特集だって。たしか、私もなんかアンケート答えたよ」
「へぇ、由里果がね」


私をバカにしてんのかコラと言いたくなるようなトーンで、弓親が呟いた。
一応年相応には、そういうことも気になるんだよ!?
こっそり拳骨を作っていたら、つんつん、握ったその手をつつく、小さな手。


「副隊長、お饅頭食べ終わったんですか」


モゴモゴ口を動かしたあと、桃色の頭がうなずいた。
栗の破片がついた唇が、またまた疑問を口にする。


「ゆみちーとゆりりんは、仲良しなんだよね?」
「そうですね」


単なる仲良しというか、交際しているわけだけども。
私の返事に、副隊長の目がきらめいた。


「だったら、ゆみちーはゆりりんにぷろぽーずしないの?」
「はぁ!?!?」


副隊長ーーー!!!! 幼児の無邪気さ怖い!! なんで急に!!
あの弓親が、美しさの欠片もない声出しちゃったよ!!


「副隊長!? そんな簡単にはいかないんですよ!?」
「えー、仲良しの男のひとと女のひとが、夫婦になるんでしょ?
そのお願いにぷろぽーずするんだってゆりりんが言ったもん」
「由里果、ひとまず今後、副隊長の前で瀞霊廷通信読むの禁止ね」
「えっこれ私が悪いの!?」


超理不尽!!


「ねーねーゆみちーってばー」
「そうですねぇ……」


美しくない叫び方しちゃったのが恥ずかしいのか、微妙に赤い顔で、弓親が考え込む様子を見せる。
やがて、そうか、そうだなと何やら一人で納得しだした。


「ねぇ由里果」
「な、なに?」
「綾瀬川由里果って、悪くないと思わない?」
「あぁ、綾瀬川ね。綾瀬川由里果………」


二度口にして、ようやく意図に思い至る。
頭によぎる、さっき読んでいた記事。


「あやせがわ、って、ちょっと弓親!?」
「ここに書いてあることの真似をしてみただけさ」


瀞霊廷通信を、ぴかぴかに整えられた爪が突つく。
口元には、少し意地悪な笑み。


「あ、あやせがわ……由里果」


理解が追い付かず、同じ単語を繰り返すしかできない。


「ゆりりん、赤ーい!!」


副隊長の笑顔が眩しいし、弓親の視線は突き刺さるし、顔が熱いし、恥ずかしすぎるから、瀞霊廷通信で表情を隠してみる。


「五席と六席が二人とも綾瀬川……なかなかに美しいね」
「美しいの!?」


結局そこか!! 本気かどうかはかりかねるじゃない。
ドキッとしたのがバカみたいで、むくれていたら、瀞霊廷通信を奪われた。
弓親の目と私の目が、ばっちり合う。


「いつか、その名前になってくれる? 由里果」
「……ゆみ、」
「実際悪くないと思うよ、綾瀬川由里果って」


結局どこまで本気かわからないまま、私を翻弄しっぱなしで弓親は部屋を出ていってしまった。


「ゆみちー、真っ赤だったよ!!」
「ほんと、ですか?」
「うん!! りんごみたいだった!!」
「そうですかー……」


弓親に今から追い付いて、綾瀬川の苗字を貰っていいよって言ったら、どんな顔をするんだろう。


「ゆりりん、嬉しそうだね!!」
「ほんとに嬉しいんですよ、副隊長」

Happy birthday Yumichika!
9/19は"苗字の日"だそうです。
ALICE+