いざ引越し挨拶。


引越し翌日。
疲れは取り切れないものの荷解きもそこそこに事前に用意しておいた物を持ち引越し挨拶に行こうと意を決した。
…とりあえず2軒分しか用意してないけど大丈夫だろうか。
もし挨拶しなきゃいけない状況になったらその時は新しく品を買ってこよう。
そう決めてまずは201号室のベルを鳴らす。

「はいっ!今行きます!」

若い女の人の声に少しホっとする。しかしその直後、部屋の中からがしゃんと音がした。

「いてて…お待たせしました!」

深い青みのある髪の毛に赤ふちのメガネ。そしてさっきの音はおでこをぶつけたみたいで、赤くなっている。

「すみません、えっと…だ、大丈夫ですか…?」
「大丈夫です!気を遣わせてしまってごめんなさい…どういった要件ですか?」

なんか、可愛い人。背は結構高いな…

「隣の202号室に引っ越してきたリンドウと申します。こちらよろしければ使ってください」

事前に買ってあった引越し挨拶の品物はタオル。贈られた側も困らない実用的な物ということでこれに落ち着いた。

「わざわざご親切にありがとうございます!私はたしぎと言います。よろしくお願いしますね、リンドウさん」

にこにこ、ぺこり。とても丁寧で可愛い人だ。たしぎさん、一人暮らしなのかな?だとしたら変な人に絡まれないか、不安。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

私もぺこりと頭を下げ、どことなくほわんとした気持ちでたしぎさんとの挨拶を終えた。

続いて反対側の隣、203号室。
同じように呼び鈴を鳴らす。

「…誰だ」

中から聞こえてくるのは低い男の人の声。

「隣に越してきたリンドウと申します。引越しのご挨拶に伺いました」

少しの間を置いてドアがガチャリと開く。

「!」

もう1人のお隣さんは私よりも年上そうで、銀髪というか白髪のような頭。圧倒的強面。口には葉巻を咥えている背の高い圧の強い男の人だった。さすがに少し息を呑んでしまった。

「すまなかったな。近頃物騒だからよ」
「いえいえ!そうなんですね。こちらよろしければ使ってください」
「わざわざ悪ィな。ありがとさん」

ふ、と少し口元に笑みが見えた。

(笑った…)

「俺はスモーカーってんだ。なんかあったら呼べ」
「あ、ありがとうございます」

こんなに強そうな人がお隣さんだと安心かも。それにこの人はなんだか良い人そうだ。お隣さん二人ともに恵まれたかもしれない。

「201号室にはもう挨拶は行ったのか?」
「はい、行ってきました」
「たしぎはおれの部下だ。おれが居ねェ時はあいつを頼れ」

部下…?同じ会社の人がこんなに近くって落ち着かなくない…?しかも上司と部下。私とゾロが近いのよりも距離も近いし範疇も超えてるような…

「あ?どうかしたか?」
「い、いえ!色々とありがとうございます!では!」

ささっと自分の部屋に戻る。
付き合ってる…とか?にしても、恋人らしい雰囲気とか全然ない。人前だからかな…

(いや、私の考えが浅はか過ぎる。忘れよう。2人とも親切なお隣さんなんだ)



その日の夜。
サンジさんのお店で引越し祝いのプチパーティをするとのことでゾロから連絡があった。
なんか嬉しいなぁと思いながらサンジさんのお店を訪れるといつもは見かけないメンバー達が。

「やっと来たか」
「これでもゾロから連絡来て急いだんだよ…そしてこちらはどなた様?」
「おれはルフィだ!エースはおれの兄ちゃん!」

エースはサンジさんのお店でアルバイトをしていて、顔なじみだった。弟さんが居る話はそれはもう山ほど聞いていたのだが、

「ゾロとおんなじアパートの隣に住んでるんだ!」

エースもサボも一緒に、とめっちゃ眩しい笑顔。サボさんもエースから名前だけは聞いていた。三兄弟みたいだ。

「そうなんだ!よろし「おれ様は〜〜〜ウソップ!!」

鼻と下まつげの長い青年がどどん!と胸を張る。

「ちょっとウソップ!ミヤビが困ってるじゃない!」

もーっ、とウソップを窘めるオレンジ髪の可愛い女の子。

「私はナミ!宜しくね、ミヤビ!ゾロから話は聞いてるわ」

にこにこ、楽しそうだけどなんとなく裏がありそうなナミの笑顔に思わずたじろぐ。

「よ、よろしく、ナミちゃん…」
「おいお前らその辺にしとけ」

よく知った声が割って入る。

「ミヤビが困ってるだろ」
「ゾロ!ずりぃぞお前独り占めして!」
「独り占めってなんだよ!」
「おれだってミヤビと仲良くなりてェ!」

ぶすっと膨れるルフィ。こりゃあのエースですらお兄ちゃん全開になる訳だ。

「そういや、ルフィはいくつなの…?」
「おれは17!ウソップもナミも同い年だ!」

高校生って、

「ここに居て良いの…?」
「ミヤビちゃん、ご心配なく。粗相はおれがさせないように見張ってるからな…」

キリッとサンジさんが言う。それなら心配要らないな、と内心安心する。

「そうそうミヤビ!来てもらって悪いがあと何人か追加で来るからそしたら宴やるから!ちょっと待っててくれ!」

ウソップから声をかけられる。
今これだけ賑やかなのに更に人数が増えるの…?

「大丈夫よ!みんな良いやつだから!」

ナミが私の不安を飛ばすように笑った。
サンジさんが出してくれた軽いおつまみを食べながら後から来る、というメンバーを待つ事にした。

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設定補足
主人公(ミヤビ)、サンジ、ゾロ→同い年。ゾロとは同じ会社の部署違いの同僚。サンジはレストラン経営者。
ルフィ、ナミ、ウソップ→同じ高校に通う同級生トリオ。
スモーカー、たしぎ→2人とも警察官。上司と部下。

麦わら一味のメンバーの付き合いは長い。




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