白猟先生、


※学パロ

「あっという間だったなぁ」

今日は卒業式。あと半月すると私は今度大学生になる。
例年曇り空が多いと有名なこの学校だけど、今回の式は見事な晴天で空模様も祝ってるようだと誰かが言っていた。満開とはいかないが桜も咲いていて、青空とコントラストが綺麗だった。

卒業式が終わりちらほら帰る生徒も出始めている。この日だけは屋上を解放していて、先刻までは人が居たけど今は私しかいない。

なんというか、中学時代とかに比べると淡々とした学生生活だった。
友達は居たけど付き合いもあっさりしていて心地よい距離感だった。今もちょっと残りたいからと言うと遊びに行きたいからあとで連絡ちょうだいねと時間をくれた。

「先生と逢えるのももう最後か」

ぽつり。
私の憧れだったスモーカー先生。
女子からかなりの人気だったけど、浮ついた様子も一切なく、そこがまた人気だったんだと思う。
強面でぶっきらぼうだけど、優しさをちゃんと持ってる先生だ。
私は目立たず過ごして来たので恐らく先生の記憶にもないだろう。

卒業式までの日にち、3月に入ってから誰それが告白して見事に玉砕したとかまぁまぁな回数聞いたように思う。

「わかってる…」

私なんかじゃ到底無理だし、そもそも伝える気もない。
ただ、最後に一目会いたかった。お世話になりました、と伝えたかった。
でもここにはいない。こっそり探してみたりもしたけど見当たらなかった。多分歩いてるとキャピキャピしてる系の女の子にすぐに囲まれて思うように行動できないんだと思う。

そろそろ帰ろうかな、と思った時。
カツン、と足音。

「お前…確か…」
「スモーカー先生…」

いつも表情があまり変わらない(怒った顔はよく見せているが)スモーカー先生が少し目を見開いて私を見ていた。

「どうしてここに?」
「あー、いや…」

珍しく煮え切らない先生。取り出したのは…煙草?

「葉巻…吸いに来たんだ」
「先生ハマキ吸うんですね…知りませんでした」

匂いとかも一切したことなかった。すごい気を付けてるんだろうな、多分。

「誰にも言うなよ、と言ってももう今日が最後か」

しゅ、とマッチで火をつけ煙を吐き出した。Smoker、ピッタリだな。それにめちゃくちゃかっこいい。今まで見たスモーカー先生よりも。
先生の言葉がグサリと刺さるけど、それ以上に魅入ってしまう。

ふぅ、と煙を吐きながらスモーカー先生は再び私に視線を向ける。

「どうだった、学生生活は」
「どう…そうですね、良くも悪くも平凡、だったと思います」
「平凡が1番難しい。いい事じゃねェか」
「そういうものなんですかね…」
「あァ」

そう言って校庭側へ視線を移す先生。言葉に重みがある。教師ってきっと大変だと思うんだけど、それ以上に闘いとか経験してるのかな?というぐらいの重さがあった。

「先生…」
「なんだ?」

私はグッと涙を堪えた。泣くな、ダメだ。それはきっとめんどくさい。

「スモーカー先生、お世話に、なりました」

ばっ、と勢いよく頭を下げる。

「…いろんなヤツ見てきたが、お前はきちんと真面目に授業を受けてるのがよく分かった」
「先生…」

私は驚いて顔を上げる。先生はにっと笑っていた。

「その真面目さならどこでもやっていける。自信を持て、リンドウ」

名前まで覚えてくれていたんだと知り、嬉しくてより涙が滲みそうだった。

(伝えなくて良かった)

「…そろそろ帰ります。同窓会開く時は来てくれませんか」
「あァー…考えとく。気ィ付けて帰れよ」

最後にチラリと校庭を見て、屋上から出て行く。

教室の窓からスモーカー先生を見かけた時、顧問じゃない運動部に何か教えているような様子だった。普段見てる仏頂面ではなく、笑顔も時折見せていた。
その瞬間から好きになった。なってしまった。

(スモーカー先生、ずっと好きでした)

涙がどうしたって零れてくる、言わなかった、言えなかったし、悲しい。でも、どこか良かったと思えた。
スモーカー先生の言葉で、前を向けそうだと強く思えた。

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