ごくり、何かを飲み込んで喉を鳴らす小さい音が時折聞こえてきては、二人しかいないこの部屋の空気に溶けてゆく。
時折、ガリッと歯になにか固いものが当たるような音も小さく響いている。
「·····ウィリアム、いいよ、もういいよ·····そんな事しなくたって·····」
「ん?気にすんなよ、俺がやりたくてやってる事なんだ」
·····その音の正体は、ウィリアムがオリヴィアの体からこぼれた宝石の欠片を飲み込んでいる音だった。
オリヴィアは「石憑き病」と呼ばれる奇病のせいで、常に体から宝石が溢れては服の隙間や皮膚からこぼれだし、いつも足元には宝石の欠片が落ちている。
本物の宝石では無いので落ちても基本はすぐ消えてしまうが、何時しかウィリアムはオリヴィアと恋人になってから睦み事の時にオリヴィアからこぼれた宝石を飲み込むのが癖になっていた。
オリヴィアとしては、忌むべき病から生まれたものをウィリアムが飲み込んでいるのは、自分を全て受け入れてもらっていると感じて嬉しい半面·····心配事のひとつでもあった。
「私をこの病ごと受け入れてくれるのは嬉しいけれど、貴方にうつったりしたら、私きっと自分を恨むわ」
「なんでだ?前にイザベラも言ってただろ?この病気はうつったりしないって」
「でも、それでも·····」
「それにもしうつったとしても、俺はお前を恨んだりしねぇよ!告白の時も同じことを言った気がするけど、俺はお前の全てを、この病気ごと愛してるからな!」
「ウィリアム·····」
オリヴィアがそう照れながら言うと、ころんと彼女の胸元からエメラルドに似た色味の小さな宝石がこぼれ落ちる。
「·····新しい色の、宝石だな」
「そうね、今まで色んな宝石が生えては落ちてきたけど·····こんな色の宝石、見たことないわ。」
ウィリアムはその宝石を手に取ると、しばらくじっと見つめて·····
「なんか·····美味そう·····」
そう一言呟くと、口をぱくっと開けてそのまま宝石を飲み下した。
※エメラルド·····愛を成就させる宝石
2020.7.27