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そして夜。

いつもは眠る時間なのだが、今日いろいろあったせいか、なかなか眠れず、
白姫はステップと一緒にベッドの上で、お気に入りのサッカー雑誌を読んでいた。

ちらりと時計を見れば、もう10時に差し掛かろうとしていた。

「いつもは9時に寝るのに・・・」

一向に来ない眠気をどうするか、と考え、
白姫はいつも抱いている、小ぶりの猫の抱き枕と猫柄の枕を抱え、
雪女のいる隣の部屋の扉を開けた。

「どうしたんだ、白姫?」

雪女も寝る準備をしていたのか、
フリースのパジャマに着替えてベッドにもぐりこんでいた。

「・・・なんか、寝れなくて。一緒に寝ていい?」
「甘えんぼだな、白姫は。いいぜ、入れよ」

雪女がそう言うと、白姫は少し照れながらベッドにもぐりこむ。
すると白姫は、雪女の読んでいた絵本らしき本に目を向ける。

「オモニ、何を読んでたの?」
「・・・ああ、これか?俺が高校生の頃に卒業制作で作った絵本だよ。」

そう言い、本を閉じて表紙を見せた。
少し古くはなっていたが、一つも色あせていない鮮やかな表紙が目につく。

「覚えてないか?お前が韓国に居たころ、日本語の勉強もかねて毎日読んでやったろ」
「・・・んー、小さいころだからあんま覚えてないや。けどなんとなく覚えてるよ。」
「そうか。じゃあ久しぶりに読んでやろうか」
「オモニ、僕もう小さい子じゃないよ?」
「どうせ眠れないんだろ?聞いてたら眠くなるさ」
「・・・じゃあ、お願い」

そう言うと、白姫は抱き枕を抱いて寝る体制に入る。

「んー、ゴホンッ」

雪女は一つ咳払いをすると、
凛とした綺麗な声で読み聞かせを始めた。


「・・・むかしむかし、あるところに」
「毎日雪が降り、季節が冬しかない国がありました。」

「その国には雲より高く、鳥ですらてっぺんに届かない魔法の塔がありました」

「その塔の一番上には、とても美しいお姫様が、悪い魔法使いに閉じ込められていました」

「悪い魔法使いはお姫様に一目惚れし、お姫様を自分の妻にしようとしていました」
「まだ子供のお姫様をさらい、小さいころから閉じ込めていたのです」

「だから、お姫様は外の世界を本でしか知りませんでした。」
「お姫様は本で読む外の世界に憧れましたが、外に見える景色は雪雲ばかり。」
「お姫様は毎日外を見ては、ため息をついていました」

「そんな毎日が続いたある日、傷ついた茶色のペガサスが塔に飛び込んできました」

「ペガサスは、みんな美しい白い毛並みの白馬なのに、そのペガサスだけまるで枯れ木のような茶色の毛並でした」
「そのせいでほかのペガサスからいじめられ、ケガをして弱っていました。」

「お姫様は、慣れない手つきでペガサスを一生懸命手当しました。」
「お姫様の懸命な手当で、ペガサスは翼を伸ばして飛べるほどによくなりました。」

「すっかりケガの治ったペガサスはお姫様に言いました。「お礼にこの塔から逃がしてあげましょう」」

「ペガサスはお姫様を乗せ、美しく塔から飛び出しました」
「しかし、雪の国にはどこかしこも雪だらけ。どこにも雪しかありません。」
「お姫様はがっかりして、泣き出してしまいました」

「それを哀れに思ったペガサスはお姫様に言いました。」
「「どこかの国には、雪雲を追い払う魔法の粉があると聞きました。それを使えばきっとこの国にも春が来るでしょう」」
「「私がお供します。ですからその粉を探しに行きましょう」と。」





・・・


・・・

「魔法の粉を手に入れたお姫様は、その袋をペガサスに持たせ、国中に粉を撒こうとしました。」

「しかしその瞬間、今までお姫様を追っていた悪い魔法使いが、ペガサスからお姫様を奪い返そうと、二人に襲い掛かりました。」

「慌てたペガサスがその粉を魔法使いに投げつけると、魔法使いは暖炉の前に置いた氷のように溶けていきました。」
「魔法使いは雪の悪魔だったのです。」

「魔法使いが溶けて消えてしまうと、今まで国を覆っていた雪雲が嘘のように消え、何百年も見えなかった青空が姿を見せました。」

「「ああ、これが春なのね!暖かくて、綺麗で、なんて素晴らしいの!」お姫様は喜びました。」
「しかし、ペガサスは悲しそうな顔をしました。」
「「どうして、そんなに悲しそうなの?」お姫様がそう聞きました。」
「「・・・春は嬉しいです。でもこれであなたと別れなくてはならなくなった。私はそれがとても悲しいのです」」

「泣き出すペガサスにお姫様はこう言いました。」
「「いいえ、別れる必要なんてないの。あなたには、どうか私のそばに居てほしいわ」」
「そう言って、お姫様はペガサスにキスをしました。」

「するとなんということでしょう!」

「ペガサスが光り輝いたかと思えば、美しい茶色の髪をした王子様へと変わりました。」

「王子様は魔法使いに今まで、呪いでペガサスにされていました。」
「魔法使いのいない今、その呪いが解かれて普通の人間に戻れたのです。」

「そして王子様は、お姫様に求婚をしました。」
「「お願いです、もうあなたと飛ぶことはできませんが、どうか私の愛を受け取ってください」」

「お姫様はその言葉に、嬉しそうに頷きました。」

「そして、長い冬を終えた国で、二人はずっと幸せに暮らしまし・・・」

最後の文を読み上げる最中、
雪女は小さく聞こえる寝息に気付いた。

「・・・寝ちまったか」

そう言うと、白姫側の毛布を
しっかり肩までかかるよう引き上げる。

「(お前は、いつもこの絵本を読み終わる前に寝ちまうなあ)」
「(・・・まあ、この絵本分厚いから仕方ねーか)」

薄く笑った雪女が、気持ちよさそうに眠る白姫の頭を少し撫でると、
白姫は少し身じろぎして、小さな声でこうつぶやいた。

「・・・てん、ま、しんす・・・け、いっしょ、に、さっかー・・・・むにゃむにゃ・・・」
「ふふ、夢の中までサッカーか。」

そう言うと、雪女は少し悲しそうな顔をした。


「(・・・小さいころは、女というだけで虐められて・・・本当は凄く泣き虫なのに強がって・・・)」
「(本当は、今日の事だって凄くつらいだろうに・・・)」


「(・・・でも、俺には見守ることしかできない。)」
「(問題を解決できるのは白姫だけだからな・・・)」


「(せめて・・・せめて白姫が、俺のように、『大切』な人を見つけて欲しい・・・)」
「(それだけでも、悲しいときには救われるからな)」




「・・・頑張れよ、俺の大切な一人娘」




そう呟き、雪女は白姫の頬に小さいキスを落として、
そして雪女自身も眠りについた。

20240824



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