なんてことない日常だってある

「·····あ〜〜〜最悪、エゴサなんかするもんじゃねーわ」


持っていたスマホを布団に投げ出し、グリフォンはそのままベッドに倒れ込んだ。
そんな様子を彼女の秘密の恋人であるホークスは、手に持った2人分の飲み物を机に置きながら見ていた。

·····ホークスは今日は休みで、同じく休みであるグリフォンのマンションでゆったり過ごしているのである。
お互いに交際を隠しているため、姿を見られないよう早朝か夜遅くにベランダから出入りするのが常というのが難点ではあるが。


「何見たと?」

「好奇心に負けてうちのヒーロー名でエゴサしてしもうた」

「·····あっ(察した)」


その言葉だけで全てを理解したホークスは、同じく倒れたグリフォンの隣で寝転んだ。
そのままグリフォンのお腹あたりを剛翼でよしよしと優しく撫でる。


「どうせ「岡山弁」がトレンド入りでもしとったんやろ?」

「あーはいはい、大正解!サジェストは「怖い」か「田舎」で固定じゃわ、ほんまありがとうございましたって感じじゃけんよ!」

「そりゃそうよねぇ、ネット民の皆さんも興味津々やったけんなぁ·····」


エゴサーチとは、検索サイトなどで自分の名前などを入力して調べる行為だ。
そして今回、グリフォンは好奇心に負けて自分のヒーロー名をキーワードにして検索をかけてしまったのだ。その結果として出てきたものは「岡山弁 怖い」「方言女子」「岡山県 田舎」などであった。

·····というのも、いつもは標準語で喋るグリフォンだが、この前テレビのインタビューで彼女はつい故郷の岡山県の方言で喋ってしまったのである。
それがネットで話題を呼んでいると聞き、好奇心に負けた彼女は自分のヒーロー名でエゴサーチをかけてしまったのだ。


「最初のお披露目の時に、見栄はらんで岡山弁喋っとったら良かったのに」

「·····せーでもそうだけどヒーローじゃけん、標準語で喋った方がええと思ったんじゃもん!!というか、なんでファットガムとかサウザンドフェイスは良くて、うちはダメなんや·····!!!」

「それはしゃーないと思うっちゃけど?大阪弁とか京都弁はわりとメジャーやけん」

「それにしたって酷かろうが!!なんでうちだけこんな目に遭わなおえんいけないのじゃ!?」


ぎゃーぎゃーと足をバタバタさせながら文句を言うグリフォンをホークスは足を抑えて「ちょっと、ホコリが立つばい」と制止する。
それでも止まらない彼女に、ホークスはあることを聞いた。


「でもそれのおかげで、この前の俺たちのスキャンダルは薄くなったんじゃなかと?」

「うっ·····確かにそれは否定せんけど·····」


·····というのも、彼らは先日行われたヒーローイベントで、2人で道を歩きながら会話しているところを写真週刊誌に撮られてしまっていた。

その際「ホークスと距離が近い」として、グリフォンが少し炎上したのは言うまでもないが·····ホークスが「事務所の後輩だから気にかけただけです、それ以上の関係はありません」と事務所を通じて声明を出したおかげで少し落ち着いたのだが、その後もその件はまだ少しネットの海でくすぶっていた。

·····そこに今回のグリフォンの岡山弁インタビューの方にスポットライトが向いたおかげで、その件については沈静化したのである。
それを思い出して苦虫を噛み潰したような顔になったグリフォンだったが、すぐに両手で顔を覆って泣き真似を始めた。
それを見たホークスは、グリフォンの頭を優しく撫でる。


「ぐぬぅ〜·····これからうち、1週間くらいSNS開かんけんね!!ホークスも絶対開いたらおえんよ、いいね!?」

「はいはいわかったとよ、全くしょーがない子やんねぇ」


ホークスはそう言うと、グリフォンを剛翼で引き寄せて彼女の頬にちゅっとキスをした。突然の行動に驚いたグリフォンだったが、彼から与えられる口づけは嫌いではないため、そのまま目を閉じて受け入れることにした。


「·····ネットなんか見んで、俺とおるときは俺の事だけ考えんしゃい。そしたらほっぺにちゅーでもなんでもしてやるけん」

「ふへへ·····あんたいつからそんなに独占欲強なったん?普段グリフォンとホークスの関係で外で会うたら、えらい事務的で淡白なくせに」

「好きな女には、誰だってこうなるっちゆうこと·····ね、名前呼んで」

「ん·····ええよ、啓悟」


薄く微笑んだグリフォンがホークスの名を読んですり、と彼の手元に頬を寄せると、ホークスも「初音」とグリフォンの名を読んで愛おしそうな目で彼女を見た。


「俺にこんなこと出来るの、初音しかおらんよ」

「うちも、恋人の啓悟にしかこんなことよーせんできないよ


そう言ってクスリと笑うホークスにグリフォンも笑い返し、どちらともなく唇を合わせた。
しばらくその感触を楽しんだ後、ゆっくりと離すとお互いに至近距離で視線を合わせ、同時に吹き出した。


「ふはっ!あーもうめっちゃ恥ずかしかぁ·····」

「ほんとよね、何やっとるんかなぁ、うちらって」

「まぁ、これが俺なりの初音の慰め方ばい」

せーそうかもねぇ、ちょっと元気なったわ」


そう言ってまた2人は軽く触れるだけのキスを交わした。
その時、ホークスの剛翼が自分をぎゅっと引き寄せるのに気づき、グリフォンも自分の羽でホークスを抱きしめ、ついでに自分のライオンのしっぽをお返しと言わんばかりにホークスに巻き付けた。


ぶちすごく好きじゃけんよ、うちの可愛い鷹ちゃん」

「·····知っとうよ、俺の可愛かライオンちゃん」

「ふはっ!なんそれ!」


2人は再びクツクツと笑ったあと、お互いの背中に回していた手を外して起き上がり、机の上に置かれた飲み物を手に取った。


「·····んー、そーいや、今日は豚肉とでーこんこーてもーてーとるけん、もいっこメインのおかず作らんとおえんな」

「·····え?なんて?」

「だーかーらー、今日は豚肉とでーこんこーてもーてーとるけん、もいっこ追加でおかず作るって言ったんじゃけど」


グリフォンがそう言うが、ホークスは頭にハテナを浮かべる。
その様子を見て、グリフォンは「あっ」と言う顔をしてさっきの言葉の説明をした。


「·····あ!大根買うてもう炊いてしもうとるしまってるってことじゃ、あんたもまだまだ岡山弁に慣れんのじゃなー」


はっはっはっ、と豪快に笑うグリフォンに、ホークスはやれやれというような顔をしながらも、彼女を引き寄せこう言った。


「····· 早う、毎日初音が作ったご飯が食べらるーごとなりたか」

しゃーねぇがぁ仕方ないでしょ、今はあんたが通い妻·····というか、通い夫になって我慢しんちゃい」

「うん·····まぁ、もうちょっとしたら、こんな風にこそこそせんでも一緒に暮らせるようになるけんね」

「·····うん、わかっとるよ」



照れたように俯きながら返事をするグリフォンに、ホークスはこれからの2人の未来を思い描いて心の中でにんまりと微笑んだ。


ーーーーーー
グリフォンの喋ってる岡山弁は私の喋ってるやつですが、ホークスの博多弁(?)は適当です。多分間違ってるけど生暖かい目で見てください。

あと、方言女子って·····いいよね·····!!!

20211216

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