あなたはアタシの王子様!

「今時は、そういうスーツもあるんだな·····」


飯田が感慨深そうにそう言うと、勇樹は自慢げに笑う。


「·····んふふ、そうよォ。私が面白みのない普通のスーツなんか着るワケないじゃなァい!·····ど〜ぉ?ドレスみたいでカワイイでしョ!」


そう言うと、勇樹はその場でくるりと回る。


「これね、アタシのお姉ちゃんのデザインなのヨ。」

「お姉さんの?」

「そーそー、お姉ちゃんはヒーロー引退してからヒーローコスチュームのデザイナーになったんだケド、こういうデザインも手掛けてるのヨ」


勇樹のスーツは普通の男性用のスーツとは違い、裾や襟にレースやフリルがあしらわれた可愛いデザインのものだった。

それに自分の個性であちこちに花を咲かせており、スーツの薄い紫と白いフリル、それにレースをあしらった右側の長い裾も合わさり、まるで女性のウェディングドレスを彷彿とさせる。

·····つまり、全く男性らしくないデザインではあるが、それを勇樹は完全に着こなしていた。


「飯田ちゃんのスーツ姿もステキだし·····アタシ惚れ直しちゃいそうヨ!」

「あ、ありがとう·····?」


そう言うと、飯田は恥ずかしそうに頬を掻く。


「·····そう言えば、緑谷ちゃんたちはまだ来てないみたいねェ·····」

「そうだな、それまで少し待つとしよう」

「そうネ!」


その時、2人の目の前を通りがかった小さい女の子が、勇樹と飯田をじーっと見つめる。
それに気づいた勇樹はしゃがんで女の子と目線を合わせると、にこやかに声を掛けた。


「·····あら、可愛いお嬢さん·····どうしたの?そんなに見られちゃ恥ずかしいワ」

「それ、キレイなおよーふくだね!!·····でも、おとこの·····ひと?」


その子が首を傾げると、勇樹はその頭を優しく撫でてあげる。


「んふふ、男だって可愛いお洋服着てもいいのヨ」

「そーなんだ!·····おにーさん、おひめさまみたい!」

「·····そうよォ、アタシ男だけどお姫様なの·····王子様だってここにいるんだからァ!」


そう言うと、勇樹は飯田の腕を掴んでぎゅっと引き寄せた。


「ちょっ!?ゆ、勇樹!!」

「うわぁ!かっこいいー!」


女の子が目を輝かせると、勇樹はニコッと微笑む。


「そんでもって·····アタシの王子様はインゲニウムって言う、とーっても恰好いいヒーローなのヨ!」

「そっかぁ·····わたし、ヒーローすきだよ!だから、ふたりともすてき!」


そう言うと、女の子は手を振ってその場から離れていく。
その様子を見届けると、飯田は照れくさそうに口を開いた。


「勇樹·····お、俺は·····王子様って柄じゃないだろう·····」

「·····あらそう?アタシは天哉ちゃんに惚れてからずっと天哉ちゃんのコト、アタシの王子様って思ってるわヨ?」


そう言うと、勇樹は飯田に向かって投げキッスをする。


「·····勇樹、君って奴は悪い男だな」

「ンフッ、そーよ。アタシってば悪い男なの」


そう言いながら、勇樹は飯田の手を握る。
そしてそのまま壁にもたれかかった。


「緑谷ちゃんたち、まだかしらネ〜」

「ああ、早く来てほしいものだ·····」


そんなふうに話をしながら、飯田と勇樹はニコニコと見つめあった。


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映画の、会場に集まるシーンの前くらいの会話。


20220217

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