素直じゃないんだから
「·····ねぇ爆豪ちゃん、ちょっとお願いがあるんだけどサ、聞いてくれなァい?」
そう言って、勇樹は爆豪を引き止めた。
「なンだよ、カマ野郎」
「まッ、相変わらず口の悪いコ·····女子組がさァ、とろみちゃんが部屋から出てこないッて心配してんのヨ·····」
「·····とろみが?」
「爆豪ちゃん、とろみちゃんの彼氏なンだから、ちょっと様子見てきてあげてくれなァい?」
「チッ·····しょうがねェな」
爆豪は渋々ながらも了承して、女子寮に続くエレベーターで上へ上がって行った。
その背中を見送って、勇樹はホッとしたようにため息を吐いた。
·····そして、とろみの部屋の前。
爆豪がドアをコンコンとノックするとスーッと静かにドアが開くが、ドアを開けたのはとろみ本人ではなく、とろみのスライム体だった。
「·····あ゛?」
そのままスライム体は素早く床をサッとベッドへと向かって滑っていき、そしてベッド上の布団の膨らみの中に戻って行った。
·····どうやら、とろみはベッドの上で布団にくるまっているらしい。
爆豪がベッドに近づくと、ベッドの周りにはビリビリに破かれた手紙らしき物が散乱している。
それを踏みながらさらに近づけば、布団の中からくぐもったとろみの泣き声が聞こえてきた。
「うっ·····ひっく、えぅ·····」
「·····おい、また泣いとンか」
爆豪がそう声をかけると、とろみは涙でぐしゃぐしゃになった顔をひょこっと布団から少し出すが、すぐに隠れてしまう。
「·····どォしたんだ、何かあったンかよ」
爆豪が尋ねると、とろみは布団に篭ったまま小さくこう言った。
「ひっく·····勝己、あたしって·····やっぱり·····ダメな子、なのかな·····」
爆豪はそれを聞いて、何かを察したような顔をした。
そしてそのままベッドの端に座ると、布団にくるまったままのとろみに体重をかけるように背を預ける。
「ぐえっ」
「·····また、親から手紙が来たンか」
「うん·····今度は、兄さんが死んだのは、お前のせいだって·····あたしが代わりに、死ねばよかったのにって·····!!」
「アホかテメェは、んなことあるワケねェだろうが。そもそもテメェの兄貴がヒーローもガッコも裏切って、敵連合に参加して·····そこで死んだのは、自業自得だろうが」
「あたしも、そう思ってるわよ·····でも·····それでもあたし、心のどこかで期待してんのよ·····」
そう言うと、とろみはまた嗚咽を漏らしながら喋り出す。
「兄さんがいない今なら、もしかしたら父さんも母さんも、こっちを振り向いてくれるんじゃないかって·····愛を一欠片でも、くれるんじゃないかって·····そんなこと考えてる自分が、ほんっとに嫌なの·····!!」
それを聞いた爆豪は面倒くさそうな顔をしながら、とろみの頭があるであろう場所に手を置く。
「·····あのクソ共は、本当にクズだな。俺がぶっ殺してやりたくなるぐれェにはなァ·····」
「ぐすっ·····勝己·····?」
「だが、今のテメェはそれ以上に馬鹿で阿呆だよ。いい加減気付けや」
「なっ·····」
「テメェはあんなクソ共に愛されようとしなくても、俺と恋人になった時から·····この世界で誰よりも俺に愛されてンだよ」
その言葉と同時に、とろみは被っていた布団ごと、ギュッと抱きしめられた。
「·····こんな事言うのは柄じゃねェが·····俺はテメェの事を心の底から愛してるぜ?だからもう泣くんじゃねぇよ、とろみ」
「ふぇっ·····うぁああああん!!勝己ぃい〜!!!!」
とろみはそのまま勢いよく布団から出て、爆豪の胸に抱きついた。
爆豪は少し驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの不機嫌な顔に戻る。
「あーあァ、マジでめんどくせェ女だな、テメェは」
「う、うぅ·····ひっく、ごめ、なさ·····」
「ったく、謝ンじゃねェよ。ほら、泣き止めや·····」
爆豪はそう言ってとろみの頭を撫でるが、その顔は先程のような不機嫌さは消え、普段見ることのない優しげな笑顔を見せていた。
しばらくしてとろみが泣き止んだ後、爆豪は床に落ちている破られた手紙を、片手に収まるように拾い集める。
それを見たとろみは頭にハテナを浮かべた。
「·····何するの、それ」
「あ゛ぁ?·····テメェをボロクソに言ってるだけの親からの手紙なんざ要らねぇだろうが」
そう言うと、爆豪はそのまま片手を爆発させた。
そして、手紙は一瞬にして燃えカスへと変わる。
あっけに取られたとろみは口をぽかんと開けて、それを見つめていた。
「·····これで、少しはマシになるだろ」
そう呟く爆豪の顔を見て、とろみはクスリと笑った。
「うん、だいぶマシになったわ·····ありがと、勝己」
「·····チッ、別にテメェの為じゃねェわ」
爆豪は照れ隠しのように舌打ちすると、とろみから目を逸らす。
それを見たとろみは嬉しそうに笑うと、ベッドから降りて、爆豪の胸元にぎゅっと抱きついた。
「テメェこそ·····いい加減、親からの手紙は受け取り拒否しとけや」
「·····それもそーね·····思えばなんであたし、自分の悪口しか書いてない手紙を素直に受け取って素直に読んでんだろ·····」
「アホか」
「アホじゃない!!」
とろみはぷくーっと頬を膨らませながらそう言った。
そしてしばらく無言の時間が続くと、突然とろみが口を開いた。
「ねぇ、勝己」
「ンだよ」
「·····あたしの事、好き?」
「はッ·····あァ、好きだぜ。テメェが思っている以上にな」
「えへへ·····なら、いいかな·····」
とろみは満足したように微笑むと、爆豪の胸元に顔を寄せる。
「·····勝己、あたしの事心配して来てくれたのよね·····ホントにありがとう。」
「·····別に、俺が勝手にやっただけだ。気にすんな」
「それでも、よ·····大好き」
「·····知ってる」
二人はそのまましばらくの間、お互いを抱き締め合っていた。
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勝とろのこういう所が好き〜〜!!!
20220219
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