素顔は俺だけのもの!

「·····サウザンドフェイスさんの顔って、どんな感じなんだろうな〜」

「そういや、事務所でもずっと個性で変装したままだもんな」

「絶対綺麗な顔だと思うぜ、俺!」

「·····いやいや、意外とカワイイ系だったりして!」


事務所の休憩室で不意に聞こえてきたそんな会話に、彼女の恋人であるファットガムは聞き耳を立てた。


「(·····ふふん、あいつの素顔わかるんも、あいつの事を変装しても見抜けるんのは俺だけやな)」


そんなことを考えながら、ファットは優越感と共にんふー、と鼻息を吐く。

彼女は·····サウザンドフェイスは、個性である「百面相」でヴィランや色んな人物に化けて潜入捜査を行うエキスパートである。
それ故に仲間のヒーローであっても、素顔は一切晒せないのだ。


·····しかし、彼女の恋人であるファットだけは知っている。
彼女が、その正体が·····誰よりも美しく愛らしい女性であることを。
それを知っているのは自分だけ、という優越感に浸っていると、サウザンドフェイスが休憩室に昼食を取りにやってきた。

·····今日も別のヒーローに変装しており、先程彼女を話題にしていた彼らは全く気づかずに挨拶を交わす。


「お、マタタビ!お疲れー」

「お疲れ様っす〜」

「今日もパトロールか?」

「うっす。つーか先輩たち大丈夫っすか?もう時間来てますよ」

「うおっマジか!ありがとな!!」

「お気をつけて〜」


そんなやり取りをして、彼らがその場を離れて休憩室に誰もいなくなると、ファットガムは早速変装した彼女に近寄る。


「·····お疲れさん、片花」

「ふふ、太志郎はんには適わんわァ」


そう言って微笑んだサウザンドフェイスは個性を解き、いつもの姿に戻る。
そしてそのままファットガムの腕の中に飛び込み、ぎゅっと抱きつく。


「ん?·····どないした、甘えたいんか?」

「やって、同じ事務所やのになかなか太志郎はんに会えへんもん·····」


頬を赤らめながらそう言う彼女を抱き上げ、ファットは優しく頭を撫でて頬にちゅっとキスをする。


「俺の彼女が可愛すぎて辛い·····」

「大袈裟やねぇ」

「ほんまの事やんけ、俺は片花が大好きやで」

「·····んもぅ、うちも好き」


頬を染めたサウザンドフェイスに、ファットは胸をきゅんとさせる。

彼女も仕事上、なかなか人間を信用することが出来ずにいたが、ファットに出会ってから少しずつ心を開いていった。
今ではすっかり彼の前では素直になり、こうして愛情表現するようになったのだ。


「なぁ、今晩デートせぇへn「あかん」·····即答かい!」

「·····うちかて行きたいけど、仕事入ってん」

「そっかー·····ならしゃーないか」


残念そうな表情を浮かべるファットを見て、サウザンドフェイスは少し考える。
そして·····


「·····家、帰ったらいっぱい甘えてもええんやったら·····夜まで待てる?」

「ッ!!任しとき!!」


目を輝かせてサムズアップするファットガム。
そんな彼にサウザンドフェイスはクスリと笑う。


「·····ほんなら、しっかり仕事頑張ってローファット状態で帰ってきてな」

「なんでや!?」


ファットがショックを受けていると、サウザンドフェイスは誰かいないかきょろきょろと周りを見渡したあと、ファットの耳元で小さく囁く。


「·····ファット状態やと·····えっち、しづらいやんか·····」


その言葉を聞いて、ファットの顔が一気に真っ赤になる。
それを見たサウザンドフェイスは、にいっと悪戯っぽく笑った。


「·····ふふ、太志郎はん顔赤いで?どないしたん?」

「っ、え、えらい積極的になったな·····!?」

「あら、極度の人嫌いやったうちをそんな風にしたんは誰やったかなぁ?」

「·····俺やな!!」


ドヤァ!と自慢げに答えるファット。
サウザンドフェイスは呆れたようにため息をつくが、内心はとても嬉しかった。


「·····安心しぃ、こんな風になるん·····太志郎はんの前だけやから·····」

「········」


ファットは無言でサウザンドフェイスをお姫様抱っこすると、そのまま彼女を抱きしめて頬にキスをする。


「あーもう、可愛すぎやろ·····全部俺のんや!絶対離さへん!」

「ふふ·····もう、ほんまに好きや」

「·····うん、知っとる」


サウザンドフェイスはファットガムの首に腕を回し、幸せそうに微笑んだ。


·····その後、死に物狂いで仕事を終わらせスラッとしたローファット状態になって家に帰ってきたファットガムが玄関を開けると、とことことサウザンドフェイスが出迎える。


「おかえりなさい·····わぁ、しっかりコミットしてはるわ。お疲れ様やったねぇ·····」

「おう、ただいま」


ファットガムはぎゅっとサウザンドフェイスを抱きしめると、彼女の唇に触れるだけの優しい口付けをした。


「·····あー、俺ホンマに片花と同棲しとって良かったわー」

「ふふ、何言うてんの·····まだ先週から同棲し始めたばっかりやのに」

「せやけどなぁ、毎日こんなに可愛い彼女が出迎えてくれるとか·····最高やん?」

「·····まぁ、うちも太志郎はんと仕事だけやなくて毎日一緒に居れるんは嬉しいなぁ」


サウザンドフェイスはファットガムの胸に顔をうずめると、そのまま甘えるようにすり寄る。そんな彼女に愛しさを感じながら、彼は優しく頭を撫でる。


「·····」

「·····ん?どしたん?」


急に黙り込んだファットにサウザンドフェイスが不思議そうに聞くと、ファットはにやりと笑ってサウザンドフェイスに言う。


「·····いや、なんか新婚みたいやなって思ってな」

「な、なに言うとるんよ·····!まだ同棲しとるだけで、結婚してへんやろ·····!」

「はは、ほんまに可愛らしいなぁ·····」


サウザンドフェイスは恥ずかしさのあまり、思わず彼の身体をぽかぽか叩く。ファットはそれを楽しそうに見つめ、幸せそうな表情を浮かべた。


「(·····あぁ、幸せや)」


自分の隣で普通は見られない表情を浮かべる彼女を見て、ファットは改めて思う。
彼女が自分に好意を抱いてくれた時は驚いたが、今では彼女と恋人になれて本当によかったと思う。
そして、これからもずっと彼女と一緒にいれたらいいなと思いながら、ファットは愛する彼女を抱き締め続けた。


·····ちなみに、この後2人がたっぷりと甘い夜を過ごしたのは言うまでもないだろう。




――――――
ファットガム×サウザンドフェイスの夢CP初書きです。


20220309

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