愛及屋烏を言い訳にして

·····小鳥遊 鶚、個性はハーピー。

自由奔放で舌足らずな喋り方が特徴の彼女は、心操 人使の彼女である。

可愛らしくそれなりに人気もある彼女は、ほかの学科の男性から言い寄られることもあるが、それを毎回怒った鳥のように威嚇して追い払っている。


·····それは今日も変わらないようで、自分にデートの申し込みをしてきた男子生徒を怒った文鳥のように羽を逆立て、キャルキャル鳴きながら追っ払っていた。


「·····しっつこいにょ〜!!私にはもうひとしくんって彼氏が居るって、にゃんかいも言ってるにょ〜!?」


鶚は心操が心から大好きなので、しつこく何度もアプローチしてくる男に怒っていた。
そんな彼女の様子を見て、心操は少し照れくさくなったと同時に、心の中にどろりとした独占欲が湧きだす。


「も〜、ほんとウザいにょ!私に関わらにゃいで欲しいにょ〜!」


そのうち堪忍袋の緒が切れた鶚は男子生徒を1度鳥足で軽く蹴ると、そのまま飛び去って行った。その様子を見てクラスメイト達は唖然としていたが、心操だけは苦笑いしながらも、内心は優越感に浸っていた。


·····その夜、寮の自室で心操が勉強していると、窓からこつこつと小さく叩く音が聞こえた。


「ん?·····なんだ?」


不審に思った心操が窓を開けると、そこには鶚がにへぇと柔らかい笑顔で羽ばたいていた。


「やっほ〜、ひとしくん!」

「·····鶚!?なんでこんな時間に·····」

「夜間飛行訓練からの帰りにゃの〜、帰る前にひとしくんに会いたくて来ちゃったにょ〜」

「そっか·····まぁ。取り敢えず外寒いだろ。ちょっと部屋の中入れよ」

「ありがとにぇ〜」


そう言うと、鶚は足についた泥を落としてから心操の部屋に入る。


「·····勉強してたにょ?」

「ん。この前の座学でわかんないとこ、あったから」

「お〜!!ひとしくんは努力家だにぇ〜、すごいにぇ〜!!」


鶚がそう言ってにへっと笑うと、心操は「ありがとう」と言って鶚の頭を優しく撫でた。


「·····なぁ、鶚」

「にゃにぃ〜?」

「鶚は俺の事·····本当に好きなんだな」

「ん〜?どしたにょ急に〜?私はひとしくんがだいしゅきだにょ〜?」


そう言うと、鶚は自分の腕の羽根で自分の口元を隠して照れた。その仕草を見て、心操は胸の奥がきゅんとなる感覚を覚える。


「·····鶚は可愛いから、よく他の男に言い寄られてるけどさ·····大丈夫なのか?」


心操のその言葉に、鶚は頭に?を浮かべて首を傾げる。


「大丈夫って、にゃにが〜?」

「いや、だって·····お前、俺っていう彼氏いるじゃんか。それでも告白してくる奴とか、結構居たりするのかなって思って」


心操の言葉を聞いてすぐに、鶚は納得したようにうんうんと数回うなずいた。


「しょういう人、結構いるよぉ〜!ほんとしっつこいんだにょ〜!!私はひとしくんしか、しゅきじゃにゃいのに〜!!」


それを見た心操は思わずドキッとして、「そ、そうなんだ·····」と呟く事しか出来なかった。


「しょれに·····私がにぇ、求愛のおうた歌ったりするのはひとしくんだけだにょ〜」


そう言うと、鶚はちよちよ、ほちょぴほちょぴと文鳥のような、セキレイのような不思議な鳴き声で歌い出した。

その歌声を聞いた心操は、無意識のうちに体が動き出し、気がついたら目の前にいる鶚を抱きしめていた。


「えへへ〜、ぎゅ〜♡」


突然抱き締められたにも関わらず、全く嫌がる様子のない鶚を抱きしめたまま、心操は彼女の温もりを感じていた。


「·····あのにぇ、ひとしくん·····私にぇ、しゃいきんにぇ·····ひとしくんがしゅきしゅぎて大変にゃ事に、にゃってるんだけど·····聞いてもびっくり、しにゃい?」

「ん?·····あぁ、聞かせてくれ」


心操は即答すると、彼女は頬を赤く染めながら話し始めた。


「私の個性がハーピーで、鳥にょ特徴とか生態とかが強く反映しゃれてるのは、ひとしくんも知ってるよにぇ?」

「·····まぁ、それなりに」

「しょれでね、私·····ひとしくんのこと、考えるだけで胸がドキドキして·····その·····吐きたく、にゃるんだにょ·····」

「··········はい?」


心操が呆気に取られたような声を出すと、それを聞いた彼女は慌てて訂正する。


「ご、ごめんにゃさい!気持ち悪いよにぇ!?でも本当にゃんだにょ!いわゆる鳥の求愛行為の「吐き戻し」ってやつだにょ!!」

「あー·····な、なるほど·····」


確かに、1部の鳥は求愛する時相手に食べた餌を吐き出す習性がある。
それを思い出した心操は、納得したような顔をした。


「·····あとにぇ、ひとしくんが他の女の子と仲良く喋ったりしてると、にゃんかモヤモヤしちゃうし·····まるで私、嫉妬深いインコみたいだにょ」


そう言って、少し落ち込んだ表情をする彼女の頭を撫でると、彼女は嬉しそうに目を細めた。


「ん〜、ひとしくんの手、大きくて安心しゅる〜·····」


そう言って僕に体を預けてくる彼女を抱き寄せると、心操はそのまま彼女にキスをした。

「んっ·····ちゅっ·····」


唇を重ねるだけの軽いバードキスだったが、それでも彼女は幸せそうに微笑む。


「ふぅ·····ひとしくんとちゅーしゅると、頭ぽわ〜っとなってしあわしぇな気分になりゅにぇ·····」


そうしていると、急に鶚は口元を腕の羽で押さえる。


「·····吐きそうなのか?」

「だ、だいじょぶ·····!!絶対に、我慢出来るから·····」


どう見ても大丈夫じゃない顔色で、冷や汗を流している。


「無理しなくていいぞ」

「ううん·····ダメにゃの·····だって、習性で、求愛行為だからって、ひとしくんに吐くとこ、見られたくにゃいし·····」


未だに口を抑えながら言う鶚に、心操はぞくぞくと嗜虐心のようなものを感じた。


「·····なら、俺が手伝ってやるよ」

「えっ?」


そう言うと、心操は素早く行動を開始した。
·····まず、両方の腕の羽を掴んで壁に押し付けて動けなくさせると、鶚の前で口を開けてべっと舌を見せつける。


「俺に、求愛給餌したいから吐きたいんだろ?」

「っ·····しょ、しょ〜だけど〜·····」

「·····正直、俺·····今すげぇ興奮してる。」

「にぇ·····!なん、でぇ·····!?」

「だって、そんだけ俺の事好きで愛してくれてるってことだろ?俺だけがそれを見れるって思うと、堪らないんだよ」

「っ·····!」

「·····ほら鶚、早く俺に求愛してくれよ。何されたって、文句言わねぇから」

「うぅ·····!!気持ち悪くなっても、知らにゃいからにぇ·····!!」


そう言うと、彼女は恥ずかしそうにしながら顔を近づけてきた。
そのままキスをすると、こぷ、と小さく鶚の喉から音が鳴る。
そのまま心操は、鶚の喉から流される液体を飲み下していく。


「(·····果物の、味がする·····)」


鶚は人間とは少し違い、果物しか食べられない偏食と、喉に鳥と同じく嗉嚢がある。そのため今鶚の口から出ているものには胃液や消化酵素が含まれておらず、飲み込んでも害はない。
簡単に言えば、口噛みされたぬるいジュースを飲んでいるようなものだ。


「·····ん、んく·····」

「んっ、んぐっ·····んんっ·····」


そんな事を知らない心操は、ただ黙々と鶚から口移しで与えられるその甘い液体を最後の一滴まで飲み干した。


「ん〜·····」


全てを飲ませ終わったあと、鶚は名残惜しそうに口を離して心操の口の端から垂れた唾液を舐め取り、とろんとした目で熱に浮かされたようにこう呟いた。


「·····ん·····私の、受け取ったから·····もう、わたしの、つがい·····」


心操の顔にふわふわの両羽を添えて、愛おしげに撫で回す彼女の姿はとても可愛らしく、その様子を見た心操は、ごくりと生唾を呑み込んだ。

いつもの歌や踊りを見せたりする求愛行動とは違い、鳥の本能が剥き出しになったそれは、心操にとって酷く扇情的に見えた。

彼女が自分を番にしたいと全身全霊を持って伝えてくれる事が嬉しくて、普段あまり笑わない心操もつい頬を緩ませた。


「·····えへへ〜、ひとしくんがわらった〜」

「そりゃあ笑うさ。こんなに可愛いんだし」

「かぁいい?かぁいいかぁい〜?」


心操がそう褒めると、先程の真剣さはどこに行ったのかと言うくらい、無邪気な様子の彼女はくふくふと嬉しそうに笑う。その様子があまりにも可愛くて、心操は無意識のうちに彼女の頬を撫でる。


「えへへ〜♡」


そんな状況だが、彼女は何一つ嫌がる素振りを見せず、むしろ幸せそうな表情をして心操に擦り寄ってくる。


「ほんと、可愛いな。お前」

「えへ〜♡ひとしくん、だいしゅき〜♡」

「俺もだよ」

「きゃー♡」


嬉しそうに笑った鶚は、ふわふわの翼で心操を包み込み、心操もそれに応えるように彼女の背中に手を回した。
彼女の体温も、匂いも、全てが心地よくて、このままずっとこうしていたいと思える程だった。


「もっと、ぎゅってして欲しいにょ·····」


甘えるような声でそう言われれば、当然のように要求に応える。
お互いの距離がゼロになり、心臓の音さえも聞こえてくる距離。
まるで、相手の命を共有してるような感覚に陥る心操は、それがとても好きだった。


「んぅ〜·····」


そして、抱きしめられると決まって小さくちよちよと求愛鳴きをする鶚の声も好きだった。「(·····やっぱり、こいつの鳴き声を聞くと安心するな)」心操はそう思いながら、腕の中の温もりを堪能した。


·····しかし、その時間も長くは続かない。


「·····わ!もうこんにゃ時間にゃにょ!?いい加減に自室帰らにゃいとしぇんしぇ〜に怒られるにょ!」


鶚か突然ハッとした表情でそう言うと、心操は腕を解く。


「ごめんにゃさい、遅くなったにぇ·····」

「気にしなくて良いよ。むしろ、俺の方こそ引き止めて悪かった。」

「ん〜ん!!ひとしくんとギュッて出来て、私とっても楽しかったにぇ!!」

「そうか。それじゃあ、また明日。」

「うん、ばいばーい!!」


そう言って窓から飛び立って行く彼女を見送ると、心操は窓の鍵を閉めてベッドに横になった。

まだ口に残る甘い果物の味に、消えていたはずの独占欲がまた顔を出し、背中にぞくぞくとした快感のような痺れを感じる。


「·····っは、俺、意外と嫉妬深くて女々しいんだな」


いくら鶚が他の男から言い寄られても、鶚から求愛行為をされるのも、鶚の求愛給餌を受け入れることが出来るのも自分だけだと考えると、妙に気分が良くなる。


「·····これは、ヤバイかもな·····ひっでぇ愛及屋烏だ。」


そう一人呟くと、心操はゆっくりと目を閉じた。




ーーーーーー
愛及屋烏····· 溺愛、盲愛のたとえ。 その人を愛するあまり、その人に関わるもの全て、その人の家の屋根に止まっている烏さえも愛おしくなるということから。

1回やりたかった口移しの求愛給餌ネタ·····

20220408

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