ガラシャの瞳(SS)

「……あぁ、気分が悪かったわぁ!あいつ、べたべた触ってきて気持ち悪かったんだから!」


体についた屑を手ではたいて、纒は至極嫌そうな顔をした。
そんな様子を見て、不機嫌そうに弔はぶつぶつと文句を呟く。


「·····そうだ、アイツが悪い。俺の纒に手を出したんだから、崩されて当然だ」

「あら、心配してくれてたの?それとも·····嫉妬してくれたの?」


それを聞いた纒は、ぱあっと明るくなった笑顔で弔の方を向いてこう言った。

そして、崩される前は一人の男だったであろう屑を高いヒールで踏みつけながら、纒はひどく嬉しそうに弔に駆け寄りそのまま抱きついたが、すぐに表情を少し曇らせこう呟く。


「·····ごめんなさい、弔。私なんかを守るために“個性”を使わせてしまうなんて·····私って駄目な女ね。」

「·····纒は、何も思わないわけ?」

「えっ、何が?」

「俺が今、人を殺したってのに動揺もしてねぇ、蛇みてぇに冷静そのものだ。」

「·····ふふ、弔ったら!私は禍巫女だったのよ?人が傷ついたり死ぬのは日常茶飯事だわ。それに·····」


そう言うと、纒は笑顔で弔の顔を見つめる。
その笑顔には少し影が見え、縫い付けられている右目も弔を見つめているような、そんな異様な雰囲気が漂った。


「私に手を出した程度で、人を個性で崩して殺すなんて惨い事をする貴方は鬼だわ。」

「·····鬼の妻には、蛇がちょうどいいくらいでしょう?」



どこかで聞いたようなセリフに、弔は薄く口角を上げる。



「·····あぁ、その通りだな。お前は俺のものだ、そうだろ?」


その言葉に、纒は「そうよ」と一言だけ言うと、
ニコリと笑って、また足元の屑をヒールで踏みつけた。






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纒ちゃんは、弔以外を男だと思ってなさそう。
「鬼の妻には〜」のくだりは細川ガラシャの逸話より引用。


20170706
20211110/加筆修正

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