その独占欲、危険につき

「·····いずくん?」


出久の部屋で一緒に読書をしていたはずが、急にラグマットの上に押し倒された琉音は、目を丸くして出久の名前を呼んだ。


「なぁに、琉音ちゃん」


そう答える出久の声や表情はいつも通りだが、目が全く笑っていない。
·····その時、琉音の「感情感知」の個性が発動して、出久にほんの少しだけ怒りの感情が芽生えていることに気づいた。


「ね、ねぇ·····もしかして·····いずくん、今怒ってる·····?」

「·····それが分かるなら、僕がなんで怒ってるかも分かるよね?」

「(·····ど、どうしよう·····私、なんかしちゃったっけ·····!?)」


琉音は自分が出久に対して何かしてしまったのかと思い、焦って思考を回転させるが、何も思い浮かばない。
そんな琉音を見て、出久は琉音の左手を掴んで自分の顔に寄せると、薬指を口に含んで、薬指の付け根に思い切り噛み付いた。


「いた·····ッ!!」


突然の痛みに出久から手を離そうとするが、それは許さないと言うように強く握られてしまい、逃げられない。
そして、出久はそのまま薬指に歯形をつけると、今度はその部分を優しく舐め始めた。


「ううっ·····い、たいよぉ·····!」


舌先でチロチロと傷口を刺激され、時々ジュルリという音が聞こえてくる。
まるで犬のようにペロペロと指を舐める姿はとても可愛らしく、同時にどこか官能的でもあった。
やがて満足したのか、最後にもう一度軽くキスすると、出久はようやく手を解放してくれた。


「·····ごめんね、痛かったよね?でも、こうしないと僕の気持ち伝わらないと思ったんだ」

「なん、でぇ·····?」

「·····ねぇ、本当に分からない?」

「う、うん·····ごめん、なさい·····」


涙を浮かべながら謝ってくる琉音をじっと見下ろしていた出久だったが、やがて大きな溜息をつくと、ゆっくりと話し始めた。


「·····琉音ちゃん、今日のお昼·····食堂で他の学部の男の人に何されてた?」


出久がそう言うと、琉音はハッとしたような顔をして身体を起こした。


「え、えっと·····サポート科の男の子に告白、されたけど·····」

「·····それで?なんて答えたの?」

「私にはいずくんがいるから·····「彼氏がいるから無理」って、答えたよ·····?」

「うん、そうだね·····でもそれを見て、僕がどんな気持ちになったと思う?」


出久の言葉を聞いた瞬間、琉音の顔色がサッと青くなった。


「·····僕、意外と嫉妬深かったみたいだ。琉音ちゃんが僕の知らないところで他の男に言い寄られてるって思ったら、もう我慢できなかったんだよ。僕が怒ってる理由、分かった?」

「ご、ごめんなさいぃ·····でも、でも·····!!私にはいずくんだけ、なのにぃ·····!!」


ポロポロと涙を流し始める琉音の頭を撫でると、出久は優しい声色で言う。


「·····噛んだのはやりすぎだったね。ごめん、僕も反省するよ·····だから泣かないで?」

「ぐすっ·····うん」


泣き出してしまった琉音が泣き止むまで出久はずっと彼女を抱き締めて慰め続け、その間、琉音の唇を何度も奪った。その後、出久は琉音を抱き上げてベッドに連れていき、ふかふかの布団の上に彼女を下ろした。


「·····さっきは怖がらせちゃってごめんね。ちょっと意地悪しすぎたかも」

「うぅん、大丈夫だよ·····私こそ、心配かけてごめんなさい」

「じゃあ、仲直りのえっちしようか」

「·····ん、する」



琉音がそう言って微笑みかけると、出久は琉音の服に手をかけて脱がせていく。
下着姿になった彼女は恥ずかしそうに頬を染めたが、すぐに出久の首に腕を回して抱き着いてきた。


「·····いずくん、今日は見えるところにも、いっぱいキスマーク付けていいよ·····」

「えっ·····どうしたの?いつもは「恥ずかしいから、見えるところには絶対付けないで」って言うのに」

「だって、こんなに不安にさせたのは私のせいだし、それに·····私、やっぱりいずくんに独占して欲しいって思っちゃうもん」

「そっか·····じゃあ、遠慮なく付けるよ?いいんだよね?」

「うん、いいよ·····いっぱい付けて?」

「·····ありがとう、琉音ちゃん」


出久はニッコリ笑うと、まずは首筋に吸い付いて赤い痕をつけた。

·····それから鎖骨、胸元、お腹、太腿など至る所に痛みを伴うほどに濃い紫色のキスマークを付けてマーキングしていく。
しまいには腕や手首、つま先まで赤い花が咲かせられて、制服では絶対に隠せない場所にまで付けられてしまった。


「·····ははっ、こーんな所にまで付けちゃった·····これなら、他の男は諦めてくれるかなぁ?」

「んんぅ·····」


まるで獲物を捕食する獣のような瞳をした出久に見下ろされ、ゾクッと背筋に快感が走る。


「·····首筋、手のひら、指先、胸元、お腹·····手首にまで付けたから、これでもう琉音ちゃんに男は近づかないよね!」

「うぅ·····付けてもいいとは確かに言ったけど·····でも、これは多すぎるよぉ·····」

「·····でも嬉しいでしょ?琉音ちゃんの今の顔、「キスマーク付けられて嫌だ」って顔じゃないよ」


出久に指摘され、琉音は思わず顔を隠す。しかしそれは出久によって阻止されてしまった。
琉音はそれに拗ねたようなむすっとした顔をすると、体を起こして出久の首元に顔を埋める。


「琉音ちゃ、どうし·····たッ!?」


出久がそう聞く前に、琉音は出久の首筋にじゅっと吸い付いて、キスマークを一つつけた。


「·····えへ、お返し。いずくんばっかりズルいよ」


悪戯っぽく笑って言う琉音に、出久はとろんとした目を向けて嬉しそうな声でこう言った。


「·····ははっ、そうだよね!!僕は琉音ちゃんにいっぱいキスマーク付けちゃったから、琉音ちゃんにもいっぱい付けてもらわないと·····♡」


目の中にハートマークが浮かぶほど興奮した様子で、出久は再び琉音を押し倒してキスをする。


「·····ね、琉音ちゃん。僕にもキスマークちょうだい?琉音ちゃんのものって印、僕にも付けてよ·····♡」

「んふふ·····可愛いおねだりだねぇ」


出久の可愛らしいお願いを聞いて、琉音はクスっと笑みをこぼした。
そして出久の頭を抱えるようにして抱きしめると、彼の耳を甘噛みしながら囁く。


「·····じゃあ、いずくんにもたくさんあげるね?」

「うん、琉音ちゃんと同じくらい、僕にもつけて欲しいな·····♡」


すりすりと琉音の胸に頬擦りしながら、最高に甘ったるい声で答える出久。
そんな出久の頭を撫でながら、琉音は彼にキスの雨を降らせた。


·····こうして、二人はお互いがお互いに自分のものだと証明するように、一晩中愛を深め合った。


そして次の日、出久と琉音が上機嫌で登校していると、早速昨日の件で絡んできたサポート科の男子生徒が琉音を見つけ、笑顔で話しかけた。

琉音は何も答えなかったが、それを見た出久はニコニコと笑いながら、ゆっくりと口を開いた。



───ねぇ、僕の彼女に何してくれてんの?



いつも温厚で優しいはずの出久だが、この時は目が一切笑っておらず、底冷えするような声色でそう言い放った。その威圧感に気圧されたのか、相手はビクリと肩を震わせ、冷や汗を流しながら後ずさりする。
すると、出久はニコッと爽やかな微笑を浮かべると、琉音を自分の影に隠すように腰を抱いて引き寄せた。
そして先程の声色はなんだったのかと言いたくなるような優しい顔と声でこう答える。


「·····ごめんね、琉音ちゃんは僕の彼女なんだ。だから、君みたいな奴には渡さないよ?」

「ひっ·····!す、すみませんでした!!」


出久の言葉を聞くなり、相手の生徒は慌ててその場を去った。


「·····よし、もう大丈夫だよ」

「ありがとう、いずくん」

「いいんだよ·····それより、早く教室行かないと遅刻するよ?」

「あっ、本当だ!!急がないと!!」

「ははっ、相変わらず慌ただしいなぁ」


出久は苦笑しながらも、楽しげな表情で歩き出す。
その後ろをついて行きながら、琉音は心の中で思った。


「(あぁ·····やっぱり、私にはいずくんしかいない)」


出久と恋人になってから、琉音は今まで以上に彼を好きになった。
一緒にいるだけで幸せだし、彼に触れられる度にドキドキして、もっと触れて欲しいと思ってしまう。
彼以外には触れられたくないし、他の誰にも渡したくはない。


·····出久は知らないが、琉音も独占欲は強いのだ。


まぁお互いに両思いであったのに離れた期間があり、それを乗り越えて恋仲になったので当然と言えば当然なのだが。


「·····ねぇ、琉音ちゃん」

「うん?」

「これからは、なるべく一人で行動しないでね?僕がいない時は、誰かと一緒にいて?じゃないと僕、また嫉妬しちゃうかもしれないし、不安になるから」

「うん、分かった。でも大丈夫だよ、私はいずくんしか見てないから」

「·····うん、知ってる」


出久は照れ臭そうに頬を掻いた。


「·····僕だって同じだから。琉音ちゃん以外、目に入らないよ」

「ふふっ、そっか」

「·····あー、なんか恥ずかしくなってきた。ほら、行こうか」

「あ、待ってよ〜!」


出久が恥ずかしそうに早足になって先に行くと、琉音は彼の後ろを追いかけた。
·····その後、お互いの体に大量に残るキスマークの理由をクラスメイトから追及されたのは、また別の話。





―――――――――――――――
独占欲と執着心強いカップルって·····いいよね·····!!!

あと自分で書いといてなんだけど、キスマークって結局内出血だからちょっと薄いやつ付けるときでもかなり痛いんだが(自分で腕吸ってつけたことがある)、紫色になるまでするのって·····付けるとき滅茶苦茶痛いんじゃなかろうか·····??


20220618

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