·····飯田はふと、個性で勇樹の頬に咲いている花に軽く触れた。
それに気づいた勇樹は顔を上げ、にこりと飯田に向かって優しく微笑む。


「ふふ·····なァに、天哉ちゃん。」

「いや、その·····なんというか、だな·····えっと·····」

「·····ん?」

モジモジしながら言葉を探す飯田を見て、勇樹は首を傾げる。すると、飯田は顔を赤くして口を開いた。
「あー、その·····勇樹が、綺麗だと思って·····」

それを聞いた勇樹は、一瞬驚いた顔をするが直ぐに笑顔になって挑発的にこう言った。

「そうねェ·····アタシ確かに綺麗なイイ男、でしょォ?」

勇樹の言葉に飯田は顔を真っ赤にして何も言えずにいると、勇樹はそのままくふくふと笑って飯田の胸にしなだれかかる。

そのとき、ふわっと香った化粧品特有の香りと花の香りに、飯田はドキッとして固まる。そんな飯田を気にせず、勇樹は耳元で囁いた。

「·····アタシも天哉ちゃんのこと、好きよ。」
「っ!?」

女性顔負けの勇樹の甘い声に飯田はビクッと肩を上げる。そしてそのまま固まっていると、勇樹はゆっくりと身体を起こして飯田から離れていく。
離れる際に見えた彼の頬には、うっすらと紅が差していた。

「·····天哉ちゃんは、アタシなんかで·····良かったの?」「そ、それはどういう意味なんだ?」
「·····アタシ、化粧しても、女の子言葉を使っても、結局は男なのよ。」
「だからどうしたんだ?俺は勇樹なら、性別なんて関係ないぞ!」
「·····それでも、良いのかしら?」
「ああ!俺にとって君は素敵な人だよ!!」
飯田がはっきりと言うと、勇樹は目を丸くさせてから嬉しそうな表情になる。そして、少しだけ潤ませた瞳で彼に抱きつく。
「ありがとう、天哉ちゃん!!やっぱり貴方って優しいわね!!」

ぎゅぅっと抱きしめると、飯田は照れながらも彼女の背中に腕を回す。

その瞬間、ふわりと香った化粧品の匂いと花の香りに包まれて、飯田の心拍数は急上昇する。
(あぁ·····幸せだなぁ)
そう思いながら飯田は勇樹を抱き返すと、彼は嬉しそうにクスリと笑った。

「·····アタシのこと、離さないでよね」
「勇樹は俺の個性を忘れたのか?もし君が逃げたって追いついてみせるとも!!」
自信満々に言う飯田を見て、勇樹は思わず吹き出すように笑う。

「·····ふふ、そうねェ!レシプロバーストされちゃったら、流石のアタシでも逃げらんないワ!」
「あぁ、そうだな。それに·····」

飯田はそこで言葉を区切ると、優しく勇樹を見つめて彼の頬を撫でてから口を開く。

「例えどんな姿になろうと、君のことは絶対に見失わないさ。」
「あらァ、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。」
勇樹はそう言いながら飯田の手に自分の手を重ねると、すり、と優しく頬擦りした。

しばらくすると勇樹の髪からアイビーが生えてきて、しゅるりと飯田の腕に絡みつく。

「わわ·····ッ!!やっだァ、もう!!」

それに気づいた勇樹は慌ててアイビーを引っ掴んで飯田から引き剥がす。
その様子を見ていた飯田は、ひとつ、とあることを思い出した。

·····それは、アイビーの花言葉。


―「死んでも離れない」。

そんな花言葉を持つ植物が勇樹から生え、なおかつ飯田に巻き付いてきた、ということは。

·····つまりそれは、そういうことだろう。

それを知ったとき、飯田の顔はボンッと音を立てて赤く染まった。「えっ!?ど、どうしたの!?アタシ変なことしちゃったかしら??」
「·····あー·····えー·····その·····そのアイビーら君の想いと捉えていいのだろうか·····?」飯田が真っ赤な顔をしながら小さな声で聞くと、勇樹も顔を真っ赤にする。

「え·····まさ、か·····アイビーの花言葉·····知ってんの·····?」勇樹の言葉に飯田はこくりと小さく返事をすると、顔を手で隠してしまう。
勇樹はそれを見ると恥ずかしそうに笑い、飯田の胸板にぽふっと頭を押しつける。
「·····鈍感な癖に、こういうのだけは鋭いのねェ」
「·····すま、ない·····」
はぁー·····とため息をつくと、勇樹は身体を起こす。そしてニヤリと妖艶な笑みを浮かべたあと飯田にキスをする。
「·····天哉ちゃんのエッチ」
「あぅう·····」
「ふふ、可愛いネェ」
クスクスと笑うと、勇樹は身体を離して飯田の前に立つ。そして、ニッコリ笑ってこう言った。
「·····これから先、ずっと一緒にいてちょうだいな」
「·····もちろ·····!」
飯田が肯定しようと顔を上げた瞬間。
ちゅっ。
リップ音がして、勇樹の唇が彼の頬に触れる。それを理解したときには、勇樹は既に走り去っていってしまうところだった。
「天哉ちゃん、それじゃあまた明日ね!!愛しているわよ!!」
それだけ言って勇樹は駆け抜け、あっという間に見えなくなってしまう。
残された飯田は呆然としていたが、じわじわとその言葉の意味を理解しはじめる。
「〜〜〜!!!」
ボフンと音が鳴るくらいに飯田は、更に真っ赤になってしまう。しかし、直ぐに我に返ると勇樹を追いかけるべく再び走り出した。
彼の個性である「エンジン」を使えばすぐに追いつけたのだが、この時ばかりは自分の足で追いかけたかったのだ。
何故ならこれが彼の初恋だから―――。

next
index
top

ALICE+