その先はずっと幸せだから


「·····」

「ほんっっとにすみませんでしたァァァ!!!!」


爆豪の前で土下座しているのは、普通科の男子生徒。
そして爆豪の腕には、小学生くらいまでの子供に戻ってしまったとろみがぐすぐすと泣いていた。


·····それは、遡ること数分前。


食堂で一緒にお昼ご飯を食べていた爆豪ととろみの近くをその男子生徒が通った時、突然彼の個性「若返り」が暴発してしまったのである。
突然のことに驚きつつも、爆豪はすぐにその男子生徒の襟首を掴んでとろみから遠ざけた。
·····しかし時既に遅く、とろみの体はみるみる縮んでいき·····今に至るというわけだ。


「俺の不注意です!!本当にごめんなさい!!!!」

「········」


必死に謝る生徒だが、爆豪は不機嫌そうに黙り込むのみ。
「とろみが元に戻ったら覚えてやがれクソが」と、内心毒づいているに違いない。


·····しかし、今はそれどころではない。


若返りの個性の影響か、とろみの記憶も後退してしまっており·····当然、自分が今ここにいる理由もわからない様子だった。


「おい、とろ·····」

「·····ご、ごめんなさい、おにーちゃん·····とろみのこと、おこらないで·····ぶた、ないで·····」

「ッ·····」

「ごめんなさい·····なんにも、わからないの·····やくたたずで、ごめんなさい·····」


·····と、ひたすら謝りながら泣くとろみを見て、爆豪は思わず舌打ちをした。

今のとろみは完全にネグレクトや虐待を受けていた幼児時代に戻っているらしく、精神状態がかなり不安定になっているようだった。そんな彼女を放っておくことはできず、爆豪はため息をつく。


「·····おい、とろみ」

「ひっ!?うぅ〜·····!」

「あぁもう面倒くせぇな·····泣き止めって言ってんだろうが」


爆豪は悪態をつきながらも、そのままとろみをひょいと抱き上げる。


「ひっ·····!!」

「·····おい、ビビんな。俺は爆豪勝己ってんだ。別にテメェを取って食ったりしねぇよ」

「·····ほん、と?おにーちゃん、とろみのこと·····おこらないの?」


恐る恐るそう聞くとろみに、爆豪は再びため息をつく。


「あんなクソどもと一緒にすンな!!」

「ふえっ·····じゃ、じゃあおにーちゃんは、とろみのこと·····きらいじゃないの?」

「嫌いでもねェわクソが!!だからさっきから怒ってねェだろうが!!」


そう怒鳴ると、爆豪はとろみの頭をわしわしと撫でる。
言葉や動作は乱暴だが、本当に自分に怒っておらず、嫌ってもいないことが分かったとろみは、少し泣き止んでぎゅっと爆豪に抱きついた。



·····それが、数分前の話。



「·····で?ちゃんと戻んだろうな?」

「は、はい·····時間が経ったら、戻ります·····」

「ならいい。行くぞとろみ」

「·····うんっ!」


こうして、ひとまず2人はその場を離れることにした。

歩いていく爆豪の腕の中で、とろみはきょろきょろと当たりを不思議そうに見回す。


「·····どーした」

「あのね、とろみね·····だっこしてもらうのも、ひろいとこも、ひさしぶりなの·····」

「·····チッ」

「ばくごーのおにーちゃんといっしょにいるの、たのしい!とろみ、おうちだと·····いつもせまいとこで、ひとりだもん·····」

「お前、いつも一人なンか」

「·····うん、おとーさんもおかーさんも、おにーちゃんのことばっかりだから、きっと、とろみなんて·····いらないこなんだよ·····」


そう言うと、とろみの瞳に再び涙が浮かぶ。

「·····ばくごーのおにーちゃんが、とろみのおにーちゃんだったら、よかったのに」

「あァ?馬鹿かテメェは。俺がテメェの兄貴だったら恋人になれねぇだろうが」

「こいびと·····って、だれとだれが·····?」

「俺と、大きくなったお前だよ。言わせんなクソが」

「·····へ?」


ぽかんとするとろみに、爆豪はニヤリと笑ってみせる。
そして小さなとろみの額にちゅっとキスを落とした。


「·····忘れんな。今は辛いことしか無いかもしれねぇけど、大きくなったら俺が守ってやる。そん時は、ずっと一緒にいてやンよ」

「·····うそ、じゃないよね?」

「嘘じゃねェ。約束してやるよ」

「·····わかった。やくそく、する」


そう言ってとろみが小指を差し出すと、爆豪は彼女のそれに自分のそれを絡めて笑った。

「絶対、ぜったいだからね?とろみのこと、まもってくれるんだから·····やくそく、だからね?」

「おう。任せろや」


そう言うと、爆豪はとろみを抱き抱えたまま再び歩き出した。


「·····ばくごーのおにーちゃん」

「あぁ?なんだよ」

「ありがと。だいすき」

「·····ケッ」


照れ隠しのように悪態をつく爆豪だったが、その顔はどこか嬉しそうだ。
そしてとろみが爆豪の頬にさっきのキスのお返しと言わんばかりにチュッと口付けると、爆豪は目を丸くしたあとでくしゃりと破顔して「·····ばーか」と小さく呟いた。


·····そしてその数時間後、無事にとろみは元に戻った。


「·····なんか、すっごい頭が痛いんだけど·····」

「そりゃテメェ、あんなに泣いてりゃ頭痛もすンだろ」

「·····え?私、なんで勝己の膝の上にいんの?ていうかここ寮?あれ?あたし食堂にいたはずなんだけど?」

「記憶がぶっ飛んでンのか。お前、クソモブの個性で幼児化したんだよ」

「幼児化!?」

「しかも中身までガキになってやがった。んで、仕方ねぇから俺が面倒見てやってたンだわ」

「ウソでしょ·····マジか」


そう言いながら、とろみは頭を抱える。
そしてその数秒後、ハッとした顔で爆豪に詰め寄った。


「·····小さいあたし、なんか言ってた?」

「あ?テメェはひたすら泣いてただけだぞ」

「いや、そうじゃなくて·····」

「·····最初はビビってたが、俺が好きだっつって、ずーっと引っ付いてきたけどな」

「ウソでしょ·····ごめん勝己、小さい頃のあたしなんて、絶対迷惑だったわよね·····」

「アホ。今のテメーだって似たようなモンだろうが」


そう言って、爆豪はとろみをぎゅっと抱きしめた。


「·····別に迷惑じゃねぇ。テメェを泣かすクソ共にさらに殺意が沸いただけだわ」

「·····ふぅん、そっか」


爆豪の言葉に、とろみは満足げに笑う。
そんな彼女に、爆豪は呆れたようにため息をついた。


「·····なぁ、とろみ」

「なに?」

「俺が守ってやっから、もう泣くなよ」


そして爆豪は、とろみの唇に自分のそれを重ねた。


「!?」


突然の出来事に驚いているとろみを無視して何度も甘いキスを繰り返し、最後にぺロリと唇の端に付着していた唾液を舐め取る。
すると顔を真っ赤にして口をパクパクとさせているとろみの様子が面白かったらしく、爆豪はくつくつと喉を鳴らして笑い始めた。


「なッ、な、な!あんた何してくれてんの!!」

「言っただろ、守ってやるって。テメェのことは、これから一生かけて大事にし殺してやンよ」

「!?」


爆豪のとんでもない発言に対して、とろみは限界を超えたのか頭からぷしゅ〜と湯気を立てて気絶してしまった。
意識を失った彼女をベッドに寝かせ、毛布をかけてやりながら、爆豪はにやっと意地の悪い笑みを浮かべる。


「·····ま、今はこれで良いか。今はまだな」


爆豪は楽しげにそう言うと、気を失っているとろみの頭を優しく撫でた。



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一回は書きたかった幼児化ネタ!!!

20220606

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