「·····好きだぜ、お茶子」

陽太はとろんとした瞳でそう言うと、抱きしめているお茶子の髪の毛にさらりと指を通した。

ぱたんぱたんと緩く振れて床を叩く犬のしっぽの音を聞きながら、お茶子はゆるく微笑んでその手を甘受する。

「ウチも好きやで、陽太くん」
ふふっと笑い声が漏れると、陽太の腕の力が強くなる。しばらく抱き合った後、どちらからともなく身体を離した二人はお互いの顔を見つめ合う。
そしてそのまま、吸い寄せられるように唇を合わせた。
ちゅっというリップ音を立てて唇が離れると、2人は至近距離で見つめ合い、お茶子は陽太の頬を両手で包み込んで撫でる。

「·····陽太くんの目は綺麗やね」
「ん? そうか?」
「うん。ルビーみたいな赤色やけん、すごく好き」
じっと見つめてくるお茶子に、陽太は驚いたように目を見開き、その後顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。それがなんだかおかしくて、お茶子はクスクスと笑う。
こんなにも幸せな気持ちになれるなんて知らなかった。
「陽太くん、大好き」
この幸せを噛み締めていたいと思いながらも、お茶子はぽつりと呟いていた。
その言葉を聞いているのかいないのか分からないけれど、陽太は再びこちらを見ると、「おう」とぶっきらぼうな返事をする。
でも、その顔には隠しきれない笑みが浮かんでいて、しっぽもちぎれんばかりにぶんぶんと揺れていて。
お茶子はその様子にくすりと笑って、再びぎゅうっと陽太を抱き寄せる。
その行動に慌てたような声を出す陽太を無視して、お茶子は思う存分彼の温もりを感じることにした。

「·····しかたねぇなぁ」

しばらくして、陽太は諦めたようにぼそりと言うと、ゆっくりとお茶子の背中に手を伸ばす。
やがて優しく包むようにして抱き返すと、陽太はそのまま後ろ向きにごろりとラグマットの上に寝転がった。

「きゃあっ!?︎」

いきなり視界が変わったことで驚くお茶子を尻目に、陽太は彼女を抱きしめたまま仰向けになる。
「わぷっ」
ちょうど胸元あたりにお茶子の頭が来て、彼女は変な声を上げた。

「·····ふぁ、ふぐ、ひょうひゃひゅん?」

「んー?」

戸惑っているらしい彼女の頭を撫でながら、陽太はしっぽをお茶子の腰に巻きつけてぐいと引き寄せる。

「ぷはっ·····陽太くん?」
「……」
呼びかけても無言のまま、陽太の手は止まらない。
その手つきがだんだんと怪しいものになっていき、お茶子が身を捩っても陽太は放さない。
「ちょっと……ひゃんっ」
「ごめん、もうちょっと·····」
「きゃっ!」
「なぁ、お茶子……」

熱に浮かされた声で名前を呼ばれ、お茶子は息を呑む。
そして陽太の胸に耳を押し当てると、どくんどくんという心臓の音が聞こえてきて、思わず目を閉じた。
「陽太くん、鼓動が早い……」
「それはそうだろ……。好きな子と二人きりでくっついてんだからさ」
陽太は照れくさそうに言うと、自分の上に乗っかる形になっているお茶子の身体をさらに強く抱きしめる。
「ふふっ·····ウチも陽太くんが好きや。陽太くんがウチのこと好きになってくれて嬉しいんよ」

お茶子は心の底からの想いを口にする。
今まで誰かを好きになったことなどなかった。ましてや付き合うことなど想像したことすらない。
だが今は違う。
目の前にいる少年のことを愛しいと思っている。この感情を恋と呼ぶのだろう。

「·····ん、俺もめちゃくちゃお茶子の事好き」そう言って陽太はお茶子の髪の毛を指に絡ませる。
「ありがと。でも、もうちょっとだけこのままでおって?」
「おう」
お茶子のお願いを陽太はあっさりと受け入れて、そのままの姿勢でお茶子の髪に鼻先を埋める。
陽太の匂いに包まれて、お茶子は幸せそうに微笑んだ。
「陽太くん、あったかいね」
「んー?」
「なんか眠たくなってきてもーた」
お茶子は目を細めながら言う。その声音はいつもより少し甘えたもので、陽太の庇護欲をかき立てる。
「んじゃ、寝るか」
「うん」
陽太の提案にお茶子はこくりと素直にうなずく。
「·····よい、しょっと」

そしてそのまま陽太はお茶子を抱き上げ、ふかふかのベッドに横たえる。
陽太はそのままお茶子に覆い被さると、ちゅっと軽くキスをした。
「ん、陽太くん……」
「お茶子……」
二人はお互いの名前を呼び合うと、自然と顔を寄せ合う。
ぺろ、と陽太がお茶子の鼻筋を舐めると、お茶子はくすぐったそうにくふくふと笑った。

「·····やー、くすぐったい!」
「ん、愛情表現だから我慢な」
「んふ、ふふっ·····もー!」

そのまま頬や眉間をぺろぺろと犬が飼い主にするように陽太は何度も舌先でなぞる。
やがて満足したのか最後にもう一度唇に触れると、陽太は名残惜しそうに離れていった。

「ほんまにワンちゃんみたいやねぇ」
「俺の個性、キメラだからな」
そう言って陽太はにかっと笑うと、今度はお茶子の首元へと顔を寄せる。そしてすん、と小さく鼻を鳴らして、そこにすりすりと顔を押し付けてきた。「ちょ、陽太くん! そんなとこに顔埋めたらあかんて!」
「いいだろ? 俺はお茶子のこと好きだし」
「そういう問題ちゃうくて……あんっ」
陽太がぐりっと顔を動かしたことで、お茶子はびくりと身体を震わせる。
「ほら、こういうところも可愛い」
「もぉ〜、陽太くんはホンマにしょうがないなぁ」
お茶子は呆れたように言いつつも、その表情は柔らかい。
「·····な、お茶子」
「なに?」
「もっと、触りたいんだけど」
「……えっち」
お茶子は口ではそう言ったものの、その瞳には期待の色が見える。
「だって、好きな子に触れてぇじゃん」
「そ、それならしゃーないけど……」
「·····それに、お茶子も嫌じゃないんだろ?」
「そっ、それは……その……」
お茶子は恥ずかしげに視線を逸らす。しかし陽太はそれを許さず、彼女の顔を両手で挟んで正面を向かせた。
「お茶子」「……うぅ……」
真っ直ぐに見つめてくる陽太の眼差しに耐えられず、お茶子はぎゅっと目を閉じる。
「·····なぁ、お茶子」
「う、うん」
再度名前を呼ばれ、お茶子は観念してゆっくりと目を開く。
すると、陽太は嬉しそうな顔で「ありがとう」と言って、また顔を近づけた。
「……ん、」
陽太はお茶子の額に、瞼に、頬にと順番にキスを落としていく。
愛おしくてたまらないと言われているようなその行為がくすぐったくて、お茶子は陽太の背中をぎゅっと掴んだ。
それに喜んだのか、陽太の尻尾がはち切れんばかりにぶんぶんと揺れている。「·····陽太くん」
「ん?」
「大好き」
お茶子の言葉に一瞬驚いたように動きを止めたが、すぐに陽太はへにゃりと笑い、「おう」と返事をする。
そして、2人は顔を見合わせると、どちらからともなく唇を重ねた。

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