「·····焦凍は、私の体·····気持ち悪くないの?」

突然の火花の発言に、轟は一瞬動きを止める。
そして少しの間を置いて、口を開いた。

「そんな訳ねぇだろ」

「·····だって、私の体·····見えないところは個性のせいで傷痕だらけよ」

そう言うと火花は自分の着ていたパーカーの襟を引っ張って肩口を覗く。
そこには、いわゆる雷撃傷·····リヒテンベルク図形と呼ばれる、木の枝のような形をした火傷の痕が残っていた。

·····今でこそ火花は電気個性を自由に扱えるが、それは父親の雷撃と炎司の幼い頃からの特訓の賜物であり、個性が発現した時からそうであった訳ではなかった。
まだ幼い子供だった頃、訓練中に起きた事故により、彼女の体は大きな火傷を負ったのだ。

背中や肩口に刻まれたその傷痕を、「見苦しいものは見せられない」と火花はいつも隠しているのだが、それを知っているのは女子以外では幼馴染であり許嫁である轟1人だけだった。

「·····俺は、綺麗だと思うぞ」
「えっ·····」
「木の枝みてぇなこの火傷の痕も、お前の白くて綺麗な肌も、2つの個性だって全部好きだ」
「ッ·····!!」
真っ直ぐに見つめてくる轟の言葉に、火花の頬は一気に赤く染まる。
そんな彼女を見て轟は微笑むと、優しく頭を撫でた。

「·····本当に?」
「あぁ。じゃあ逆にお前に聞くが·····俺のこの火傷跡は、気持ち悪いか?」

そう言うと、轟は左側の火傷跡を指先でとんとんと叩く。

「·····ううん、そんなこと·····思ったことすらないわ!·····焦凍の顔にある火傷の痕も、あなたの2つの個性も大好き!」
「·····ありがとよ。俺も同じだ」
「ふふっ·····ありがとう」

そう言うと、火花は少しだけうつむく。

「·····私、少し不安だったの」
「何がだ?」
「焦凍はきっと、女の子にモテるから·····こんな私より、もっと可愛い子の方がお似合いなのかなって思ってしまって·····」
「·····なんだよ、それ·····」
「だって·····私が焦凍の許嫁ってことは、炎司さんが決めた事だもの。焦凍が嫌なら、いつだって私は解消してもいいと思ってるわ」
火花がそう告げると、轟は目を見開く。
そして彼の顔には、怒りにも似た表情が浮かんできた。
「ふざけんなよ·····」
「えっ·····きゃっ!?」
轟は火花を抱き寄せると、そのまま自分の腕の中に閉じ込めてしまう。
いきなりの行動に火花は驚いた声を上げるも、すぐに大人しく彼に身を任せた。
「·····俺はお前以外の女なんていらねぇよ。たとえ親父が決めた相手でも、お前以外と結婚する気なんか更々無え」
「しょ、しょうと·····」
「俺が昔から、どれだけお前を愛してるか、分かってねぇんだろ!」
「きゃっ·····!」
轟は火花を抱きしめたまま畳に押し倒すと、彼女を上から覆い被さるように組み敷いた。突然のことに火花は目を丸くするも、轟は構わず話を続ける。

「俺は·····ずっと前から、お前のことしか見てなかった。初めて会ったあの日から、お前だけを愛してきた。だから·····もう、他の奴なんかいらねえ」
「焦凍·····」
「親父がお前のことを許嫁にするって言った時、すげえ嬉しかったんだぞ?分かるか?なぁ?」

ぐっと顔を寄せ、至近距離で睨みつけてくる轟に、火花は思わず息を呑んでしまう。
しかしそれも束の間、轟は火花の額に自身の唇を押し当ててきた。

「あっ·····」
「俺は·····お前のことが好きなんだ。世界で1番、お前を愛してる」

轟は火花の耳元で囁きながら、彼女の頬や首筋、鎖骨などにキスを落としていく。その度に火花は小さく震えるも、抵抗はしなかった。

「俺は·····小さい頃から、ずーっと一緒に居てくれたお前が好きなんだ。これから先だって、一緒に居るのはお前だけだ。だから·····許嫁を解消したいとか、そんなこと、二度と言うんじゃねェぞ」
「っ·····ごめんなさい、焦凍·····」「·····分かったならいい」
轟はそう言うと、再び彼女に口付ける。今度は触れるだけの優しいものだったが、それでも彼女の心を満たすのには充分だった。
「·····好きだ、火花」
「私も·····好きよ、焦凍」
互いに見つめ合うと、2人はどちらともなく笑い出す。
それはまるで、今までのすれ違いが嘘のように思えるような光景で、とても幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「·····なぁ、火花」
「なに?」
「·····そろそろ、続きをしてもいいか?」
「っ·····」
轟の言葉に、火花の頬は一気に赤く染まる。
「·····ダメ、なのか?」

「ッ·····」
「なぁ、火花·····」
「っ·····焦凍の、ばかぁ·····」
「·····わりぃ」
火花の口から漏れた言葉に、轟は申し訳なさそうに謝る。
そんな彼を見て、火花は再び笑った。
「ふふっ·····別に、嫌じゃないわ。ただ、ちょっと恥ずかしかっただけよ」
「·····そうなのか?」
「うん。·····だから、優しくして?」
「ッ·····あぁ、任せろ」
轟はそう言うと、火花の首筋に強く吸い付く。
その瞬間、火花はビクッと体を震わせた。
「んぅっ·····!」
「·····痛いか?」
「ううん、大丈夫·····続けて、焦凍」そう言うと、火花は自身の両手を広げて轟に抱きつく。
そんな彼女を見て、轟は優しく微笑むと、また強く吸って痕を残していった。
「んっ·····あ、焦凍·····」
「·····どうした、火花」
「ん·····もっと、欲しいわ」
「·····ここじゃなくて、別の場所が良かったのか?」
そう言うと、轟は火花の胸に触れる。
「んっ·····違うわ、そうじゃなくって·····」
「じゃあ、どこだ」
「っ·····焦凍のいじわる」
「言ってくれねぇと分からねぇよ」そう言うと、轟は火花の上着に手をかける。
そしてそのまま上着とパーカーを脱がすと、下着姿になった火花に、轟はゴクリと喉を鳴らした。
「っ·····綺麗だ、火花」
「嘘ばっかり·····こんな傷跡、見苦しいったらないわ」

火花は自嘲気味に笑うと、自分の体に残る雷撃傷を指先でなぞる。
すると、轟はその手を掴んで止めた。
「·····俺は、この火傷の痕も含めて、お前が好きなんだよ」
「焦凍·····」
「だから、お前の体にどんな痕が残ろうが気にしねぇし、むしろ嬉しい」
「ふふっ·····ありがとう、焦凍」
火花は嬉しそうに笑うと、ゆっくりと目を閉じる。
それを見た轟も、火花と同じように目を閉じた。
2人の唇が再び重なるまで、あと数秒。


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