全部貰うし、全部あげる

「·····綺麗な、白い髪ね」

「ん·····」


情事のあと、あおぎは隣で添い寝していた荼毘の髪をさらりと撫でてぽつりと呟いた。

荼毘はあおぎとセックスをする時に、いつも髪色を染めた黒から、元の髪色である白色に戻す。
·····それがいつからか、2人の習慣になっていた。


「·····この髪色すごく好きだけど、セックスする時しか見れないのが残念だわ」


未だに荼毘の頭を撫でるあおぎが少し残念そうに言うと、荼毘はくつくつと笑ってあおぎの頭を撫でてこう言った。


「俺も、お前のこのタトゥーがセックスの時しか見れねぇのが残念だ」


荼毘はそう言うと、あおぎの左足にある太腿からふくらはぎにかけて刻まれた花のタトゥーを手のひらで撫でる。
あおぎはいつもマーメイドラインのロングドレスを着ているため、普段はそのタトゥーは見えないのだ。

なので、敵連合でその事を知っているのは女の子やあおぎの妹のハヅネを除けば、荼毘しかいない。


「くすっ·····連合の女の子やハヅネ以外にこのタトゥーを見れるのは、貴方ひとりだけよ」

「それは光栄だな」


クツクツと笑いながらあおぎを抱き寄せた荼毘は、そのまま彼女にキスをする。


「·····お前は俺のモンだろ、なぁ」


強請るように、懇願するように囁かれるその言葉にあおぎは目を細めると、彼の背中に腕を回して口を開いた。


「どうしたの?今日の荼毘はやたらと素直ね」

「·····別にいいだろ。それより返事は?」

「ふふっ·····えぇ、私はもうずっと前から、あなただけのモノよ」


嬉しそうな表情を浮かべたあおぎの言葉を聞いた荼毘は満足げに笑うと、彼女の首筋に強く吸い付いて痕を残す。
そしてあおぎの唇を奪うと、再びベッドへと押し倒した。


「んぅっ·····!」


突然の事に驚いたのか、あおぎは目を大きく開くがすぐにうっとりとした表情になり、自ら荼毘の首元に腕を回してぎゅっと力を込めて彼を求める。

荼毘の口内は彼の個性の影響か、人より少し体温が高くて、キスをされるとそれすら心地よく感じてしまう程に気持ちよかった。


「·····ほら、もっと舌絡ませろよ」


せっつくようにあおぎの舌ピアスが荼毘の舌で動かされる度に、鼻に抜ける喘ぎ声が漏れて身体がびくっと跳ね上がる。


「んっ·····ふ、んんっ·····!」


まるで脳みそを直接愛撫されているような感覚に陥りながらも、あおぎはその快感に身を任せる。

そのうちに息苦しくなったのか、荼毘から離れようと身を捩るが彼はあおぎを逃すまいと更に強く抱き締めた。


「·····おい、逃げんなよ。黙って喘いでろ」

「んん·····だってぇ·····荼毘の口、あっつくて·····溶けそうなんだもの·····」


熱に浮かされた瞳で見つめてくるあおぎを見て、荼毘は再び彼女を押し倒すとその耳元でこう囁いた。


「じゃあ、もっと溶かしてやるよ」


その言葉と同時に、荼毘の手が再びあおぎの肌に触れる。
しかし先程の行為のせいで敏感になっている彼女は、それだけでも甘い吐息を漏らしてしまう。


「んっ·····はぁ、だめぇ·····今触られたら私ぃ·····またおかしくなるから·····」

「ハッ!上等だぜ、俺無しでは生きていけねぇくらいにしてやるよ」


そう言って笑った荼毘の顔を見た瞬間、あおぎの中で何かが弾けた気がした。


「(·····ああ、なんて素敵な笑顔なの)」


快楽で蕩けきっているはずの頭でそう思った途端、あおぎの心は歓喜で満たされる。
彼が自分だけを見てくれる事が、こんなにも嬉しい事だと思わなかったからだ。


「·····大好きよ、私の·····私だけの蒼い炎·····」


そう呟いてあおぎは荼毘の頬に手を当てると、彼の顔を引き寄せるようにしてキスをする。
·····そんな彼女を、荼毘は心底楽しそうに見下ろしていた。


「·····俺もお前の事を愛してるよ、あおぎ。だからずっと·····死ぬまで一緒に居ろ」


荼毘はそう言うとあおぎの左薬指に噛みつき、そのままそこに口づけを落とす。


「·····えぇ、もちろん」


あおぎは幸せに満ちた表情で微笑む。それは今までで一番綺麗で美しい、彼女の本当の姿だった。


「なァ、あおぎ·····お前は俺だけ見てればいいんだよ、他の奴に目移りなんかすんじゃねえぞ」

「·····心配性なのね、大丈夫よ。私は昔から貴方しか見えていないから」

「フン·····ならいい」


荼毘はあおぎの唇を奪うと、そのまま深く口付けを交わす。


「んっ·····んぅ、んんっ·····」

「·····はぁ、んっ·····」


時折、舌先で擽るようにあおぎの舌ピアスを舐めてやれば、あおぎはびくびくと身体を震わせる。
その反応が可愛くて、荼毘は何度も同じ事を繰り返した。


「んんっ·····んっ、んんーっ!!」


やがて限界を迎えたのか、あおぎは荼毘の腕を強く掴むと身体を仰け反らせて達したようだ。
荼毘は満足げに口元を歪ませると、あおぎの身体を優しく抱きしめて囁く。


「·····フハッ、キスだけでイッちまったのかよ、この淫乱」

「ん、ふっ·····はぁ·····いじ、わる·····!!気持ちよく、なるのは·····荼毘とする、キスでだけよ·····!!」

「·····へぇ?他の男とした事あんのか?」

「なっ·····い、1回だって無いわよ·····!初恋も、ファーストキスも、処女だって·····あなたが持ってったじゃない·····!!」

「·····あぁ、そうだな。あおぎは全部、俺が初めてだもんなァ?」


荼毘は目を細めながらあおぎの頬を撫でてそう言うと、荼毘のざらついた肌の感覚と継ぎ接ぎの金具が触れる感覚に、またあおぎは体をぶるっと震わせた。
それでも少し悔しいのか、悪戯っぽく笑うとこう言い返す。


「·····荼毘だって、全部の初めてを私にくれたくせに·····初恋も、ファーストキスも、童貞も·····私が貰っちゃったわね」

「·····ハッ、違いねぇな」


荼毘はあおぎのその言葉にクツクツと笑うと、再びあおぎの身体を弄り始める。


「んっ·····は、んっ·····!」

「·····なァ、あおぎ。お前は俺のモンだが、俺もあおぎだけのモノだ。分かるか?」

「んっ·····ふふっ、えぇ·····分かってるわよ·····」


荼毘の言葉にあおぎはうっとりとしながら答えると、荼毘の首元に腕を伸ばして抱き寄せる。


「私の体も、心も、愛情も、命だって全部荼毘にあげるから·····荼毘も私にあなたの全部を頂戴·····?」

「ハッ、随分と欲張りなこった」


荼毘は鼻で笑うと、あおぎの唇に自分の唇を重ねる。


「·····嫌?」


あおぎは眉を下げて荼毘に尋ねる。荼毘はその表情に弱い事を知っていたからだ。


「·····バーカ、嫌じゃねェに決まってんだろ」


荼毘は再びあおぎの唇を奪う。


「んぅっ……!」

「俺の全てはもう、お前にくれてやったんだ·····今更返品は出来ねェぜ」

「ふふっ、そんなの当たり前でしょ。返せって言われても返してあげないんだから」


あおぎは荼毘の頬を両手で包み込むと、妖艶に笑ってこう言った。


「·····私はもう、荼毘なしじゃ生きていけないもの」

「·····あァ、それでいい」


荼毘は満足げに口角を上げると、あおぎの身体をベッドに押し倒す。
そのまま、再びあおぎを求めるようにキスをした荼毘の顔には、狂気的な笑みが浮かんでいた。


「·····絶対に、誰にもやらねぇ。どこかに行かせるくらいなら、誰かに奪われるくらいなら·····俺が殺してやる」


そう言ってあおぎを抱き締める荼毘の顔に、普段の余裕のある笑みは無く·····そこにはただ、あおぎへの執着だけが渦巻いていた。

それを見たあおぎはただ一言だけ、こう呟いた。


「·····あなたのすべてを愛してる」


荼毘はその言葉を噛み締めるように聞き入れると、愛おしそうにあおぎの髪を撫でる。そして彼女に触れるだけの優しいキスをして、耳元でこう囁いた。


「·····愛してる、あおぎ」


荼毘のその声は、あおぎの鼓膜を通して脳髄まで溶かすような甘さを含んでいた。
その言葉を聞いたあおぎは、幸せそうに微笑んでこう呟く。


「·····私も、あなたを愛してる」



その言葉を最後に、2人の意識は闇へと沈んでいった。





――――――――――――
抱くことや言葉でしか愛を表せない不器用なこんな二人が好きです·····


20220725

next
index
top

ALICE+