梶が何故彼を尊敬しているのか。
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「てかおまえさ」
「はい?」
「なんで俺のことを尊敬してるわけ?」
今日も無事に収録を終えた。最近はありがたいことにたくさんの役を、それこそ主役もやらせてもらえるようになって。今も、俺が主役を演じてる作品に出演してる晃さんと一緒に飲みにきてるところだ。
ふたりともビールが大好きだから真っ先に頼んだビールをいっきに飲みきり、いろいろ話しているうちに酒が回ってきた晃さんから急に質問をされた。
「..え?」
「なんか香菜ちゃんとか日笠が言ってたんだけど、おまえ俺のこと尊敬してるんだって?」
「あ、あの二人が言ってたんですか?」
「あ、ちげーの?」
「いやいや、もちろん尊敬してますよ!!」
「まぁなつかれてるなーとは思ってたけど、尊敬されるようなことした覚え俺ないんだよな。なんで?」
「覚えてないんですか!?」
確かに俺は晃さんのことを尊敬している。演技もさることながらその人柄を本当に尊敬しているのだ。
なぜ俺が彼を尊敬するようになったのか、それはまだまだ未熟で、与えられた役もきちんと演じることのできなかった新人の頃に遡る。
当時はまだまだ演技も(今もだけれど)なっていなくて、やっと名前のついた役を演じてても何回も本番中に失敗をだしてしまうくらい、本当にだめだめだった。
その日も、何回もNGをだして先輩声優に迷惑をかけていて。すべてが終わって共演者の人すべてに頭を下げて謝っていた。大丈夫だと励ましてくれる人もいる中、やはり渋い顔をする人もいて、俺声優向いてないかもと思いながら、一人反省会を廊下にある椅子に座ってしていた。
机には何回も失敗してしまったセリフのページをだして。たった一言叫ぶだけなのに、どうして何回も失敗するのか、当時の俺としては本当に精神的にもくるようなことだった。
「(くっそ...)」
そんな時、奥のほうから誰かの足音が聞こえた。
共演者もADさんも全員帰ったはずなのにと顔をあげたら、そこには晃さんがいた。今でこそこんなに仲良くさせてもらっているけれど、その時は怖い先輩かと思うくらいこの人とは話したことがなかったから内心びくびくしていたんだ。
「お、お疲れ様です!!」
「ん」
椅子から立ち上がって勢い良く頭を下げれば、一言そう言い向かいの椅子に腰掛ける晃さん。座っていいぞという彼の無言の視線に甘え、椅子にまた腰をかける。ふと机をみれば、そこにはさっきまで見ていた台本以外に、2つの缶コーヒーが。
「じゃあ、おまえが失敗した前のセリフから」
晃さんはただそれだけをいい、別の役者さんがいうはずのセリフを、本番と同じように演じ始めた。
俺はあわてて台本を見返す。次のセリフを何回も頭の中で復唱しながら、息を少し吸い声を上げる。
それでも思い通りにできなくて、その俺の顔をみた晃さんはまた同じ所から、同じように演技を始めた。
それを何回も、軽く1時間は超えていたんじゃないかというくらいなんの文句ひとつも言わずに、さらに演技になんのぶれもなくずっとしてくれた晃さん。
俺が思ってたような演技ができた時、晃さんはまるで自分のことのように笑顔で、こう言った。
「よく出来ました」
彼を尊敬し始めた時のことを、俺はぽつりぽつりと話す。なんだかんだ言ってすごく恥ずかしい。
「...あー..あれね」
「覚えてますか?」
「うん。よく覚えてる」
「あれ、本当に嬉しかったです。今でもそのあの時の笑顔が思い浮かびます」
「まじでか」
あの時の晃さんはまじでイケメンだった。
よく出来ました、とか。俺が女だったら絶対ほれてるね。
「でも、それがなくても本当に晃さんは俺の尊敬してる人です!!」
「まぁ、さんきゅ」
少し笑いながらそういう晃さん。イケメンぶりがにじみでてた。
「ま、俺的には十分おまえは可愛い後輩だから。見捨てるようなことはしねーし安心しなさい」
俺は多分、この人に一生ついていく。
「はい!!」
「飲むか」
「はい!!次何飲みますか?」
「熱燗」
「了解です」
「あ、湯豆腐も」
「またですか!?」
「あ?」
「すみません!!」
たとえこうやっていじられてたとしても、ね。
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