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そうだな、何て言えばいいんだろう。
まず言いたい事は一つ、俺はちゃんと貴方にお礼を言っていたでしょうか?
いつもいつも天然な発言しやがって、俺が反応に困っている所を見て心の中で笑っていた貴方の少し意地悪な所、まぁ今だから言えるのかもしれないけれど、ちゃんと前から言っていればよかった。そう言う所、好きでした。
「晃君ー!!」
同じ現場になれば、いち早く俺の所にきて今日は一緒の仕事だねーなんて、あの笑顔で俺に話しかけて。
貴方と共演する時は大体ほとんどが女性声優だったから、にやにや顔で冷やかされて。
俺は天の邪鬼で素直じゃない生き物だから、うっさい、なんて思春期みたいな反応してたけど、晃にだけああいう反応するんやで、って鈴村さんに言われた時、少し嬉しいと思った。...いや、少しじゃないな、結構、嬉しかった。
「えーと、新人声優の黒沢晃くん...だっけ?」
最初に貴方に会ったのは、そうだな、櫻井さんと鈴村さんに連れて行かれた飲み会の場所だった。
まだその時俺は新人で、名前のある役も少なく、アニメにもあまり出させてもらえていなかった時だ。
「よく聞いてるよー良い声してるイケメンの新人いるんだーって」
「どんな情報ですか、それ」
「でも確かに...イケメンくんだね!!」
最初に言われた一言はそれ。女顔だね、とは言われないで素直に純粋な笑顔でイケメンだね、と言われて柄にもなく照れた事を覚えている。
「晃君って呼んでもいいかなー?」
「あ、はい、全然大丈夫ですよ」
「こいつのニックネームはあっきーやねん」
「でも鈴村さんそう呼んでませんよね」
「だからせめて松来はそう呼んでやってーな」
「人任せかよ、おい」
鈴村さんと櫻井さんはそう言いながら別の場所に行って、先輩である二人に言われたからうんうんと頷きながらあっきーかーなんて言いながら俺を見て、首を傾げて。
そのあと俺と10秒ぐらい目をあわせたあと、貴方は笑顔で、こう言った。
「やっぱり晃君ってよぼうかな」
多分、先輩の女性声優でこんなに仲良くしてもらったのは、貴方が初めてだった。
それまで男子高校でそんなに女性と接していなかった俺としては、ほんわかとした雰囲気で世話を焼いてくるタイプの女性なんて初めてで。最初はどうやって攻略すればいいのか分かんなくて、すげー遠い場所で晃君ーーーー!!!!って叫ばれる事にも全然慣れていなかった。
「私の事も、下の名前で呼んでいいからね」
そんな言葉にもたじたじのまま、あ、はい、なんて言っていた俺でも、1年も経てばそれに慣れて。
「未祐さん」
って、きちんと目を見て笑顔で呼べるようになったんだ。
「うーん...晃君イケメンだからそんな風に言われると照れちゃうなー...」
「なんでですか。松来さんに戻します?」
「えーやだ!!折角慣れて来てくれたんだし...!!」
そう言って、これからも下の名前で呼んでね、って笑う貴方の姿は、俺は今でもすぐに思い出す事が出来るよ。
そんな俺も、新人声優と言われなくなってきた時には、最初の頃よりは仕事も増え、女性声優とたくさん絡む様になった。
「あの頃の初々しい晃くんはどこだー!!」
って、先輩達と飲むたびにそういいながら絡み酒をしてくる貴方に、周りは爆笑だったけれど、俺はたじたじだった。
実際、貴方のその笑顔に惹かれていたのは事実だったから、今だって内心ドキドキしてるのに。それを貴方が言うか、なんてよく思っていたな。
そんな貴方とあまり仕事で会えなくなった時、俺は鈴村さん達に事情を聞かされた。
「松来は今、闘病中だ」
俺、知らなくて。最近仕事合わないなーと思っていたけれど、まさか入院してるなんて思わなくて。俺はすぐに入院先の病院を教えてもらって、お見舞いに行った。
「晃君!!」
行ったときは、そんなに深刻そうでもなくて、なんだ、このくらいならすぐに退院してくれるかなって思った。
「俺知らなかったんですけど?」
「すぐに退院するから、晃君には心配してほしくなくてー」
えへへ、なんて笑いながら言う貴方に、俺はお見舞いの品を渡す。これ、好きでしょ?そう言いながら。
「流石私の晃君!!」
「誰が貴方のですか」
「だって私が初めて知り合った女性声優でしょ?」
「そうですけど?」
「じゃあ私の晃君だね!!」
「だからなんでそうなるんですかって、もう」
相変わらず天然な貴方に、俺は何も言い返す事はできなかった。
いつも笑いながら、最近どう?なんて話してくる普段通りの姿で、俺は呆れながらも笑いながら、最近こんな事があった、退院したらぜひラジオにもでて下さい、やらなんやらと。
「晃君は良い子だし、絶対売れると思ってたよ」
いきなりそういう貴方に、俺は驚きながらも何言ってるんですか?って聞いた。
「良い声だし、イケメンだしね!!」
「イケメン関係ないでしょう」
「後輩ができてからは後輩思いの良い先輩って通ってるし、今じゃ主役ばっかりでラジオのパーソナリティーもやってるし...」
指を折りながら一つ一つあげて、そしてまたその奇麗な目で俺を見てくる。
「私の目に、狂いはなかったね!!」
「え?」
「あんなにたじたじしながら私と話してた晃君はもういないけど、でもやっぱり、晃君は昔から変わらないねー」
「そうですか?」
「うん!!昔からずっと、晃君は私の可愛い可愛い後輩だよ。いつもこんな私に構ってくれて、ありがとうね」
そう言った貴方の姿は、今でもわすれない。
ねぇ、未祐さん、結婚式呼ぶから来てねって言ったの貴方でしょ。何やってるんですか。
ねぇ、未祐さん、晃君の結婚式は私絶対泣いちゃう!!って言ったの貴方でしょ。何で俺が先に泣いてるんですか。
ねぇ、未祐さん、また一緒に...お酒飲もうねって。ケーキも焼こうなんて言ったの貴方でしょ。何で俺一人で、ケーキを肴に日本酒飲まなきゃいけないんですか。
ねぇ、未祐さん、あの時俺にお礼言ったの、どうしてですか。
本当は俺が言わなきゃいけなかったのに。
どうして先に、貴方が言うんですか。
俺が今こうやっているのも、後輩思いで優しい先輩だ、なんて言われているのも、
全部、貴方の姿を見て成長したからです。
貴方の様に、皆に好かれる人になりたかったんです。
貴方の様に、笑顔の素敵な人になりたかったんです。
きっと今でも、俺の事を晃君ーーー!!って叫びながら呼んでるんですよね。
いつもいつも遠いところから叫ぶから、やっと聞き取れるようになったのに、また随分と遠い所から叫びやがって。
あんたどんだけ天然なんだよ、気づく訳ねーだろ、ばーか。
それでも俺は、一人でケーキをつついて、日本酒の入った瓶を傾ける。
目の前には二つのお猪口。一つにはなみなみと注ぎ、もう一つは自分で飲み干して空のまま。
「はぁ....」
ため息もでるわ。だって聞こえねーんだもん、あんたの声。
その俺を呼ぶ声に、気づくのは多分ずっと先だろうけど、すねたりしないで、また笑顔で俺の事待っててよ。
俺が結婚したら空の上で号泣でもしてて。
自慢のお嫁さん見せびらかしてやるから。
だから今だけは、せめて今だけは。
あんたを思って泣かせてくれ。
「ありがとうございました...!!」
一人寂しく飲む酒は、やっぱりどこか悲しくて
味なんて、分かったもんじゃなかった。
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