1.


今日も、例年と違わずに俺は花束を持ちながらお墓に向かった。松木家乃墓と書かれた墓石の前に座り込み、俺は両手を合わせて目を閉じる。

未祐さんが亡くなって、もう四年も経つ。俺は未だに彼女を忘れる事が出来ていない。いや、忘れる事なんてこの先も絶対にないのだけれど。

「さて、と」

食べる事が大好きだったあの人は、よく俺を急に呼び出してはここ行きたいあそこ行きたいとわがままを言っていた。
俺はそれをふと思い出して、そんな事もあったなと小さく笑いながら紙袋の中に隠してあった大福を取り出した。

「いちご大福。よく食べたいって言ってましたよね」

何か食べた帰りとか、彼女を家に送る時とかに寄ったコンビニで、いつもあの人はいちご大福を俺にねだった。

『晃くん、いちご大福食べたくない?』
『はいはい、買いますよ』

一つ100円のあの、ピンク色のいちご大福。あれを見るたびに、俺は買う癖がついてしまって。出演が重なったりする時があれば、俺はそれをいつも渡していた。

『ほら、いちご大福』
『さっすが晃君わかってる〜!』
『いちご大福好きすぎでしょ』
『晃君が買ってくれたものはもっと好きだよ』
『…あっそ』

素直じゃない俺は、そんなあの人の言葉をいつも素っ気なく受け止めていたっけ。

パックから取り出した大きなイチゴの入った大福を、そっと取り出す。デパ地下で買ったそこそこに良いところの大福だ。未祐さんのために奮発して買ってきた。まぁ食べれない彼女の為に俺が食べるわけだけど。

「…あっま」

あんこもたくさんに入ったそれは、一口頬張ればすぐに甘さが口に広がった。もぐもぐと口を動かして咀嚼する。あの人のために買ったいちご大福は、いつも甘かった。

『はい、晃君。一口あげる』

彼女はそう言って俺に最後の一口をいつもくれた。それがいつも甘くて、しかめっ面をしたのを覚えてる。それを見ながらおかしそうに笑う未祐さんの笑顔が、俺は無性に愛おしくて大好きだった。

「未祐さん、俺はどうしても貴方のことが忘れられないです。どうしたらいいですか」

答えてくれるわけでもない墓石に向かってただ淡々と俺はいう。演技者だというのに、その言葉に感情なんてものは一つも乗せられなかった。仲間がどんどん結婚していく中、ただ一人俺だけ置いていかれてる。そんな気がしてならなかった。

「未祐さん答えてよ。未祐さん、あんたが好きだった」

誰に問うでもない、誰かが応じてくれるわけでもない。お墓参りにしてはシーズン外な日に墓地に人がそんなにいるわけでもなく。俺は目に涙をためて訴えた。

俺はどうしたらよかったですか。

手に持ってるいちご大福に涙が落ちる。無理やり口に含んだそれをもぐもぐと口を動かして喉に押し込んだ。
甘いんだかしょっぱいんだかわからない味がしたが、今はそれを飲み込むことしか出来なかった。


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