紅い


 スクアーロはコーヒーの香りに目を細めた。たっぷりと濃く淹れられたエスプレッソは真っ黒だ。それに映る自分の銀の髪を見たところで、ちらりと自分の真正面に座っている女へ視線を向けた。幼いころは短くしていたその髪は長くなり、いつの間にか彼女の母――いや、彼女の前の姿とほぼ同じ長さになっていた。もしかすると、それよりも長いかもしれない、と思っているとくるり、と彼女が振り返る勢いに合わせて赤い髪が舞う。
「なぁに? ルビちゃん」
「……いや。髪、伸びたなぁって思っただけだぁ」
 アレスは指に赤い髪を絡ませた。
「そうね、伸びたわ」
 キレイでしょ、ルッスーリアが教えてくれたシャンプーすごくいいの、とその年頃の少女らしい笑みを浮かべて、しかしながらそれよりも幼い子どものような仕草でスクアーロに擦り寄った。しかしながら発育ばかりいいその体は確かに女のものに変わっている。――そう、あの頃の"アスナ"のような表情を、仕草を、言葉が。
「――似てきた?」
 マーマに。
 核心付いて聞いて笑ってくるアレス――いや、アスナか。スクアーロはコーヒーカップを握りつぶしそうになるのをこらえながら、そうだなぁ、と少し適当に返事した。
「でもね、マーマみたくしたくて伸ばしたわけじゃないし」
「あ゛?」
「――ルビちゃんとおそろいだもん」
 愛おしそうに指に通った髪をさらさらと流していき、スクアーロに見せる。紅い長い髪はまるであの頃のような、しかしながらあの頃とは確かに違う髪がスクアーロの目に焼き付いていく。炎を映したような髪の毛が美しい。スクアーロはしばし呆然とその炎を見つめた後、にぃと笑った。
「そうかぁ」
「そうよ」
 ちゅ、とスクアーロの頬に触れたアレスの唇。
 きっとそれはあの頃ではできなかった、二人の夢だったのかもしれない。

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