シュガートースト
アスナは記憶を喪う前も、失った後も甘いものが好きだ。
昨日、アスナと喧嘩をしてしまった。ほんの些細な、小さな喧嘩だった。記憶を失ってもなお、彼女の自我は消え失せず、それは良いことなのだが、少しずつ経験を積んで、新たな自我を芽生えさせる彼女は外へ、外へとその意識が向いていく。――怖い。彼女を守り通せるのならいい。だが、最終的にはいつも、彼女は記憶を失ってしまう。これまでのことも全て忘れて、また、最初からやり直し。それを繰り返してきたせいで、クラウスは外へ意識が向いていたアスナに、久しぶりに声を荒げてしまった。
それを見ていたギルベルトからの、ほんの些細な仲直りのきっかけであった。
「……甘い」
さく、とシュガートーストをかじったアスナが呟いた。近頃は声も出てくるようになった。それまで無言だった食卓には小さな穴が開いたように、クラウスが目を見開いた。
「……おいしいだろうか」
「…………うん」
小さく頷いた。
クラウスは微笑ましげに頬を緩めた。アスナは少しだけ気恥ずかしくなり、目線をそらしながらシュガートーストをさくさくと食べ進めていく。カリカリとした砂糖の焼けたところと、パンのふわふわがマッチしてとても美味しい。クラウスにはストレートの紅茶、アスナには砂糖の入ったミルクティーだ。
静かにアスナはトーストを置くと、小さく呟いた。
「……ごめん、ね」
「…………いや、私もすまなかった」
君の自由を尊重すべきだったのに。
この歳になってこんな形でしか謝罪できないのが心苦しいが、きっかけがあってよかった。
静かに見守っていたギルベルトが微笑ましそうに笑った。