紅い糸は途切れない
恋をしました。運命の恋だと思いました。
だけど、私にその人を思う資格はありませんでした。
「久しぶりね、クラーウス」
アスナは密やかに微笑んだ。夜半になれば眠る彼の傍ら、ベッドに腰掛けながらアスナはその硬い髪を撫でる。幼いころに出会った彼からは随分と変わっていて、大人びた精悍な男性になったクラウスに改めて恋をし直す。ああ、なんて素敵な人なのだろう。
――久しぶり、というには彼女は毎日、クラウスに会っている。
記憶喪失の状態で。だから、久しぶり。
彼には、もう随分と会っていなかった。寂しいという思いはあるがしかしそれでも今の道を間違っているとは思わないから、このままだ。だって、こうでもしなければ自分は彼とともに一緒に過ごしていけない。引き離されるだけなのが目に見える。それだけは嫌だった。
「愛してるわ、クラウス」
傍にいて、記憶を失っていてもわたしを愛していてなんて、何て身勝手な女なんだろう。
唇でそっと彼の額に触れた。
夜明けがくれば、きっとまたアスナは記憶を失っていて、いつもどおりの日常が始まるのだ。ほんの一瞬、何かの力のたわみが起こったときだけ、アスナはこうやって記憶を取り戻していられる。何事も起きなければいい、ただ、この閉鎖的な世界で彼と一緒にいられるのならそれだけで幸福だった。
(身勝手な、私をどうか許して)
(世界を顧みない私を貴方は許さないのでしょうけど)
手を握った。
大きくて、強い手。世界を救う手。世界のために使われる手。
大好きな、手。
(大好き、愛してる、クラウス)
――さよなら。
「おはよう、アスナ」
クラウスの手が寝ぼけアスナの額を撫でた。
ぱくぱく、と声にならない声を発する口がおはよう、と動いた。
柔らかく微笑んだ、アスナとクラウスの一日が今日も始まる。