溶け出す甘さ
ほい、と差し出されたのは割り箸。その先に飴がついているようだった。原田はしばしそれを凝視して、それを手に持っている小柄なマネージャーへ視線を向けた。
「水飴」
「水飴?」
どこでそんなもん用意したんだ、と言えば、稲実の近くの駄菓子屋さんだよ、とへらり、と右京は笑った。割り箸を受け取って、口に入れると水飴特有のほのかな甘味が口に広がる。過酷な練習の合間の糖分は実はありがたい。
「買い出しの帰りに麦芽水飴売ってるのみかけてさ。麦芽水飴って吸収早いし、鳴のご機嫌取りにもいいかなって」
「甘けりゃいいってもんじゃねえだろ」
「アイスを練習の途中で与えたら、体が冷えるよ」
「まあな」
でも、と右京は笑う。
「後でみんなの分、ひやしあめ作ってあげる」
「ひやしあめ?」
「これをお湯で溶かしてしょうがを入れて、つめたーく冷やして飲むんだよ。ちょうどよく甘くておいしいよ」
水飴が割り箸からなくなったせいか、独特な木の味がする。口からそれを離すと、捨てておくよ、と手を差し出されたので素直に渡しておく。練習の中盤でおそらくそのひやしあめを飲むことができそうだ。代わりにと差し出されたスコアブックは練習で行った紅白試合の結果だ。
「みんな、疲れてるだろうしね。監督には許可もらってるから」
――懐かしいな、だって。
「んじゃ、用意してくるね」
「ああ」
「おにぎりとかも用意しておくから、楽しみにしてて」
おう、とスコアブックを見ながら返事した原田に右京は笑顔を向けた。頑張れ、と小さく呟いた言葉はフィールドの声や、バッドの音でかき消されてしまったような気がする。ま、いいか、とくるり、と振り返って諸々の準備のために一度寮を目指す。
(喜んでくれたらいいなぁ)
できることは少ないけど、せめて君たちのためにできることを。