書き終わらないノート


「悪ぃな、待ってもらって」
「いいよ、別に。つーか、黒板の上は手が届かない」
 日直ってめんどくさい。野球部は朝練が早くに終わるわけではないし、放課後も日誌書いたり、黒板綺麗にしたりとか色々大変だ。できるなら、自分の番が来たらパートナーに押し付けたいが、今回、そのそんな役回りは原田の元へやってきたのだった。パートナーの女子が具合悪くて、見かねた原田が早く帰れ、と送り出したのが十分前のこと。(うちのクラスでは担任の意向で、男女ペアで日直をさせられる)野球部の練習は十六時三十分から、まだ少しゆとりがあるが、早めに日誌を書いて提出したほうがいい。
「上の方は俺が消すから置いといてくれ」
 お前じゃ届かないのは予想できてた。という原田は困ったように笑っている。黒板の上の方は小柄な右京では絶対に届かないし、背伸びしてもかすりもしない。それに比べて背丈もあれば筋肉もある原田なら問題なく届くだろう、とあっという間に右京は諦めて黒板消しをチョーク受けの上に置いた。
 原田の前の席を陣取るとそこに腰掛けて、ぼんやりと彼を見る。意外とマメなタイプで部の活動日誌もきちんと各タイプだとしっているので、日直の日誌もちゃんと書いているらしい。顔をしかめながら、書く内容を考えているのだろう、時折シャープペンの動きが止まる。夏の入りかけ、夕暮れにはまだ少しばかり早くて、でも少しずつ教室がオレンジ色に変わっていくのが少しだけ寂しい。
(まだ、終わらなければいいのに)
 ずっと。
 ずっと一緒に居た。子供の頃から、幼稚園、小学校、中学校――そして、高校。ふと隣を見れば原田がいてくれた。きっと彼にとって、自分はただの幼馴染なのかもしれないけど。
(知らないでしょ、雅)
 小さな体を丸めて、椅子の上に体育座りした。膝の上に頬を乗せて、原田を眺める。
(こんなに俺が貴方のこと好きだなんて)
 きゅう、と心臓が苦しくなるような思い。いつからだったか、もう思い出すのも遠いのだけれど。右京がぼんやりと原田を見つめていると、たまたま顔を上げた彼と目があった。
「なんだよ」
「べっつにー。相変わらず、字が汚い」
「うるせぇ! 読めりゃいいだろうが」
 こういう小さな言葉のやり取りが。
 ぐしゃぐしゃに掻き回される髪の毛を撫でる大きな手。
「終わったから行くぞ」
「ん」
 すごく好きだって言うことは、私だけの秘密なんだ。

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